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81話
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その瞬間、根威座 の魔都 婁久世之亜 で、魔皇帝 亜苦施渡瑠 はぴくり、と指先を痙攣させた。
何かの気配があった。
亜苦施渡瑠 は、じっくりとその気配を追い、そしてまた、自分の手の内にある 永久の獄炎 の力の感触を確かめた。
(大地が、動く?)
大地は蠕動し、また、収まった。
亜苦施渡瑠 は、背後に立つ黄金の髪の少年に空になった杯に酒を注がせ、その視線を柱に封じこめたままの、炎に包まれた少年の心臓の方に、ちら、と向けた。
刹那、魔皇帝は気にくわなさそうに眉をひそめた。
「ふん。精霊、か」
この世界には、彼に苛立ちを感じさせる物は、一つとしてないはず。
その、はずだった。
彼は、この世界でもっとも強い力を持つ、この世の支配者であるはずなのだから。
しかし、彼はそれでも、世の中には、自分の思い通りにならぬものもあることを知っている。
彼は黄金の円卓に片方の腕だけ頬杖をつき、珍しくイライラとした様子で、指で円卓の上を叩いた。
彼は視線を空に漂わせ、何千年にもわたって、彼の心に決して従ったことのない長い黒髪の青年の姿を思い浮かべ、すぐにそれを心の中で否定した。
彼は黄金のマントを靡かせて立ち上がった。
「於呂禹 ……ついて来い」
亜苦施渡瑠 は命じ、歩み出した。
虚ろな瞳の黄金の髪の少年も、その後に従う。
彼はやがて重武装の巨人兵たちが守る長い回廊を訪れた。
巨木のような柱が左右に立ち並び、火焔槍の炎を巨人兵たちが掲げる回廊。
その奥に、永久の獄炎 がある。
魔皇帝 亜苦施渡瑠 は、彼が支配する 炎 の前に立った。
燃え盛る炎の壁の前で、亜苦施渡瑠 は笑った。
炎の輝きは、金髪の少年の白い顔をも照らし出した。
亜苦施渡瑠 は、両手を前に差し出した。
炎の壁の色が変わる。
亜苦施渡瑠 の手が招くように動くと、それに応じて炎の中で幾つもの光の粒が瞬いた。
「出でよ、炎の竜たち!」
亜苦施渡瑠 は叫んだ。
すると、炎の中で赤い光は十数体もの爬虫類のような鱗に覆われた長い体に変化した。
それらは炎の中で泳ぐようにくねくねと動き回り、鉤爪のついた四肢を蠢かせ、真っ赤な翼をはばたかせた。
ぐわっ、と鋭い牙が生えた口を開き、咆哮を上げるのが見えた。
それは、魔皇帝の方へと襲い掛かるように集結してきて、やがて急速に凝縮して小さな光の粒となり、炎の壁から飛び出してきた。
魔皇帝の手の平の上へと。
魔皇帝はそれを受け止め、拳の中に握り込んだ。
「少し、気晴らしをしてくるか」
そうつぶやき、亜苦施渡瑠 はくくっ、と笑った。
何かの気配があった。
亜苦施渡瑠 は、じっくりとその気配を追い、そしてまた、自分の手の内にある 永久の獄炎 の力の感触を確かめた。
(大地が、動く?)
大地は蠕動し、また、収まった。
亜苦施渡瑠 は、背後に立つ黄金の髪の少年に空になった杯に酒を注がせ、その視線を柱に封じこめたままの、炎に包まれた少年の心臓の方に、ちら、と向けた。
刹那、魔皇帝は気にくわなさそうに眉をひそめた。
「ふん。精霊、か」
この世界には、彼に苛立ちを感じさせる物は、一つとしてないはず。
その、はずだった。
彼は、この世界でもっとも強い力を持つ、この世の支配者であるはずなのだから。
しかし、彼はそれでも、世の中には、自分の思い通りにならぬものもあることを知っている。
彼は黄金の円卓に片方の腕だけ頬杖をつき、珍しくイライラとした様子で、指で円卓の上を叩いた。
彼は視線を空に漂わせ、何千年にもわたって、彼の心に決して従ったことのない長い黒髪の青年の姿を思い浮かべ、すぐにそれを心の中で否定した。
彼は黄金のマントを靡かせて立ち上がった。
「於呂禹 ……ついて来い」
亜苦施渡瑠 は命じ、歩み出した。
虚ろな瞳の黄金の髪の少年も、その後に従う。
彼はやがて重武装の巨人兵たちが守る長い回廊を訪れた。
巨木のような柱が左右に立ち並び、火焔槍の炎を巨人兵たちが掲げる回廊。
その奥に、永久の獄炎 がある。
魔皇帝 亜苦施渡瑠 は、彼が支配する 炎 の前に立った。
燃え盛る炎の壁の前で、亜苦施渡瑠 は笑った。
炎の輝きは、金髪の少年の白い顔をも照らし出した。
亜苦施渡瑠 は、両手を前に差し出した。
炎の壁の色が変わる。
亜苦施渡瑠 の手が招くように動くと、それに応じて炎の中で幾つもの光の粒が瞬いた。
「出でよ、炎の竜たち!」
亜苦施渡瑠 は叫んだ。
すると、炎の中で赤い光は十数体もの爬虫類のような鱗に覆われた長い体に変化した。
それらは炎の中で泳ぐようにくねくねと動き回り、鉤爪のついた四肢を蠢かせ、真っ赤な翼をはばたかせた。
ぐわっ、と鋭い牙が生えた口を開き、咆哮を上げるのが見えた。
それは、魔皇帝の方へと襲い掛かるように集結してきて、やがて急速に凝縮して小さな光の粒となり、炎の壁から飛び出してきた。
魔皇帝の手の平の上へと。
魔皇帝はそれを受け止め、拳の中に握り込んだ。
「少し、気晴らしをしてくるか」
そうつぶやき、亜苦施渡瑠 はくくっ、と笑った。
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