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第13話

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「で、結局あんたが隠していることってなによ。 次シラを切るようなら私の神器が唸るわ」

 雫は腕を組み、正座しているというよりさせられている才華に言った。
 才華はアッパーカットを食らって空に打ち上げられたあと、自業自得というかなんというか、正座をするようにと雫から命令を受けていたのだ。
 それに従順に従うのはきっと、雫が恐ろしかったに違いない。
 震えている才華を見ればそれは分かるだろう。

「才華さん因みに私も忘れないでくださいね? バーンと火を噴いちゃうかもしれませんよ? 」

 美鈴は手で銃の形を作って才華に流し目を送る。ふっと息を人差し指に吹きかけるその動作はとても色っぽいものだ。才華はそれに一瞬見惚れた。
 だが頭を振ることで、気を取り戻した。

「……わかりましたよ。言うよ。言えばいいんだろ 正直に言うと神器と加護のことについてなんだ」
「ん? それはどう言うこと? なにか不都合でもあるの? あっ! もしかして結構弱かったり……」

 雫は立て続けに才華に質問したが、そのうちになにか気づいたようにハッとなった。
 顔を気まずそうに逸らす。
 申し訳無さが見え隠れする表情はとても絵になっている。
 才華が案外弱い能力をもらって、言いにくくなっていると思っているようだ。
 しかし、雫の考えは間違っていたらしく才華は首を横に振る。

「いや違う、むしろその逆だ。 強すぎるんだよ、俺の神器と加護が 」

 『強すぎる』才華の口から出てきた言葉は、雫の考えていたものと全く逆のものだった。
 雫と美鈴の神器、加護の説明を聞いてなおそれを言うということはどれほどのものか想像がつかない。
 雫と美鈴はゴクリと喉を鳴らす。

「そ、それって一体どんなものなの? 気になるわ 」
「才華さん、教えてください 」
「ああ、分かった けど一応言っておくが引くなよ? 絶対に引くなよ?  あ、これ振りじゃないから 」

才華は自分で言ってとある3人組を思い出し、慌てて修正した。
雫と美鈴がそれを聞いて呆れ顔になってきたのを見た才華は、せきばらいをする。

「おっほん! とにかくまあ話すぞ。 まずは黒い鎧という点についてはお前らと一緒だ。なにも変わらない。でも神器と加護がな~ 

 まず神器だけど俺は7つ持っているんだ。
 そのそれぞれが雫と美鈴の神器と同じ位性能が高い。
 例えば魔獣と戦っていた時にやったあれは任意の場所に好きなだけ槍を降らせることが出来るというものだし、消すことは自由自在。

 そのコストは俺の魔力で賄うらしいけど、美鈴と同じく加護で魔力を大量に付与されているからこんな制限ないも同じだ。

 加護は雫と美鈴を足して掛ける2倍したような感じ……ほら、『強すぎる』だろ? 
 だから言いだしにくかったんだよ。分かってくれたか? 」

 雫と美鈴は才華の話を聞いて、なぜ才華がこう言った行動をしたのか納得した。
 おそらく才華は自分の神器、加護がとんでもないものとは知らずに『神器の確認しようぜ! 』と言ったが、自分たちのものについて聞いて『あれ? これってなんだか自慢するために切り出したみたいじゃないか? は、恥ずかしっ! 』と思ったのではないかと。

「はぁ、あんたもしかして、恥ずかしいから隠そうとしてたわけ? 呆れてものも言えないわ 」

 雫は額に手を当てて、ため息を吐いた。美鈴はその雫の肩に手を置きこれまた、ため息を吐く。

「雫さん、才華さんはこういう人なんですよ。どこか抜けていて、子供っぽくて、見ているこっちをハラハラさせるようなことを笑いながらやるんです。昔から大人たちに頭のぶっ飛んだ変人と言われていたくらいですから 」
「ああ、昔からそんなんだったのね、才華は。今も昔も変わらないわね~ 実は私、学校の授業で剣道をやっていた時に、才華と試合で当たったことがあったんだけど、物の見事に負けた事があるのよ。その時なんて言ったと思う? 」
「なんて言ったんですか? 」
「『面白くない』ですって。こいつインターハイで準優勝した私が弱すぎて面白くないって言ったのよ 」

 美鈴はまあ! と口に手を当てて驚いた。才華はなにやら話が脱線し始めている2人の会話を聞いて、そんなことあったっけ? と首を捻っていたがこれは本当の話だ。
 試合形式の練習をしていた時にたまたま、才華と雫がペアになり、戦った事がある。

 全ての授業に対して、寝るかもしくはサボっているのにも関わらず常にテストでは全科目満点。教師が思わず唸ってしまうような回答をする、そんな普段ボケーっとしている才華と剣道インターハイ準優勝の経験を持つ雫の試合は全生徒の注目の的となった。

 どちらかが勝つかという予想が飛び交う中、才華は対戦相手が『強い』ということを聞き、”楽しそう”と戦った結果、才華の完勝。
 その時、雫にかけた才華の言葉が、『まったく面白くない』だ。この言葉は、これまで雫が積み上げていたものを壊すには十分なものだった。
 それをきっかけに雫は才華を最悪なライバルとして見始めたのだが、その話はまた別の機会に。

 それはともかく、才華はあらぬ方向に脱線し突き進む雫と美鈴に話しかける。

「おーい お二人さん、色々と話しているところすいませんが、全員の神器と加護の説明も終わったことだし、そろそろ飯にしないか? 」

 才華は自分のことをべらべらと話されることに、恥ずかしさを感じたのか、『ご飯』といういま1番影響力を与えるであろう言葉で、話をそちらの方向に持っていくつもりのようだ。

「ご、ご飯!? そうね! そうしましょう! 賛成! 」

 雫はまんまと才華の罠にハマって、ピシッ! と手を高々と挙げた。
 ニヤリ、そんな効果音がつきそうな笑みを、してやったりと才華は浮かべた。
 しかし、その笑みをすぐに引っ込めて美鈴に視線を移す。

「美鈴は? 」
「私も賛成よ。 でも……」

 美鈴はそこで言葉を切って才華の耳に口を近づけた。

「雫さんで遊ぶのも大概にしなさい 」

 耳にかかる生暖かい息をくすぐったく感じながらも、才華は先ほどの笑みとは違った苦笑いを浮かべた。

「ばれてた? 」
「ばればれ、雫さんは気づいていないようだからいいけど、少し乙女心というものを学んでちょうだい。雫さんのためにも私の為にもね 」

 美鈴はポン才華の肩を叩いて、離れ『ご飯』という言葉に興奮している雫に歩み寄って行った。
 因みに、男が言われたらコロっと行ってしまうようなセリフをかけられた才華はというと、美鈴に叩かれた肩に手を置いて呆然と立ち尽くしていた。
 目には光が宿っておらず、顔から感情というものが抜け落ちている。まるで、人形を思わせるその異様な才華に雫と美鈴は幸か不幸か気づいていないようだ。

「心なんてくだらない 」

 ポツリと風に流されてしまいそうな程、小さな声で呟かれたそれは誰にも聞かれることはなかった。
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