ワールド・オブ・ランク

NTIO

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第22話

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 ユリアがルークに衝撃的な事実を告白してから数日立って入学式の当日を迎えた。
 学生たちが寝泊まりをしている寮の前には真新しい制服を着込んだ子供たちが緊張の面持ちで整列している。
 彼らはこれから入学式を行う講堂に行くため、クラスごとに整列しているのだが、その中で他の子供らとは真逆のツラ構えをした者が列の1番左端にいた。ーールークである。

「ふぁー」

 ルークは口に手を当てながら大きな欠伸を漏らす。
 それに周りからはぎょっとしたような顔を向けられているが本人は気づいているのかいないのか、素知らぬ顔をして軽く流すと隣で他に漏れず緊張をありありと滲ませたクロエへと目を向ける。
 目の下に大きなクマを作り、眠そうに半分閉じられている目を見れば彼女が昨日眠れなかった事は明白だ。
  まあ、ルークは同じ部屋なので夜遅くまで隣でゴソゴソとしていたのは気づいていた。
 「遠足前の小学生か! 」と心の中で突っ込んだ後、「あ、小学生か」と納得したのは記憶に新しい。

「クロエ眠いのか? 眠いんだったら少しだけ目を閉じていてもいいんだぞ? 支えてやるから」
「……うん、ありがとルークくん」

 両腕を広げて笑顔を浮かべたルークにクロエはよたよたとしたおぼつかない足取りで歩み寄りボフッと体を預けた。
 それを見た周りからは再びぎょっとした顔を向けられ、「なにしているんだ」と訴える教師の目線に晒される。
 流石にこれにはルークでもやり過ぎたかと思い至ったのか気まずそうに目を逸らした。

 食堂で起こった俗に言う変態幼児事件はあらかたルークは無罪だと広まったものの、直で見ていた少数の教師が流石にこれは嘘だと気付いたらしくここ数日監視するような目を向けられていた中で今回の行動は軽率だったか。

「ちょっとルーク、列を乱しちゃダメでしょっ! クロエちゃんはいいとしてあんたはダメっ! 」
「朝から変態行為ですか、しかも晴れある入学式当日に……舐めているんですね」

 ルークが体にかかる心地よい重さと鼓膜を叩く可愛らしい息遣いに心を癒しながらクロエの頭を撫でていると、後ろから周囲の心の声を代弁したような厳しいお言葉と棘を多分に含んだ凶器の如し口撃が飛んできた。

 振り返ってみるがやはりというか、エルとユリア。
 2人はこの数日間一緒に遊んでいた時とは違い、エルは髪を後ろに1つで括り所謂ポニーテイル、ユリアは髪型はそのままなもののちょっとした髪飾りをつけるというオシャレをしていた。
 気合が入っているようだ。

「おいユリア、これの何処が変態行為だって言うんだ。どう見ても同年代の幼児が支えあっているようにしか見えないだろうが。人と人は支えあって生きているって知ってる? 」
「ふっ、なにを言っているんですか。あなたが行えば如何なる微笑ましい光景でも淫靡な光景にしか見えません。無論クロエちゃんは別ですが。よかったですね、クロエちゃんという浄化天使がいてくれて。でなければあなたは既に直視を禁止される危険物です」
「だれが全身モザイクだ! 」

 ルークとユリアは肩越しに視線で激しい火花を散らす。
 俄かに怪しい雰囲気になり始めた2人になにを言っているのか分からないながらも危険という事は察知したようで近くにいた子供たちは身を引いた。

 ルークとユリアの2人はあの日からお互いに遠慮なく口撃をかわし合うようになった。
 それはルークがユリアにはそれが通じると認識したことと彼女の素が強烈なものだったからというのが理由としてある。
 ほかには審査する側だということもあるのかもしれない。

「ユリアとルークは随分と仲良くなったわね。私が知らないところでなにがあったのかしら
 ? 」
「「仲良くなってない! 」」

 2人を見て腕を組みながら頷いたユリアにルークとユリアの2人が声を揃えて反論した。
 その息の合い方を見れば仲がいいと思われても仕方ないのだが、本人たちは気づいていない。まあ、きづいたとして認めはしないだろうが。

「おお、やっていますね。相変わらず仲のいいことです。そうは思いませんか? イリエラさん、マルコさん」
「そうですね、仲がいいことはいいことです」
「まあ、それも今のうちだけどな」

