ワールド・オブ・ランク

NTIO

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第21話

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 得意げに口角を上げる、見方によれば自慢のおもちゃを見せびらかしている子供に見えなくもないイリアにルークは心の中で突っ込んだ。
 そこからは分かるでしょう? と顔に浮かべているイリアには悪いが残念ながらルークにそれを察せられるほどの頭脳は宿っていなのだ。

 眉間に皺を寄せるルークの顔を見て、イリアは分かっていないらしいとようやく気づいたらしく額に手を当ててため息を吐いた。

「はぁ、分からない人ですね。それでもパーフェクトの異名を取る怪物ですか? 情けないにも程があります。つまりはこういう事ですよ、有能な人材を平凡な人間に合わせられて作られた法に縛る事なく使う。あわよくば、こちら側で働いてもらおうという考えです。つまりは、ルークさんにランク憲法は適応されないというわけです。おわかりいただけましたか? 」
「……なるほど」

 ルークはユリアのとげとげしい視線を受け流しながら頷いた。
 そこまで言われればさすがに分かる。つまりはこういう事だろう。
 ユリアのいう上は、いまでも信じがたいが優秀であるとされている俺を法に関係なく使いたい。
 ならば、どうすればいい? 
 そうだ、特例として扱えばいい。と思い至ったのだろう。
 そして、特例なんだからランク訳に関することをある程度話しても良いと結論付けた。
 極めて単純な思考回路で、致命的に抜けている部分があるが、忌々しい事に理に適っている。反吐が出そうだ。
 しかし、気になる事がある。一見筋が通っているユリアの話だが、おかしなところが多々あった。
 例えば、ユリアの言っている事が正しいと仮定してみると、なぜあちら側の筈のエイリヒ先生がそれを言わなかったかだ。
 タイミングを逃したなどといった理由が考えられるが、それはまずないと言っていい。
 なにせいうタイミングなど俺の目から見てもいくらでもあったし、それはエイリヒ先生から見れば尚更だろう。
 つまりは……。

「ユリアの言う上は、エイリヒ先生とは別口か……」
「ほぅ、そこまでたどり着きましたか。さすがパーフェクト、怪物ですね」

 ユリアは手を叩いて、「凄い凄い」と言葉が聞こえてきそうな声色でルークを褒め称えた。それはまるで母親が子供を褒めているようではたから見れば微笑ましい雰囲気を醸し出している。

 しかしそれは見ている側であって、決して本人がそうであるとは限らない。現にルークは不服と顔にありありと出し、不機嫌なオーラを漂わせていた。
 やがて耐えられなくなったのか、咳払いを1つした。

「ああ、すいません。ルークは子供っぽく扱われるのが嫌なのですね。はぁ、面倒くさい」
「……それはともかくユリア。話は大体理解出来た。しかし、どうにも慎重さが抜けなくてな、お前の口から聞かせてくれないか? どうしても気になるんだ」

 ため息を吐き、心底面倒くさいと言った表情を浮かべるユリアにルークはツッコミたい気落ちを拳を握り締める事で我慢しながら、真剣眼差しで問いかける。
 先ほど心の中で結論に至ったものはあくまで俺の予測でしかない。つまり、間違っている可能性が遥かに大きいのだ。
 しかも話術として決して嘘はつかず、必要な事だけをいう事によって都合の良いように解釈させるというものがある。
 それをユリアがやっているのかは分からないが、確認するに越した事はない。まあそれでも嘘をつかれるという可能性が残っているんですけどね。

「そうですねー。簡単に言えば私がどちらでもないから、とでも言っておきましょうか」
「どういう事だ? 」
「そのままの意味ですよ。私は推進派でも保守派でもないという事です。家の都合で推進派に属してはいますが、結局のところどうでも良いんです。ただ、エルちゃんだけ守れればそれで良いんですよ。それこそ人類が全員魔物に食い尽くされたとして、私とエルちゃん、そしてついでに可愛いものがだけが生き残ってさえいればなにも感じはしないでしょう」

 あっけからんとした物言いのイリアへなげかけられたルークの問いかけに、彼女は口元に悲しみとも取れる不思議な笑みを浮かべながら、窓へと視線を向けた。その目には自身の眼と同じ透き通る青空が映っており、神秘的な色彩を醸し出していた。
 ルークがそんなユリアに目を奪われていると、彼女は続ける。

「しかし、そんな事は起こりえません。人類が死滅すれば私たちも死ぬ、一蓮托生。当たり前の事です。ですから、私は人類を守る事にした。しかしそれのために死んでは本末転倒です。そこで思いついたのです、なら他の人に任せサポートすれば良いと。それならば私は死なずに他人が死に人類を守れる。引いては私の守りたいものを守れるとね」
「……」

