黒龍帝のファンタジア

NTIO

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黒龍帝VS混成部隊 舌戦①

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「‥‥何、よこれ。」

 イリーナは空を覆っている黒炎を見て、そう呟いた。手は汗ばみ、持っている剣を滑り落としてしまいそうだ。イリーナは首を振りしっかりと剣を握り直してからその黒炎を凝視する。

 黒炎は今もその勢力を広げていて、すでに遠くまで広がっている。だが、それでも止まる様子はない。イリーナはそれを見て、再び呟いた。

「何よこれ。一体なんだって言うの!? 」

 自然と言葉が荒くなってしまう。それが、今のイリーナの心を如実に表していた。初めて見る、物に対する恐怖だ。これが恭介が起こしているものだと分かっている、いやだからこそ恐怖しているのだ。

ーーー怖い

ーーー怖い

ーーー怖い

 その感情がイリーナの心を支配していた。イリーナは気づかないうちに、一歩二歩と後ずさりしていく。そんなイリーナの肩にルオスが手を置いた。

「狼狽えるでない。あれは貴龍が使う龍化じゃ。龍人族から魔族に落ちた最強の貴龍である黒龍が使ってもなんら不思議ではあるまい。まあ、妾もあれほどの規模の龍化は初めて見るから、少しビビっておるがの。」

 安心せいと一言、言われて肩をポンと叩かれたイリーナは、徐々に安心感が湧いてくるのを感じた。そして、こんなことで挫けていてはこれから始まるであろう、先程までのものが子供の遊びに見えるような戦いを生き残れるはずがないと考える。

(そうよ。まだ戦いは終わっていないわ。今戦えるのは私を含めて、5名だけ。1人でも欠けたら総崩れだわ。烈火の剣のリーダーである私がそんな事でどうするのよ! )

 イリーナは自分を叱咤し、その事に気付かせてくれたルオスにお礼を言う。

「ルオス様有難うございます。危うく逃げ出してしまいそうでした。リーダー失格です‥‥」
「いや、気にせんでいいのじゃよ。あれを見てそうならない方がおかしいからのう。しかし、どこまで広がるんじゃ。ここまでくれば、これは意味をなさんかもしれん。」

 胸に手を当てて、眉を潜めたルオスを見て、イリーナは首を傾げるが気にせずに空を覆っている黒炎に視線を逸らし、ルオスに尋ねる。

「ルオス様は、人魔大戦で龍人族の龍化をご覧になった事があるのですか? 私は無いのですが、あれが普通なのでしょうか? 」
「いいや、全く違うぞ。」
「と、言うと? 」
「まず規模が違う。第5階位でもあの二分の一もなかった気がするな。そして、ここまでの龍気を発してなかった。さすが黒龍帝といったところかのう。さて、そろそろ奴の龍化も終わったようじゃよ? 皆の者! 気を引き締めるのじゃ! これより、一瞬の気の抜けが命取りになると思うのじゃ! 」
「はい!! (はい )」」」

 ルオスの掛け声と共に、イリーナそしてイリーナとルオスの話を聞いていたジオ、ガウェイン、エフィアが頷き構えた。そして見計らったからのように空を覆っていた黒炎が一瞬で晴れる。そこには強大な龍がいた。

 大きなそれだけで1つの山かと見間違う大きさを誇る翼に、筋肉を高密度で圧縮したような四肢。その四肢を覆う黒く輝く鱗。そして、魂さえも噛み砕いてしまいそうな凶悪な牙が生えた口。

 どこをとっても、圧倒的な強者を思わせるその龍は咆哮を上げる。

「グオオォォォ!!! 」
「クッ! 」
「頭が、割れる‥‥! 」
「耳が痛いのである! 」
「お前、耳無いだろうが‥‥! 」
「黙れ! お前達の声もうるさい! 」

 ビリビリと空間が揺れ、頭を直接揺さぶるような咆哮は止んだ。イリーナ達は耳を塞いでいた手をどけ、空を見上げた。するとそこには先ほどと同様、龍がいた。その龍は知性を湛えた目をイリーナ達へと向け、口を開く。

「これが俺の”黒龍帝”として全力だ。初めてやってみたが以外といつもの体を動かす感じと変わらないんだな。ほ~。結構かっこいい‥‥。んっ! さて、最後に聞いておくが、これから戦うか? 」
「ん? なんじゃと? なぜそれを聞く? 」

 ルオスはいつでも攻撃できるように剣を構え、恭介に返した。恭介は巨大になった自分の体を確認するように腕を動かしながら答える。

「いや、前にも言った通り俺に戦う意思はないからな。そっちが攻撃してきたから反撃したまでで、攻撃しないのであればこっちもしない。つまりここで、戦いを止めるかどうか聞いているんだ。それに同じ仲間だろうが。傷つけあってどうするんだよ。バカじゃないのか? 」
「バカとはなんじゃ! バカとは! バカって言う方がバカなんじゃ! 」
「ルオス様! なに子供っぽいこと言っているんですか!? 今そういうこと言っている場合じゃないでしょうが! 」
「ふっ、今自分でもバカって言ったな? という事は自分のことバカって言ってることになるな。ププッ 笑える! 」

