何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

始まり

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 魔物討伐実習が始まってから早くも2時間が経ち、俺たちはその間、ソニアに魔物を討伐させながらゆっくりと森の奥へと進んでいた。

「エイル、どこまで行くの?もうだいぶ森の奥に来たみたいだし、そろそろ戻らないと制限時間になってしまうわよ?」

「そうだな。まぁこの辺でいいだろ」

「え?」

「なぁ、そろそろ出てきたらどうだ?それとも、こっちから攻撃してやろうか?」

 足を止めた俺たちは、ソニアの疑問の声を無視して誰もいないところへと話しかける。

 しかし、案の定誰からも返事が返ってくることはなく、ソニアが訝しむように俺のことを見てきた。

「なるほどなるほど。自分たちから出てくる気はないと…なら、シュヴィーナ」

「わかったわ」

 シュヴィーナはすぐに返事をすると、ドーナを召喚して彼女に指示を出す。

「ドーナ。隠れている人たちを捕まえなさい」

 指示を受けたドーナは、魔力を解放して植物を操ると、周囲に生えていた蔓や木の根が草の中や木の上に向かって動き出した。

「うわっ!?」

「な、なんだ!!」

 すると、突然周囲に男たちの驚いたような声が響き渡り、次の瞬間には蔓や根に捕まった5人の男たちが現れる。

「え、な、なに?誰なの…この人たち」

 突然のことに状況を理解できていないソニアは、困惑した様子できょろきょろと周囲を見渡す。

「フィエラ」

「ん」

 そんな彼女に、今度は背後から彼女を狙った矢が飛んでくるが、フィエラはすぐにソニアの後ろに回り込むと、その飛んできた矢を掴んだ。

「さすがだな」

「当然」

 俺はフィエラが矢を叩き落とすのではなく、横から掴んだその判断力を素直に賞賛する。

 仮に正面から矢を叩き落としていた場合、相手は暗殺者なので、鏃に塗られた毒によりフィエラがやられていた可能性がある。

 そういった可能性を瞬時に考え行動することができた彼女は、さすがと言うべき判断力だった。

「エイル。こいつらはどうする?」

「今回は基本生け捕りにするから、両手足の骨を折って気絶させておけ」

「わかったわ」

 今回の暗殺者たちについては、狙われているのがソニアであることや今俺たちがいる場所が他国である事を考慮し、面倒ではあるが生け捕りにする事にした。

「さてと。俺もやりますかね。『光の檻ゲフェン・グニス』」

 俺が使用した光の檻とは、文字通り敵を閉じ込めるための檻を作り出す魔法である。

 範囲は込めた魔力量に応じて広さを決めることができ、また何を閉じ込めるかを正確に指定することで、その指定した存在だけを外に出さないようにすることができる優れものだ。

 先ほど索敵魔法で敵の位置を全て把握した俺は、一番遠いところにいる敵までを範囲内として魔法を使用したため、これで敵を取り零すことは無くなった。

「フィエラ、お前は右回りで外側から内側へ敵を狩って行け。シュヴィーナ、お前は左回りで外側から内側だ。1人も見逃さず徹底的にやれ」

「了解」

「わかったわ」

 今回の作戦は、まずは俺が魔法で暗殺者たちを閉じ込める。そして、フィエラとシュヴィーナがお互い逆回りで暗殺者たちを仕留めていくというものだ。

 そうすると暗殺者たちは内側にどんどん逃げてくるし、ソニアを殺さなければならない彼らは最終的に向こうから俺の方へと寄ってくることになる。

 そんな彼らを俺がソニアを守りながら捕まえるというのが、今回俺が考えた作戦である。

「エイル。2人はどこへ行ったの?それに、この人たちはいったい何なの」

 フィエラたちが森の奥へと消えた後、いまだ状況が理解できていないソニアが話しかけてくる。

「こいつらはお前を殺すように依頼された暗殺者たちだ。2人はそいつらを外側から捕まえるために森の奥に行った」

「あ、あたしを殺すための暗殺者?それに、2人だけで暗殺者を捕まえに行ったの?!そんなの危ないわ!!」

 ソニアは自分を殺しにきた暗殺者と聞いて一瞬だけ体を震わせるが、それよりもフィエラたちのことが心配だったのか、すぐに自分も向かおうとする。

「落ち着け。あいつらなら大丈夫だ」

「大丈夫なわけないでしょ!いくらフィエラたちが強いと言ったって、相手は暗殺のプロよ!勝てるわけないわ!!最悪あたしが囮になれば…!!」

 未来での彼女もそうだったが、彼女はとても優しい性格をしている。
 例え自分が狙われていようとも、むしろそれを利用してさえも仲間を助けようとするところは、とても彼女らしかった。