 イリアのあまりの言葉に絶句するルーク。つまりユリアはエルは守りたいけど死にたくない。そうだ、他の人にやって貰おうという事を言っているのだ。
 果てしなく自分とエルを中心とした考え方。
 そして今それを言っているという事は俺もその中に含まれているという事になる。本人の目の前で言うとは挑発と取るべきか豪胆と取るべきか……。

「ふふっ、挑発と取っていただいて結構ですよ? 実際にしているのですしね。まあ、そういうわけで私の代わりとして働く兵隊としては最上級のあなたには最大の支援をさせていただきます。今回の事はその一環と思っていただければ結構。私としてもあなたがただ採点されるだけの側では不都合が生じるのでね」

 ルークの顔色から内心を悟ったのか口元に手を当てて微笑んだユリアはこれで話は終わりとばかりに席を立ち、思い出したように「ああ」と言った後振り返った。

「部屋で魔法を使わないでくださいね? 昨夜は私が魔力を抑えて差し上げましたが、あれは偶然の産物のようなものです。そうなんども出来るとは思わないでください。もし使った場合は、どうなるか知りませんよ? 」
「どうなるっていうんだ? 」
「そうですねー……解体? 」

 顎に手を当ててうーんと唸り始めたユリアは、数秒もしないうちに人差し指を立ててにこやかに答えた。
 ルークは幼い口からでた物騒な言葉に思わず息を飲む。
 普通であれば嘘と笑って流せるところだが、そういう事がまかり通るこの世界ではそれは現実味を帯びた脅し文句となる。
 ユリアの属するという急進派か、はたまた保守派のどちらからかは知らないがきっと殺られる、とルークに確信させた。

 ルークがブルリと体を震わせていると、ユリアはそれに我関せずとばかりに1つ礼をして部屋から立ち去って行った。
 シンと静まり返る部屋にバタンという扉の音がやけに鳴り響き、それに合わせてルークは息を吐き出す。
 すると吐き出した息の分を埋めるように様々な感情が溢れ出してきた。焦燥感、危機感、脱力感etc……。

 迂闊に魔力を使った過去の自分に対する苛立ちが吹き荒れて今にも体を殴りつけてやりたい。なぜに、あれだけの情報で魔法を使おうと思ったのか甚だ疑問でならない。それに同年代に審査する側がいる事は突拍子もないようで、しかしよく考えれば分かった筈なのだ。

 赤ん坊の頃にいた施設で聞いた話の中に協調性なども人の評価の対象とされているのは理解できていた。そしてそれを評価するのはだれか? この答えとして俺は大人と思っていたが、よくよく考えればこれはとてもおかしいと言えるだろう。
 なぜなら協調性を正しく測るには第三者から見たのではなく、もっと身近のそれこそ直接的に触れ合っている者の意見が必要となる。
 なあなあでするのならばそれはなくても良いが、優秀な人類の選別で行われているらしいランク分けでそのような適当な事はされないだろう。
 つまりいるのだ。俺たちに直接触れ合え、なんら違和感なく会話に溶け込む事ができる評価者が。
 それがユリアという事だ。

「クソッ、なんでそこまで頭が回らなかったんだよ俺……。今更気づいたところで遅いだろうが」

 ルークは吐き棄ているように呟いてからベットに身を預けた。心地よい感触が身を包み、微睡みへと誘おうとしているが、到底眠ろうと思い至ることはできない。
 顔を手で覆ってあの時ああすれば、こうすればと考えみてもこの言い表せないやるせなさは消えそうもない。

 自分でも分かっているのだ。過去のことをうだうだと言っても結局は今現在は変わらずただ無駄な時間を過ごしているだけと。
 しかし、それでも犯してしまった過ちが招くであろうあれやこれやを思うとどうしても考えてしまう。

「……最悪だ、どれを考えても悪い方向に進む」

 ポツリと呟いた言葉は本当にその通りで思いつくだけでも両手で足りないほどの問題がある。考えただけでも頭がパンクしそうだ。
 ……でも過ぎた事なんだよな。考えたところでなんの意味もない。

「はぁ、もう寝よう。疲れた」

 結局なにも考えない事に思考を切り替えたルークは顔を覆っていた手をずらして腕で目を覆い、瞼を閉じる。
 今日は色々なことが起こりすぎて本当に疲れた。
 まだ幼いこの体にはかなりの酷だっただろうし、なにより肉体的な疲労はお飯事、精神的な疲労はユリアのあれこれ、これらで実際俺の体力ゲージは風前の灯火だ。
 今すぐにでも眠りたいのが正直なところだ。
 まあ、子供が昼寝をする事はなんら問題はないので別にいいと思う。これが見た目が精神年齢と同じだったらプー太郎として扱われていただろうけど。
 
 そんな事を考えているうちに本格的に睡魔が襲ってきた。
 ルークはその誘いに抗う事なく、引かれるままにねむりのせかいへと旅立っていったのだった。
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