 恭介は大きな口を広げて笑う。その衝撃で地面が揺れ地震のようになっているのだが、本人は空を飛んでいる事もあって気づいていないのか笑い続ける。イリーナはそれを見て、お前もかいっ! というツッコミを入れそうになってすんでで思い留まる。

(危ないわ。ノリが軽くて忘れそうになっていたけど、あいつはエフィアをひどい目に合わせた黒龍よ。せめても一矢報いないと気が晴れないわ。今このタイミングにでも切り掛かりたい‥‥! でも、それはダメよ。みんなと連携していかないと。)

 イリーナはエフィアを庇うように立っているジオとガウェインへと目線を送った。ジオとガウェインはイリーナの視線に気づいたのか、無言で視線をよこし、頷いた。どうやら2人もイリーナと同じ意見のようだ。

 イリーナはジオとガウェインから視線を外して、ルオスに戻すとルオスは恭介と接戦を繰り広げていた、というか口喧嘩をしていた。

「笑うな! この破廉恥、黒龍が! 」
「破廉恥じゃありません~  あれは自爆しただけだろうが、ウマシカ。」
「ウマシカって、バカか! バカと言いたいのか! 」
「あ、馬さんと鹿さんのことバカって言ったな。あ~や~ま~れ~ 馬さんと鹿さんにあ~や~ま~れ~ 」
「はん! その馬さんと鹿さんならお主が焼き殺したじゃろうが! まずはお主が謝るのじゃ! そしたら妾も謝ろうぞ! 」
「ちょっとルオス様! なにを黒龍帝と口喧嘩しているんですか!? しかも物凄い低レベルで! わけがわからないんですけど!! 」

 イリーナは思わずツッコんだ。言った後にあ、やちゃったと口に手を当てて誤魔化すがもう遅い。恭介とルオスはイリーナに顔を向けていたのだ。そして、恭介はイリーナにその縦に瞳孔が割れた目を向ける。

「まあ、どうでもいいけど。でどうするの? 戦うの? 別にこっちはそれでもいいけど、今のままやったらあそこに見える街までけし飛ぶ事になるぞ? 」
「なっ!? ここから見えるの! ルイエスの街が!! 」

 イリーナはそんなまさかと声を荒らげる。ここからルイエスの街までざっと30キロはある。到底目視できる距離ではない。現に今ここにいる視力では7種族随一を誇る獣人族のジオですら見ることが出来ないのだ。

 しかし、恭介はどうやらしっかりと見えているらしく、ルイエスの街の方角に首をもたげてグルルと喉を鳴らしている。口からはかすかに黒炎が漏れ出ていて、恭介が言っていることが嘘ではないことをうかがわせる。

「ルオス様どうするのであるか? あの黒龍本当に見えているっぽいのである。」
「分かっておるわ! しかし‥‥」

 ルオスはルイエスの街の方角と恭介を交互に見て、口ごもる。ルオスがそんなことをやっているとエフィアが起き上がった。

「エフィア動くんじゃねぇ! てっおい! 」

 ジオが止めようとするがエフィアはそれを振り払う。

「ルオス、様、ここは奴の話に乗るのが得策だ。私達の目的は街を守ること。黒龍の討伐は主な目的ではない、筈。それに言っては悪いが、私たちではあいつに勝てない。」
「おい! そんなことは‥‥」
「ないと言えるのか? 」
「それは‥‥」

 ジオはエフィアにまっすぐ見つめられて、それ以上言葉に出来なかった。ジオも分かっているのだ。自分たちが恭介に勝てないことを。だから、これ以上口に出来ない。それはイリーナ達も同様で、下を向いてしまった。エフィアはそれを見て、ルオスに視線を向けた。

「ルオス様、もう一度言います。ここはあいつの提案に乗りましょう。そしてあいつの話を聞いて、再び戦うかどうか判断しましょう。それからでも遅くはないはずです。」
「‥‥分かった。エフィアの判断に従おう。黒龍帝よ、妾達は一旦の停戦を要求する。それで良いか? 」

 これまでの会話を黙って聞いていた恭介はドン! と勢いよく地面に着地して、翼を閉じ口を開いた。

「いいぞ。 よし、じゃあこれからお話しを始めようか。」 
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みんなの感想(4件)

なお
2016.12.05 なお

楽しみにしています!!
容赦なしを希望…

NTIO
2016.12.08 NTIO

有難うございます。悪戦苦闘(特に技名)しながらも頑張ります。

解除
さつき
2016.12.04 さつき

wwwwww~!(>ω<)/
…放火犯ン~!!ヽ(^o^;)ノ
(…でも実際はヤバい……)

NTIO
2016.12.08 NTIO

主人公はさぞパニクった事でしょうね。私だったら現実逃避に走ります。

解除
さつき
2016.11.30 さつき

…つ……机がベッド……wwww~!! (≧▽≦)
それに、サービス良さそうな名前にして性格悪そうな魔神サーヴァス…パパっちも気になりますねぇ!! ヘ(≧▽≦ヘ)
続き楽しみにしてますねっ!(^w^)

NTIO
2016.11.30 NTIO

さつきさん感想ありがとうございます

頑張ります

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