何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

最後の教え

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~sideシュヴィーナ~

 フィエラがザイドと戦闘を始めた頃、シュヴィーナは鏃に麻痺毒を塗り、それを使って敵を捕まえていた。

「ふぅ。まぁまぁ捕まえたわね」

 シュヴィーナはフィエラほど移動速度は速くないが、彼女にはこれまで鍛えてきた射手としての遠距離攻撃があるため、フィエラに負けず劣らず暗殺者たちを仕留めていた。

 とは言っても、大半はソニアを狙ってそちらに集まっているため、数で言えば6人ほどだったが。

「そろそろ移動しましょう…ドーナ?」

 シュヴィーナは次の暗殺者を探すために移動しようとするが、一緒に行動していたドーナが突然動き出し、シュヴィーナの後ろに太い根を作り出す。

 すると、木の根に何かが当たった音がしたため、シュヴィーナはすぐにしゃがんで身を隠した。

「どうやら敵が私を狙って来たみたいね。ありがとう、ドーナ」

 シュヴィーナはドーナにお礼を言った後、敵を探すために風魔法を使って周囲の細かな風の流れを探るが、これといった違和感はどこにもなかった。

「おかしいわね。どこにいるのかしら」

 今現在の彼女が調べられる範囲は自分を中心とした半径40mほどで、木などの障害物が多いこの森では十分と言えるほどに広かった。

 しかし、いくら意識を集中させて探してみても、その範囲内に敵の気配を見つけることが出来ず、シュヴィーナはどうしたものかと考える。

(考えられる可能性としては二つね。私の索敵範囲外から攻撃をしているか、それとも特殊な魔法または武器を使っているか…試すしかないわね)

 情報が足りないのであれば、その情報を集めれば良いと判断したシュヴィーナは、ドーナに指示を出して木の根を消させる。

「ドーナ。もし私が気づかない攻撃が来たら、さっきみたいに守ってちょうだい」

コク!

 ドーナに次の指示を出したシュヴィーナは、警戒しながら森の中を進んでいくと、しばらくしてドーナが魔法を使って背後に木の根を出現させる。

「ありがとう、ドーナ」

 ドーナに守られた後、シュヴィーナはまた木に隠れながら先ほどの攻撃について考える。

(さっきの攻撃、私も風の動きで攻撃されたことは分かったけど見えなかったわね。ということは、不可視の弓か矢を使っているのかしら。これは少し厄介ね)

 見えない不可視の攻撃。それは確かに厄介ではあるが、おかげで一つだけ分かったこともあった。

「攻撃は見えなくても敵の位置はわかったわ。なら、こちらからも反撃しないとね」

 風の索敵魔法で半径40mの風の動きを読んでいた結果、シュヴィーナは不可視の矢がどこから放たれたのかを知ることができた。

「場所はここから右方向に18mほど行った先の木の上ね」

 木に隠れながらチラッと先の様子を窺うと、木や枝はあるが矢を一本通すくらいの隙間はあるように見えた。

「やるしかないわね」

 シュヴィーナは弓に矢をつがえると、呼吸を整えて木の影から出る。

 そして、先ほど確認したルート通りに瞬時に矢を放つと、矢は風切り音を出しながら狙い通りに突き進んだ。

「あら。避けられたわね」

 風を読みながら様子を探っていたが、シュヴィーナが放った矢はどうやら敵に当たる前に避けられてしまったしい。

 しかも敵は何らかの方法で自身の姿も隠しているらしく、今のところ風の動きに変化はみられない。

「あら?どんな子が私に攻撃してきたのかと思って見にきたら、まだ全然お子様じゃない」

 すると、近くにあった木の上から突然声が聞こえたので見上げると、そこには赤い髪を一本に纏めた狩人のような格好をした女が立っていた。

「さっきの攻撃はあなたかしら?」

「えぇ、そうよ?まさか私の不可視の矢を防いだだけじゃなく反撃までしてくるなんて、どんな相手か気になったから見にきたけど、こんなお子様だったなんてね」

 女はそう言って木の上から飛び降りると、静かに地面へと降り立ちシュヴィーナの近くまで歩み寄る。

「ふーん、あなたエルフなのね」

「エルフだから何かしら?」

「いいえ。ただ、これまでエルフは殺したことがなかったから楽しみなだけよ。そうだ。ここで出会ったのも何かの縁だし、私とゲームをしない?」

「ゲーム?」

「えぇ。このままあなたを殺すのはつまらないし、お互い武器は弓だもの。距離を取って弓で殺し合いましょう。範囲はここから半径150mくらいでどうかしら」

「それって何の意味があるのかしら。今この場で殺し合ってもいいんじゃない?」

「あはは!そんなの楽しいからに決まってるでしょ?私は暗殺もするけど、基本的に狩りをする方が好きなの。だって逃げる獲物を追い詰めて殺すのって楽しいじゃない?
 だからあなたもせいぜいすぐに殺されないよう、頑張って逃げてちょうだいね。それじゃ」

