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55話
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炎の宝剣 は 亜苦施渡瑠 の黄金宮殿の炎の結界を破り、李玲峰 の体は一筋の炎そのものとなって魔都 婁久世之亜 の夜空へと飛び出した。
剣を持つ 李玲峰 が黄金宮殿と隣接する塔の頂上へと着地すると、異変に気づいた黒甲冑の仮面騎士団の巨鳥兵たちが寄ってきた。
李玲峰 は、巨鳥兵たちを次々と 炎の宝剣 で両断していく。
四人目に襲い掛かってきた鳥兵の腕を摑み取り、その腕をぐいと引き付けて、李玲峰 はその男の腹から背へと剣を突き通した。
それから鳥兵の 鵜吏竜紗 を奪い、その背に乗る。
飛行港へ!
阿留摩 と 陀伊褞 が待っている!
鵜吏竜紗 を馳せさせる。
教えられた目印の塔へと向かって。
足下には 婁久世之亜 の都市がある。
邪悪なる都。
ありとあらゆる毒を飲み込み、それ故に輝き、栄える都……!
(魔都め……!)
李玲峰 は誓った。
必ず、お前を滅ぼしてやる。
今ではない。
今ではないけれど、でも、必ず!
目印の塔まで達すると、李玲峰 はその塔の先端に座る不気味な魔物の像ごと、その塔を 炎の宝剣 で撫で斬りにした。
音を立てて、魔物の彫像は遥か地上へと落ちていった。
巨鳥兵 鵜吏竜紗 ちが追ってくる。
(ふん……摑まるものか!)
約束したのだ。
必ず 藍絽野眞 に帰る、と。
やがて飛行港が見えてきた。
魔都の 根威座 貴族の領域より、やや下段にある。
多くの飛行船や運搬車が停泊している。
李玲峰 が追っ手を斬り捨てつつ 鵜吏竜紗 を駆っていくと、その中から一台の運搬車が舞い上がった。
「阿留摩!」
「やっぱり、派手に出てきたね、王子さまっ!
こっちに移りな、 鵜吏竜紗 よりゃ速い!」
陀伊褞 もいる。
李玲峰 が 鵜吏竜紗 を捨てて乗り移ると、阿留摩 は車の周囲に光の防御壁を張り、途端にぐんと運搬車のスピードを上げた。
見る間に、飛行港と魔都の光は遠くなっていき、婁久世之亜 を囲む城壁が前方へと迫ってきた。
城壁に、入ってきたときと同じように孔が開いた。
そして、阿留摩 の運搬車は闇の中へと飛び出した。
無明の闇ばかりが立ちこめる、死した大地の不毛の荒野を覆いつくす闇の中へと。
「首尾は?
知りたいことはわかったのかいっ、王子さま?」
運転しながら、阿留摩 はやけっぱちのような陽気さで怒鳴るように聞いてきた。
「うん、阿留摩 」
李玲峰 は叫び返した。
「いろいろとね。知りたいことがたくさん、わかった」
炎の剣が、まだ熱い。
遠ざかっていく魔都を見納めながら、少年の心は静かに燃えていた。
おれはいつか、ここにまた帰ってくる。
この魔都との決着を付けるために。
「深追いはするな。別に、逃がしても構わぬよ」
亜苦施渡瑠 は、平伏し、恐懼する仮面騎士団の騎士団長を前に、かるく、そう答えた。
魔皇帝は黄金の椅子の肘掛けに人差し指を打ち付け、ちら、と背後に弟の首を抱いて椅子に座っている 那波 の王子の方に視線を向けた。
「行き先はわかっている。
お前たちが追い詰めて殺したのでは、あの 水の御子 の時と同じになる。
それではつまらぬ。
そなたもそう思うだろう、於呂禹?」
魔皇帝の傍らで、根威座 の黄金の魔将軍は恭しく腰を折る。
銀のマントをひらめかせ、亜苦施渡瑠 は立ち上がった。
「氷の大陸へ」
亜苦施渡瑠 は手を床と水平に差し上げると、命じた。
その瞳は、炎のように楽しげにキラキラと煌めいている。
平伏していた仮面騎士団の騎士団長は、魔皇帝の命令を伝えるためにその場から退出していった。
魔皇帝はくっくっと笑う。
「なかなか筋書き通りに行かぬが、これだけ面白い芝居は滅多に見られぬ。これもまた、一興だな。
しかし、今度こそ、そなたはあの 炎の御子 を仕留めるのだぞ。於呂禹」
金髪の少年は、再び恭しく魔皇帝へと腰を折る。
何の表情も浮かばない、虚ろな眼差しのまま
剣を持つ 李玲峰 が黄金宮殿と隣接する塔の頂上へと着地すると、異変に気づいた黒甲冑の仮面騎士団の巨鳥兵たちが寄ってきた。
李玲峰 は、巨鳥兵たちを次々と 炎の宝剣 で両断していく。
四人目に襲い掛かってきた鳥兵の腕を摑み取り、その腕をぐいと引き付けて、李玲峰 はその男の腹から背へと剣を突き通した。
それから鳥兵の 鵜吏竜紗 を奪い、その背に乗る。
飛行港へ!