 ルークとユリアの2人が激しい視線の応酬をしていると、イリエラとマルコの2人の研修生を伴ったエイリヒが笑顔で姿を現した。
 相変わらずエイリヒの口は絶好調のようで、軽く口を叩いた後2人に同意を求める。
 それにイリエラは頷いて答え、マルコはニカッと笑って意味深なことを言った。
 エルはどうやらそれが気になったらしく首をかしげて尋ねる。

「マルコ先生それはどういう意味ですか? 」

 若干声に怒りが込められている気がしないでもない。きっとユリアとルークの仲がすぐに終わるとでも言われたとでも思っているに違いない。
 まあ、マルコの言い方はそう捉えられて仕方なかったのだが。

「ああいや、決して悪い意味で言ったんじゃないぞ? その、な? 年を取るにつれてというか、大人になるにつれてというかとにかく学年が上がるにつれて純粋な男女の友情というのは育めなくなっていくんだって言いたかったんだ」
「ん……ん? 」

 マルコは手を横に振り必死に弁明するが、エルはよくわからないのか首をかしげて頭の上にクエッションマークを浮かべていた。
 それも仕方あるまい、純粋な子供であるエルがマルコの言っていることを理解するのは少なくとも数年単位で先のことだろう。
 しかしここにそれを理解できる稀な子供が存在した。勿論、ルークとユリアだ。

「マルコ先生、まさか俺とユリアがそういう仲になるとでも言いたいんですか? 」
「っ!? ルーク、まさかあなた私に精神的ダメージを与えようとしているのではありませんよね? 」
「ほら、ユリアがこんなに精神的苦痛をしいられているじゃないですか。しかも、俺も地味にかなり心を抉られているんですけど、如何するおつもりか! 」

 口元を押さえて吐き気を堪えるようにまゆを顰めるユリアにルークは涙目になりながらマルコに訴えた。
 その声は胸にクロエを抱いているからかとても小さいものの言葉の通りおもわず聞いている側も涙目になってしまいそうなほどな悲痛な気持ちが込められている。
 今ここで泣いてしまおうか……。

「如何するおつもりかなんて言われてもな……なんかすまん。ていうか2人ともさっきのこと理解できたんだな。てっきりできないものだと思っていたんだか」

 頭をぽりぽりと掻きながら申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べたマルコ。
 その頭をイリエラが叩いた。顔にはありありと怒り浮かんでおり、「何言ってんの! 」と聞こえて来そうだ。

「あなたはなにを生徒の前で言っているのですか!? バカなんですか? バカなんですよね? いいえあなたはバカです! 」
「断定するなよ……」

 ピシッと指を突きつけてまくし立てるように罵るイリエラにマルコは頭を抑えながらションボリとしてしまった。まあ、自業自得なので同情の余地はないが。

「ちょっと来なさい! 」
「あ! おい! 」

 イリエラは自分より遥かに上にあるマルコの胸ぐらを掴んでルーク達生徒の列から距離を取るように歩き出す。
 マルコはそれに抵抗しているようだが無意味らしくあっさりと連れて行かれてしまった。

 ルークが一連の出来事にあっけに取られていると、遠くからやれ教師とはなんたらとか人としてどうたらとといった単語が聞こえてくる。
 どうやらマルコはかなりのお説教を同じ研修生のしかも同級生から受けているようだ。
 見た目強大な大男が平均的な身長より高いとはいえやはり女性のイリエラに叱られているのはなんとも不思議な光景である。
 ぶっちゃけて言えばかなり面白い。

 ルークをはじめとしてユリア、他の教師諸君、そしてやはりというべきかエイリヒが笑いをこらえていると気持ち体が小さくなったマルコを連れたイリエラが戻ってきた。
 お説教は終わったらしい。

「ルーク君ごめんね? このバカアホのせいで……でも悪気はないのよ。だから蔑まないであげて? 」
「おい、なんか罵倒用語が増えている気がするんだが」
「あなたは黙ってて! 」
「はい……」

 イリエラは戻ってくるなり頭を下げた。バカからバカアホに進化した罵倒にマルコが思わずといった具合に突っ込んだが、空を飛ぶ鳥をも落としそうなギロリという眼光で睨みつけられて黙らされる。
 恐ろしい……。

