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冒険編
退学
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~side魔族の男~
森の中を必死で駆け抜ける魔族の男は、先ほど見た光景が信じられず逃げるように全力で走っていた。
(馬鹿な。何故あの力を人間が使えるのです。あの力は…)
男はこの事実をすぐにでも自分の主人に伝えるため、暗い森の中を走り続ける。
(あの力は我が主人たちと同じ力でした。何故あの人間が持っていたのかは分かりませんが、ずっと不在だったあの席がついに埋まるというわけですか)
長年不在だった最後の席。その席がついに埋まるのだと思うと、男は歓喜して思わずニヤリと笑ってしまう。
(ですが、人間があの力を手に入れるとは思っておりませんでした。少し厄介ですが、見た感じ同族である人間には興味がない様子。
であれば、こちら側に引き込むことも容易いでしょう。全ては魔王様の復活のために)
魔族の男はその後、一度も休む事なく走り続け、自身の主人が待つ魔族領へと戻るのであった。
~sideルイス~
俺が王様のところから戻って早くも一週間が経った。その日は朝から街中が人の声でうるさく、みんな王城の前へと集まっていた。
そこへ、一週間前と変わらない虚な瞳した王様が現れ、王城の前に集まった民衆たちに向けて話し始める。
「此度は余の急な呼び出しに集まってもらい感謝する。今回集まってもらったのは、余から皆に謝罪せねばならぬことがあるからだ」
集まっていた民衆たちは、王が突然謝らなければならないことがあると話した事で、彼らの間にざわめきが生じる。
「余は王として、そして一人の人間として許されざる大罪を犯した。
余は魔族と手を組み、そして身寄りのない子供たちを魔族へと渡し、一つの村を彼らの実験場として明け渡していた。
この罪は償っても償い切れないものであり、謝っても許されるものではない。
よって、余は今日を持って王位を退き、北の塔へと入ろう。
また、我が一族は全ての者が王位継承権を放棄し、次なる王は初代賢者様の弟子の血を引く他の家系へと任せる。
最後に。皆の者、本当にすまなかった」
王様はそう言って頭を下げると、あたりは静寂に包み込まれる。
北の塔とは、大罪を犯したものを幽閉する場所であり、そこでは一切の自由が許されない。
入ったが最後、その者は二度と外の景色を見る事はできず、死後も塔内にある薄暗い墓地に名前も残さず埋められるだけだ。
また、塔の中で生きている間は魔力を搾り取るための道具とされ、人工魔石に魔力を込めたり、魔力を使う際の実験時に使われるだけの家畜となる。
そこはまさに死んだ方がマシだと思えるほどに最悪な場所であり、彼のような大罪人には相応しい場所でもあった。
『ふざけんな!』
『最低よ!』
『お前なんて死んじまえ!!』
『人族の裏切り者!』
すると、先ほどまで黙っていた民衆たちは一人が大きな声で罵ったあと、堰を切ったように次々と容赦のない言葉が王様に浴びせられる。
しかし、王様はその全てを虚な目で聞き続けた後、最後にもう一度だけ頭を下げて戻っていった。
「ふむ。まぁまぁかな。欲を言えばもう少し自我を残して苦しむ姿を見るのもありだったが、力の制御がまだ出来ないからな。命令を聞いただけマシだろう」
少し離れた所にある屋根の上からその様子を眺めていた俺は、今後の課題について考えながらその場から飛び降りると、下で待っていたフィエラたちと合流する。
「次はどうする?」
「学園に行く。退学するならちゃんと挨拶をしないとな」
「あなた、変なところで律儀なのね」
シュヴィーナは何故か呆れた様子を見せながらも、学園に向かって歩き出した俺たちについてくる。
「てか、お前らは良いのか?ソニアと仲良かっただろ。フィエラはともかく、シュヴィーナは残るって選択肢もあるんじゃないのか?」