阿留摩 と 陀伊褞 が待っている!
鵜吏竜紗 を馳せさせる。
教えられた目印の塔へと向かって。
足下には 婁久世之亜 の都市がある。
邪悪なる都。
ありとあらゆる毒を飲み込み、それ故に輝き、栄える都……!
(魔都め……!)
李玲峰 は誓った。
必ず、お前を滅ぼしてやる。
今ではない。
今ではないけれど、でも、必ず!
目印の塔まで達すると、李玲峰 はその塔の先端に座る不気味な魔物の像ごと、その塔を 炎の宝剣 で撫で斬りにした。
音を立てて、魔物の彫像は遥か地上へと落ちていった。
巨鳥兵 鵜吏竜紗 ちが追ってくる。
(ふん……摑まるものか!)
約束したのだ。
必ず 藍絽野眞 に帰る、と。
やがて飛行港が見えてきた。
魔都の 根威座 貴族の領域より、やや下段にある。
多くの飛行船や運搬車が停泊している。
李玲峰 が追っ手を斬り捨てつつ 鵜吏竜紗 を駆っていくと、その中から一台の運搬車が舞い上がった。
「阿留摩!」
「やっぱり、派手に出てきたね、王子さまっ!
こっちに移りな、 鵜吏竜紗 よりゃ速い!」
陀伊褞 もいる。
李玲峰 が 鵜吏竜紗 を捨てて乗り移ると、阿留摩 は車の周囲に光の防御壁を張り、途端にぐんと運搬車のスピードを上げた。
見る間に、飛行港と魔都の光は遠くなっていき、婁久世之亜 を囲む城壁が前方へと迫ってきた。
城壁に、入ってきたときと同じように孔が開いた。
そして、阿留摩 の運搬車は闇の中へと飛び出した。
無明の闇ばかりが立ちこめる、死した大地の不毛の荒野を覆いつくす闇の中へと。
「首尾は?
知りたいことはわかったのかいっ、王子さま?」
運転しながら、阿留摩 はやけっぱちのような陽気さで怒鳴るように聞いてきた。
「うん、阿留摩 」
李玲峰 は叫び返した。
「いろいろとね。知りたいことがたくさん、わかった」
炎の剣が、まだ熱い。
遠ざかっていく魔都を見納めながら、少年の心は静かに燃えていた。
おれはいつか、ここにまた帰ってくる。
この魔都との決着を付けるために。
「深追いはするな。別に、逃がしても構わぬよ」
亜苦施渡瑠 は、平伏し、恐懼する仮面騎士団の騎士団長を前に、かるく、そう答えた。
魔皇帝は黄金の椅子の肘掛けに人差し指を打ち付け、ちら、と背後に弟の首を抱いて椅子に座っている 那波 の王子の方に視線を向けた。
「行き先はわかっている。
お前たちが追い詰めて殺したのでは、あの 水の御子 の時と同じになる。
それではつまらぬ。
そなたもそう思うだろう、於呂禹?」
魔皇帝の傍らで、根威座 の黄金の魔将軍は恭しく腰を折る。
銀のマントをひらめかせ、亜苦施渡瑠 は立ち上がった。
「氷の大陸へ」
亜苦施渡瑠 は手を床と水平に差し上げると、命じた。
その瞳は、炎のように楽しげにキラキラと煌めいている。
平伏していた仮面騎士団の騎士団長は、魔皇帝の命令を伝えるためにその場から退出していった。
魔皇帝はくっくっと笑う。
「なかなか筋書き通りに行かぬが、これだけ面白い芝居は滅多に見られぬ。これもまた、一興だな。
しかし、今度こそ、そなたはあの 炎の御子 を仕留めるのだぞ。於呂禹」
金髪の少年は、再び恭しく魔皇帝へと腰を折る。
何の表情も浮かばない、虚ろな眼差しのまま
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