黒龍帝のファンタジア

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ファンタジアという世界

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 ゆらゆらと揺れる意識の中、頬に冷たい感触を感じて恭介は目覚めた。目を開けた時にまず視界に入ったのは太陽の光を綺麗に反射している草、のようなもの。その草は人を魅了する様なエメラルドグリーン色をしていて、恭介がこれまでに見たことのない様なものだった。しかし、見たことがないというだけで、しっかりと頭の中に目の前の草が一体何なのかという情報がある。これは恐らく夢の中で突然起きた頭痛によって刷り込まれたであろう。

 全く知らなかった物が頭の中に刷り込まれた、とは気分のいいものではないが、その中になぜ自分が黒龍帝と呼ばれていたのか、あの少年が一体何者なのか、そしてどうして突然自分の前に現れたのか、といった事が含まれていたので良しとすると恭介は思う。

 それはともかく、目の前にある草の名前は即死草。

 口に入れた者は解毒しない限り、10秒で体に毒が回って立っていることが困難になり、30秒で死に至るという有毒植物だ。暗殺や魔物を討伐する際に用いられる。世間一般に特徴が知られているため、これを誤って食べて死んでしまう事故は年に一回あるかないか程度。

「即死草って、物騒な名前だな。食べてから30秒以内に死ぬってもうそれ助かる確率ないに等しいんじゃないか? 」

 恭介はそう呟いてからよっこいしょと体を起こす。頭をガシガシと掻いてから、辺りに視線を巡らせるが、見渡す限り即死草がびっしりと生えていて、遠くの方に木が見える。どうやら今、恭介がいる場所は即死草の群生地らしい。見た目は綺麗な草にしか見えないのだが、食べれば即死という草に囲まれている事実に恭介は顔を引き攣らせる。

 もし、気絶している時に誤って口に入っていたらと考えて、ブルって体を震わせ、空を見上げる。するとそこには7つの大小の様々な月が浮かんでいた。

 それを見た恭介は口元に笑みを浮かべる。

「夢じゃなかった、という事だな。俺がガキ、いや魔神ザーヴァスにこっちの世界、ファンタジアに連れてこられた事も、俺がファンタジア生まれだという事も、そして母さんが俺を庇ってあんな事になった事も‥‥何もかも! 」

 ズドン!! 

 恭介は怒りの余り地面を殴りつけた。恭介に殴られた地面は大きく抉れ、即死草が宙に舞う。パラパラと恭介を包み込む様にエメラルドグリーン色が舞うたびに、即死草のダイヤモンドダストと言える光景を醸し出すが、恭介はそれも腹立たしいとばかりに尻尾で凪払った。

 ブオン!! 

 すると尻尾を凪払った時の衝撃波で更に即死草が舞う事になった。本末転倒というものだ。だがそれも恭介の苛立ちを引き立てるスパイスでしかない。恭介は翼を広げ飛び上がり、両腕を体の前でクロスする。恭介の体はなぜか黒く、炎の様なもの包まれた。その恭介を包んでいる黒い炎に触れた即死草は触れたと同時に消し炭になる。それだけではない。恭介を囲む様に次々と即死草が枯れていくのだ。まるで災害。命を奪うためだけに生まれてきたかのようなそんな存在に今の恭介は見える。そしてその災害は瞳孔が縦に割れている金色の目を見開き、吠えた。

「鬱陶しいんだよ! 消えろ! 桐谷流 体術 五の型 龍旋百花! 」

 恭介はクロスさせていた腕を速いでもなく、遅いでもなく広げる。普通であれはただその動作だけで何も起こりはしない。だがしかし、それは起こった。恭介を包んでいた黒い炎が恭介を中心として円を描くように回り始めたのだ。しかも恐るべきスピードで拡大して行っている。

 辺りに一面に生えていた即死草は焼け跡形もなく消え去り、それだけに止まらず遠くにある木までもがその猛烈な炎に包まれようとしたところで、突然炎が掻き消えた。地面は燻り、そこに即死草が生えていたという事が嘘だったかのような光景が広がっている中、その中心にいた恭介はドカっと地面に座り込む。