「問題ない。お前はあいつらの強さを舐めすぎだ。この程度の連中に負けるわけがないだろ」

「何でそんなことが言えるのよ。心配じゃないの?仲間なんでしょ?」

「仲間?んー、一緒に行動はしてるけど、改めて仲間か聞かれるとどうなんだろうな。

 だが、あいつらを鍛えてきたのは俺だぞ?こんな雑魚どもに負けるような柔な鍛え方はしていない。

 それに、ここで死んだらそれがあいつらの運命だったんだろう。お前が気にすることじゃないよ」

「そんな…」

 俺の言葉に何を感じたのかは分からないが、ソニアはそれ以降喋ることはなく、黙って俺の隣に立ち続けた。

(さてさて。あいつらは今頃どうしているかな)

 俺は索敵魔法でフィエラたちの動きを把握しつつ、こちらに向かってくる暗殺者たちに備えて魔力を練り始めるのであった。




~sideフィエラ~

 フィエラはルイスと別れた後、自身のスピードを活かして森の中を駆け抜けていた。

「な、なんだ?!ぐはっ!!!」

 フィエラは猛スピードで移動しながらも、銀狼族として研ぎ澄まされた嗅覚と獣としての勘により、臭い消しや魔道具で姿を隠している暗殺者たちを一人残らず倒していく。

 そして、木の上にいた一人も同様に倒そうとするが、男は背後からのフィエラの攻撃をみることなく短剣で受け止めると、勢いそのままに地面へと降り立った。

「ん?お嬢ちゃん誰?あ、もしかして、仲間の気配が消えたのって君のせい?」

 男は右手に持った短剣をクルクルと回しながら怠そうに聞いてくると、眠そうな目でフィエラのことを見る。

「ん。他の暗殺者なら私が倒した」

「ほほーん?あいつら弱すぎだろ。この依頼が終わったら特訓でもさせないとだめかな。でもめんどくさいしなぁ。ふわぁ~」

 男は欠伸をしながらそう言うが、話しながら男の隙を探していたフィエラは、彼の隙のなさに気持ちを切り替える。

(この人、強い)

「かはは。そんなにジロジロ見られたら照れちまうぜ。なに?俺に気がある感じかい?」

「それは無い」

「うわ~、即答かよ。ちょっと傷ついたぜ。てか、それよりお嬢ちゃん、改めて見るとだいぶ強いな。こりゃ部下たちが負けるのも当然か。あ~あ、ガキを殺すだけの楽な仕事だって聞いてたのによ。全然嘘じゃん。だりぃ~」

 男はだるそうにしながら短剣をゆっくり構えると、一瞬のうちにフィエラとの距離を詰め、短剣を首筋目掛けて振り抜く。

「っ!!」

 フィエラはそれを間一髪のところで躱し、すかさず足払いを掛けようとするが、男はフィエラの足払いを軽く飛んで避ける。

「パチパチパチ~。すごいなお嬢ちゃん。今の攻撃を初手で避けられたのは久しぶりだぜ」

 男はフィエラが自身の攻撃を避けた事を素直に褒めると、先ほどまでの怠そうな雰囲気から暗殺者らしい雰囲気へと変わった。

「ふぅ。久しぶりに本気出しますか」

 フィエラも男の雰囲気が変わった事を感じ取り拳を構えると、男の動きを何一つ見逃さないように意識を集中させる。

「…え?」

 しかし、男が一歩を踏み出した瞬間、まるで煙のように姿が消え、気づいた時には後ろで短剣を振り下ろそうとしていた。

「くっ!!」

 フィエラは何とか振り返って手首をクロスさせると、男の振り下ろされた手首あたりを支えるようにして防ぎ、何とか短剣が刺さる前に動きを止める。

「いや、まじですげーな。これにも反応するとか。けど甘いぜ」

 男は素直に称賛すると、もう片方の短剣をガラ空きになったフィエラの胴体に向けて突き刺そうとする。

「おわっ?!」

 それに対して、フィエラはクロスしていた手を瞬時に解くと、そのまま男の腕を掴み、迫り来る短剣とは逆方向に体を動かしながら男を投げ飛ばす。

 男は投げ飛ばされた勢いそのままにひらりと地面に着地すると、2人はじっとお互いを見合う。

(この男、本当に強い。それに、さっきの攻撃はなに。ちゃんと見てたずなのに、動いた瞬間が全く分からなかった)

「かはは!いいね!久しぶりに楽しくなってきた!俺はザイド。短い付き合いになるだろうがよろしく頼むぜ」

「私はフィエラ」

 ザイドと名乗った男は、久しぶりに殺し甲斐のある敵と出会った事で、先ほどまで感じさせていた気怠さが完全に無くなる。

 逆にフィエラは男の動きを読みきれず、この戦いは苦戦しそうだと思うのであった。





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