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第7話
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木造りの無骨な家具が揃えられたシンプルな部屋にひとりの女性が入ってきた。その女性は手に大量の紙を持っている。
「院長、今年の子供達の書類を持ってきました」
「すまないね、ほらお茶でも飲みなさい」
「あ、ありがとうございます」
机に大量の紙をどさっと置いた女性にこの部屋の主である老婆が座るように促しながらお茶を勧めた。その勧めどうり座った女性はひとしきり啜った後コツンとコップを置いてから口を開く。
「それにしても今年は凄いですね。イージス行きが2人も出るなんて当院始まって以来の快挙です」
「そうだねぇ、ルークくんとクロエちゃんだったね」
「はい、ルークくんは予め聞いていましたが、まさかクロエちゃんまでとは……2人とも仲良しですし、いいコンビになると思います。ああゆうのが将来英雄になるんですかねー」
ホッと息を吐き、上気した表情の女性に老婆は呆れた表情になる。
「本の読みすぎだ、と言いたいところだけど気持ちは分かるよ」
「そうですよねっ! ルークくんなんてどんだけ頭いいんだって言いたくなりますものっ! それに『んんっ! 』すいません……」
女性は自分でも流石にはしゃぎ過ぎたと思ったのか先程とは別の意味で顔を赤くした。薄っすらと赤い顔はゆでだこを思わせる。
「はぁ、そういうところ直した方がいいよ。私たちの仕事で感情的になるのはご法度だからねぇ。まあ、やり過ぎると大変な事になるから加減が難しいんだけどね」
「……すいません」
「いいのよ分かってくれれば。でもそうだねぇ、ルークくんの成長スピードは異常としか言えないかな。処分について気づいている節が見られるからね」
「えっ!? そうなんですか!? 」
老婆の口から出た衝撃の事実に女性は思わず勢いよく立ち上がって、膝を打ってしまった。
あまりの痛みに涙目になるが、それ程驚くべきものだったのだ。
処分については16歳未満に絶対に知られてはならない事になっている。もしそれを破って教えたり、過失で知られてしまった場合秘密を知った子供ごと処分されてしまう。
つまりルークが処分を知っているということはルークごと誰かが処分される事になるのだ。それらのことが脳裏を掠め顔を真っ青にさせた女性に老婆は堪えられなくなったのかクツクツと笑みをこぼす。
「安心しなさい、別にこのことを報告するつもりはないさ」
「そ、そうですか。よかった……でもどうしてですか? 」
ホッと胸を撫で下ろした女性は糸が切れたようにどさっと座り直して気になったことを尋ねた。
「それは色々と理由があるけど大きく言って3つ。1つ、あの子自体がすこぶる有能なこと。ここで処分してしまっては人類の最大の損失になる。2つ、この事に関してバラす様子がないこと。監視をつけていたけど、その兆しは全くと言ってない。恐らくは危険と判断して言っていないんだろうね、賢い子だよ。3つ、私たちの保身の為さ」
「保身ですか? 」
「ああ、これほどの人材を処分したとしてただそれだけで済むと思うかい? そんなはずが無い。必ず罰がくるよ、よくて処刑ってところだね」
老婆の言葉を聞いて女性は再び顔を青くさせた。それ程とは想像にもしなかったのだ。
これではルークの命と自分たちの命は一蓮托生と言ったほうがいいだろう。
ルークが処分されれば芋ずる式に全員の命がなくなるなんて笑い話にもならない。
「っとこんな訳でこのことを上に報告するつもりは無いのよ。あなたも命が惜しければ秘密でお願いね」
老婆は壊れたおもちゃのように頷く女性に満足したのか立ち上がり、窓へと歩み寄る。
そこには元気に遊び回る子供たちの姿があり、件のルークが鬼ごっこに興じていた。その無邪気な姿に思わず笑みが零れる。
老婆はなぜ自分が女性にルークが処分のことについて話したのかわからなかった。熱く語る女性につられていつの間にか話してしまっていた。
もしかしたら昔読んでいた英雄譚に出てくる主人公とルークを重ねて年甲斐もなく興奮してしまったのかもしれない。それ程までにルークは異質で特別だった。
枯れた心に1つの灯火を宿す程に。それは小さくとも熱く、重さを感じさせる炎で冷え切った血液を温めていく。ーーこれは希望だ。こんな老婆がという思いを押しのけてどんどんと体を満たして行った。