「はぁ~ 何やっているんだ俺は。 草に八つ当たりしてもしょうがないだろうが。五の型まで使って辺り一面焼け野原にしてどうするよ‥‥」

 恭介は顔に手を当てて、はぁ、とため息をつく。

 『龍旋百花』  

 桐谷流体術の対軍用の技だ。

 桐谷流には、対人の一の型から三の型、対軍の四の型から六の型があるがそれはともかく、5の型である龍旋百花は、本来であれば殺気を限界まで高め、それを放出する事で敵を足止めし、その間に攻撃して血の花を咲かせるという、結構物騒な技だが、しかし今恭介が放った物は全くの別物。

 本来であれば炎なんて出さないし、そんな武術があれば現代日本では些かどころかかなり問題になっていただろう。

 ではなぜ恭介が放った龍旋百花が黒い火災旋風のようになったのか。それは魔神ザーヴァスが返還したという恭介の力が原因だ。今の恭介は見た目だけではなく、中身まで変わっている。体に第二の心臓というべきような物が備わっているのだ。それはーーー

 ーーー魔玉と龍玉だ。

 これらの知識は即死草と同じく恭介の頭の中に知識として備わっている。これらを説明する前にまず今恭介がいるこの世界ファンタジアについて説明せねばなるまい。

ファンタジア、それは人神 ヒューコス  龍神 ヴァンド  天神 ルシフェ  智神 チェイス 戦神 バーサウス  技神 ポル そして魔神 ザーヴァスが統べる7つの種族で構成された世界だ。

 ファンタジアには1つの大陸しか存在しておらず、そこに人神が統べる人族、龍神が統べる龍人族、天神が統べる天人族、智神が統べる森精族、戦神が統べる獣人族、技神が統べる土精族、魔神が統べる魔族が暮らしている。

 その7つの種族決して仲がいいというわけではなく人族と天人族、龍人族は魔族と仲が悪く戦争状態にあり、散発的な衝突がよく起きている。何十年かに一度は大規模な衝突も起こり、何百何千何万の死者が出ている。

 それだけではない。森精族と土精族は犬猿の仲で、森精族は魔族に、土精族は人族、天人族、龍人族にそれぞれついて殺し殺されをもう数世紀も繰り返している。そこに人族に迫害された歴史を持つ獣人族が魔族側に加わって、ファンタジアは怨嗟の声と血と欲望が渦巻く混沌の世界と化している。

 この状態が続けばいずれ天界より、神々が降りてきて神判を下すと言われているがそれはともかく、このファンタジアに住む生物は地球にはなかった力を有している。

 それは魔力や龍気や天力といったもの。

 魔力は本来では起こりえない事象を引き起こす力。龍気は龍人族のみが持ち得るもので龍人族の力を何倍何十倍に増幅させる事の出来る力。天力、天人族のみが持ち得る力で3つある力の内、唯一治癒能力を行使できる。

 それらの3つの力は体の中のどこかに魔力なら魔玉として、龍気なら龍玉として、天力なら天玉として宿っている。

 因みに、これらの3つの力はそれぞれ反発しあい同時に1人、もしくは1つの個体が持つことは本来は出来ない。たとえ持って生まれたとしても反発しあう力に体が耐えられずに死んでしまうのだ。龍人族は龍気は持っているが、魔力はない。天人族は天力は持っているが魔力はない。こういった具合だ。

 だが例外というものが必ず存在する。

ーーー黒龍だ。黒龍は龍人族の中でも特別な能力、龍化を有する貴龍から稀に生まれてくる所謂亜種というもので、生まれながらに体に魔玉と龍玉を有している。世間一般では魔に落ちた魔龍とも呼ばれていて、龍人族からは恥晒しとして命を狙われ、人族からは研究対象としてこれまた命を狙われるため、ファンタジアにいる黒龍は500以下と言われている。

 その黒龍の中でも稀に本当に何千年の一度の確率で生まれてくるという希少種、黒龍帝。黒龍の証と言われる黒い髪に、黒い翼、黒い尻尾それに加えて金色の目を宿して生まれてくるというその伝説上の存在それが、その黒龍帝が恭介。

 またの名をベルフォル・ドラグニア。龍人族の王国、フリューゲル王国の第一王子にして王国史上最悪の罪人、第23代国王、オリジン・ドラグニアの息子だ。 
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