「い、いえいいですよ。私がかなりませているだけですから……」

 散々な言われようなマルコに同情したのか手を横に振って気にしていないと伝えた。口調が敬語なのは先ほどのイリエラの眼光が忘れられないからに違いない。

「そうですマルコ先生は悪くはありません、全ては諸悪の根源たるルークのせいです。先生を責めるのは丘と違いかと」

 ユリアはルークに続き、サッとルークを指差してそう言った。
 どうやらユリアはルークをとことん攻め立てたいようだ。

「おい、意味がわからんぞ。どう見ても俺が被害者だろうが」
「おや、お前の罪は俺のもの、俺の罪も俺のものじゃなかったのですか? 」

 なにそのドMジャイアニズム。

「俺はいつからそんな聖人君主になったんだ……」

 ルークは心の中でツッコミながらもゲンナリとした表情を浮かべた。
 ルーク自身はそんな精神は持ち合わせてはいないし、どちらかと言えばお前の罪は絶対にお前のもの、俺の罪は極力擦りつけたい派だ。
 それを「あなたそうでしょ」とばかりに言われればそんな顔の1つするだろう。

「いいえ、そっちの意味ではなくドMという意味です」
「……」

 砲弾のように解き放たれたユリアの言葉にルークは黙り込んだ。
 いや、分かってはいた。ユリアがそういう意味を込めて言ったのではないということは。
 分かってはいたがいざ面と向かって言われると心に来るものがある。
 もはや俺の心はズタズタだ。

「さて、ルーク君の心が木っ端微塵に粉砕されたところでそろそろ出発するとしましょう。時間です」

 エイリヒはルーク達を楽しそうに眺めてから腕時計を確認して手を叩いた。
 それに合わせて今までルークとユリアを避けてバラバラな列を組んでいた生徒達がキレイに並び始める。

 勿論それはエルとユリア、心を砕かれたルークを見てまたマルコを叱り始めたイリエラと飛んだとばっちりを受けたマルコも例外ではなく各々所定の位置についていく。
 ルークとクロエは元の位置から全く動いていなかったので、2人だけはそのままだ。
 まあ、クロエはあのうるさい空間の中でもぐっすりと寝ていたので実質動いていないのはルークだけだが。

 するとざわざわと動き始めた周りに夢の世界から引きずり出されたのかクロエの瞼が薄く揺れて、やがて目を覚ました。

「ん……ルークくんもう? 」
「ああ、そろそろ行くみたいだから起きた方が良さそうだぞ」
「分かった……起きる」

 クロエは寝起きでまだ覚醒していないのかどこか足取りが覚束ない。
 しかし、無情なことに列は歩を進め始めた。
 そろそろルーク達も進むことになりそうだ。

 ルークは仕方なしとクロエの手を取る。手のひらにクロエの幼いスベスベな肌の感触が伝わってくる。これは……心の癒しになりそうだ。

「ルークくん? 」
「まだ眠いだろ? 手を引いてやるから着くまでにしっかりと起きるんだぞ」

 首を傾げて不思議そうな顔をするクロエにルークは笑顔で答えた。
 その笑顔の裏には「クロエの手の感触で心を癒してやるぜ」という笑い声が出ていたらゲヘヘといったゲスなものになっていたであろう言葉が隠れているが、幸いなことにクロエには伝わっていないようだ。

 周りで見ていた教師陣もルークとクロエをほほえましいそうに見ていることから「若いって素晴らしい」とでも思っているに違いない。
 その中でもルークを変態、もしくは変態予備軍を思っていたもの達はルークに対する評価を改めたらしく「子供ってそんなもんだよね」と意味の分からない解釈をしたみたいだ。

「うん分かったっ! ありがとうねルークくんっ! 」

 はーい! とばかりに勢いよく手を上げて答えたクロエ。
 ここでそんなに元気があるのならすでに目を覚ましているのでは? といったツッコミをしてはいけない。
 クロエが目をさましていないと言ったらいない。白を黒と言えば黒、黒を白といえば白。つまりはそういうことだ。

 ルークはそれを重々承知しているのでただ黙ってニギニギと握り返してくる感触を楽しみ、心を癒されながら前の生徒について講堂に向かって行ったのだった。

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感想 3

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みんなの感想(3件)

ひがろく
2017.02.13 ひがろく

面白いですね、生まれたときからランクがきまってるというのが斬新でいいです!投稿頑張ってください!

2017.02.13 NTIO

有難うございます。頑張ります

解除
ユルゲーマー

九話

クロエもそう言う気質があったんだ

クロエもそういう気質があったんだ
ですね。
ここの『いう』はそんな風なという意味合いなので『言う』とは違いますよ~

2017.02.12 NTIO

ユルゲーマーさん誤字報告ありがとうございます。
只今修正しました。

解除
ユルゲーマー

三話

最初のほうでウパイザーとなってた名前が終わりにはスパイザーになってますがどちらでしょう?

2017.02.12 NTIO

ウパイザーです。ミスです、すいません。

解除

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