 女は言いたいことだけを言い終えると、また木の上に飛んでどこかへと消えていく。

「まだ私、やるなんて言ってないのだけれど。それにあなた誰なのよ……はぁ、仕方ないわね」

 ルイスやフィエラほど戦うことが好きなわけではないシュヴィーナだが、今回は友人であるソニアが狙われているということもあり、気持ちを切り替えてやる気を出す。

「やるわよ、ドーナ。私たちの成長した姿を見せてあげましょう」

 シュヴィーナはそう言うと、名前も名乗らずに消えた暗殺者の女を捕まえるため、ドーナと2人で動き出すのであった。




~sideルイス~

 フィエラとシュヴィーナが森の奥に消えて行ったあと、ルイスとソニアのもとに多くの暗殺者たちが集まってきていた。

 暗殺者たちはルイスとソニアを囲むと、それぞれ短剣や弓、ガントレットなど多種多様な武器を構える。

(ざっと20人くらいか)

「小僧。隣の娘を置いて逃げるのならお前だけは見逃してやる。だからその娘をこちらに渡せ」

 ルイスが敵の数を確認していると、正面にいる短剣を構えた男がルイスにソニアを渡すように言ってくる。

「え、エイル。さすがにこれは数が多すぎるわ。あたしたち2人だけじゃどうしようも…あたしが向こうに行くから、あなただけでも逃げて」

 ソニアは自分が狙われていると分かっているはずなのに、それでも俺を逃がすために自分を引き渡すように言ってくる。
 しかし、ルイスがそんな暗殺者たちに恐怖を感じている様子は一切なく、むしろ楽しそうにニヤリと笑う。

「問題ない。この程度のやつらなら相手にもならないな」

「な、なに言ってるのよエイル!!」

「ほう?我々を前にしてその自信。女を前に粋がっているのなら後悔するぞ?」

「くはは。いいからかかって来いよ。遊んでやる」

「チッ。調子に乗るなよ。お前たち!2人とも始末しろ!」

 男が指示を出すと、周りにいた他の暗殺者たちが武器を構えて襲い掛かってくるが、ルイスが武器を抜くことはなく、これまで練っていた魔力を開放する。

「ソニア、よく見ておけ。これが俺から教える最後の魔法だ」

「え?」

「『深淵の扉アビス・ゲート・《カイナ》』」

 ルイスが魔法を使用した瞬間、地面に漆黒の扉が現れ、暗殺者たちの足元を暗く照らす。

「捕らえろ」

「な、なんだ!?」

「ひっ?!う、腕が!!」

 足元に現れた扉が開くと、そこから黒い腕がいくつも伸びていき、暗殺者たちの足や腕を掴んでいく。

 そして、その腕に掴まれた暗殺者たちはズルズルと扉の方へ引きずられていくと、そのまま扉の中へと消えていった。

「す、すごい…」

 深淵の扉・《腕》とは、闇魔法でも上位に位置する深淵の扉に、同じ闇魔法の黒の手《ダーク・ハンド》を複合させた魔法であり、未来のソニアが得意としていた魔法でもあった。

 通常の深淵の扉は任意のところに扉を開き、そこに敵を閉じ込めるだけの魔法だが、ルイスが使用した魔法は未来のソニアが作ったオリジナル魔法で、敵を逃さないために扉から腕が生えてくると、それらが敵を掴んで扉の中へと引き摺り込む。

 これは彼女が敵を絶対に逃さず、そして仲間を確実に守るために作り出した残酷で優しい魔法なのだ。

(普通はこのまま存在が消えて死ぬんだが、今回は生け捕りが目的だし、気を失うだけにしたけどな)

 ルイスが魔法を解除すると、気を失った状態で地面に倒れる20人ほどの男たちが現れる。

 ルイスはそいつらを土魔法で作った檻に放り込むと、最後の1人が来るのを待った。

「お、終わったの?」

「いいや」

「なんだぁ?全員やられちまったのかよ。情けねぇなぁ!」

 大きな声でそんな事を言いながら現れたのは、これまた身長が2mを超えている大きな男で、筋肉で盛り上がった体には数えきれないほどの傷があり、肩に担いだ巨大な戦斧がとても似合うやつだった。

(こいつ強いな)

「おめぇがこいつらをやったのか?」

「そうだが?」

「そうか。ならこいつらが負けたのにも頷けるな。お前、かなり強いだろ」

「まぁ、そこそこかな。まだまだ上を目指すつもりだけどね」

「がっはっはっ!!そうか!なら、今度は俺の相手をしてくれよ!正直、ガキを殺すだけの依頼だと聞いてガッカリしてたんだ!」

「それは嬉しいね。俺もこんな雑魚だけで終わっていたら、退屈で死ぬところだったよ」

「がはははは!威勢がいいやつは嫌いじゃねぇぜ!!俺はアイドだ!せいぜい楽しもうじゃねぇか!!」

「俺はエイル。あんたは俺を殺せるかな?」

 アイドが武器を構えたのに対し、ルイスは無手で自然体に立ってアイドを見据えると、2人はソニアの事を忘れてお互いにのみ集中する。

 そして、ソニアが一生忘れることのできない2人の戦いが、今この瞬間に始まるのであった。





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