「人類を頼んだよ」
ぽつりと呟いたその声は誰にも聞かれることはなく、空気に溶けていった。
「院長、今年の子供達の書類を持ってきました」
「すまないね、ほらお茶でも飲みなさい」
「あ、ありがとうございます」
机に大量の紙をどさっと置いた女性にこの部屋の主である老婆が座るように促しながらお茶を勧めた。その勧めどうり座った女性はひとしきり啜った後コツンとコップを置いてから口を開く。
「それにしても今年は凄いですね。イージス行きが2人も出るなんて当院始まって以来の快挙です」
「そうだねぇ、ルークくんとクロエちゃんだったね」
「はい、ルークくんは予め聞いていましたが、まさかクロエちゃんまでとは……2人とも仲良しですし、いいコンビになると思います。ああゆうのが将来英雄になるんですかねー」
ホッと息を吐き、上気した表情の女性に老婆は呆れた表情になる。
「本の読みすぎだ、と言いたいところだけど気持ちは分かるよ」
「そうですよねっ! ルークくんなんてどんだけ頭いいんだって言いたくなりますものっ! それに『んんっ! 』すいません……」
女性は自分でも流石にはしゃぎ過ぎたと思ったのか先程とは別の意味で顔を赤くした。薄っすらと赤い顔はゆでだこを思わせる。
「はぁ、そういうところ直した方がいいよ。私たちの仕事で感情的になるのはご法度だからねぇ。まあ、やり過ぎると大変な事になるから加減が難しいんだけどね」
「……すいません」
「いいのよ分かってくれれば。でもそうだねぇ、ルークくんの成長スピードは異常としか言えないかな。処分について気づいている節が見られるからね」
「えっ!? そうなんですか!? 」
老婆の口から出た衝撃の事実に女性は思わず勢いよく立ち上がって、膝を打ってしまった。
あまりの痛みに涙目になるが、それ程驚くべきものだったのだ。
処分については16歳未満に絶対に知られてはならない事になっている。もしそれを破って教えたり、過失で知られてしまった場合秘密を知った子供ごと処分されてしまう。
つまりルークが処分を知っているということはルークごと誰かが処分される事になるのだ。それらのことが脳裏を掠め顔を真っ青にさせた女性に老婆は堪えられなくなったのかクツクツと笑みをこぼす。
「安心しなさい、別にこのことを報告するつもりはないさ」
「そ、そうですか。よかった……でもどうしてですか? 」
ホッと胸を撫で下ろした女性は糸が切れたようにどさっと座り直して気になったことを尋ねた。
「それは色々と理由があるけど大きく言って3つ。1つ、あの子自体がすこぶる有能なこと。ここで処分してしまっては人類の最大の損失になる。2つ、この事に関してバラす様子がないこと。監視をつけていたけど、その兆しは全くと言ってない。恐らくは危険と判断して言っていないんだろうね、賢い子だよ。3つ、私たちの保身の為さ」
「保身ですか? 」
「ああ、これほどの人材を処分したとしてただそれだけで済むと思うかい? そんなはずが無い。必ず罰がくるよ、よくて処刑ってところだね」
老婆の言葉を聞いて女性は再び顔を青くさせた。それ程とは想像にもしなかったのだ。
これではルークの命と自分たちの命は一蓮托生と言ったほうがいいだろう。
ルークが処分されれば芋ずる式に全員の命がなくなるなんて笑い話にもならない。
「っとこんな訳でこのことを上に報告するつもりは無いのよ。あなたも命が惜しければ秘密でお願いね」
老婆は壊れたおもちゃのように頷く女性に満足したのか立ち上がり、窓へと歩み寄る。
そこには元気に遊び回る子供たちの姿があり、件のルークが鬼ごっこに興じていた。その無邪気な姿に思わず笑みが零れる。
老婆はなぜ自分が女性にルークが処分のことについて話したのかわからなかった。熱く語る女性につられていつの間にか話してしまっていた。
もしかしたら昔読んでいた英雄譚に出てくる主人公とルークを重ねて年甲斐もなく興奮してしまったのかもしれない。それ程までにルークは異質で特別だった。
枯れた心に1つの灯火を宿す程に。それは小さくとも熱く、重さを感じさせる炎で冷え切った血液を温めていく。ーーこれは希望だ。こんな老婆がという思いを押しのけてどんどんと体を満たして行った。
「人類を頼んだよ」
ぽつりと呟いたその声は誰にも聞かれることはなく、空気に溶けていった。
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