「そうね。ソニアとは確かに友達になれたけれど、エイルたちと冒険者を続ける事と比べたら、申し訳ないけどこっちの方が大事ね。
それに、あの学園に通うよりあなたについて行った方が学べることも多そうだし」
そう言ったシュヴィーナを見てみると、本気でそう思っているのか世辞や嘘の感情は見られなかった。
「そうか。まぁ俺は教えたりする気は無いけどな」
「別に私も一から十まで教えもらおうなんて思ってないわ。あなたを見て勝手に学ぶから気にしないで」
その後、俺たちは特に話すこともなく歩き続け、ゆっくりと学園に向かうのであった。
お昼頃に学園へとやってきた俺たちは、教師たちに与えられた部屋へと向かい、そこで担任のハミルに声をかける。
「ハミル先生。今少しお時間いいですか?」
「ん~?あぁ、君たちか。今日は来ないと思っていたけど、こんな時間にどうしたんだい?」
「はい。俺たち、今日で退学しようと思いまして、退学届を持ってきました」
「なるほど、退学ね。了解。少し待って……退学?!」
ハミルは俺たちが退学すると聞いてよほど驚いたのか、大きな声でそう言いながら立ち上がった。
「落ち着いてください」
「ご、ごめん。いや、でもどうして急に退学なんて…」
「そうですね。端的に言えば、学べることが無かったので」
「うわ~。それ教師に面と向かって言っちゃダメなやつだよ?なんかもっとこう、思ってたのと違ったとか、他にやりたいことがとか無かったの?まぁ、確かに君たちのレベルで学べることなんて、この学園には無いだろうけど」
俺の退学理由を聞いたハミルは、何故か呆れた様子で溜息を吐きながらそんなことを言う。
「まぁそういうことなんで、俺たち退学しますね。こちら退学届なんで、よろしくお願いします」
「はぁ、わかったよ。手続きは僕の方でしておくよ。全く。王様のせいで忙しい時にまた面倒ごとが増えるとは…。あ、それとエイルくん」
「はい?」
「君が来たら伝えて欲しいって言われたんだけど、学園長がいつでも良いから来てくれってさ」
「わかりました」
学園長が俺に何の用なのかは分からないが、呼ばれた以上は行かなければならないし、もともと最後の挨拶のために会いに行く予定だったので学園長からの呼び出しはちょうど良かった。
ハミルの部屋を出た後、フィエラたちも一緒に行くか尋ねてみたが、彼女たちはソニアに会いに行くらしく断られた。
そして、1人で学園長のいる部屋までやってきた俺は、ノックをしてから返事を待つ。
「入って良いぞ」
「失礼します」
部屋の中へと入ると、入学試験の日に会って以来となる学園長が、椅子に座りながら執務で忙しそうにしていた。
「よくきてくれたの。そこに座りなさい」
「はい」
俺は部屋の中を進み、真ん中に置かれたソファーへと座ると、学園長が魔法で入れてくれた紅茶が宙を浮かびながらゆっくりとテーブルに置かれる。
「それでも飲んで待っていてくれ。もう少しで終わるからの」
「わかりました」
それからしばらく待っていると、執務を終えた学園長が向かい側のソファーへと座った。
「ふぅ。老体に書類仕事は辛いのぉ」
「お疲れ様です」
「ほっほっ。ありがとう」
学園長は自分の紅茶も魔法で入れてテーブルに置くと、それを一口飲んで溜息を吐き、いよいよ話の本題へと移る。
「はぁ。それにしても、お主やってくれたのぉ」
「何がです?」
「王のことじゃよ。あやつをあんな風にしたのはお主じゃろ?」
「さぁ。何のことだか」
「惚けるでない。一週間前、城の方から僅かじゃがお主の魔力を感じた。その次の日からじゃ。あやつがおかしくなったのは。もう一度聞く。お主なのじゃろ?」
学園長はそう言うと、先ほどまでの優しそうな雰囲気から一変、魔力を解放して威圧しながら尋ねてくる。
「そうですよ。俺がやりました」
「やはりな。何が目的じゃ?」
「別に何も。あえて言うなら、王様が手を組んでいた魔族に興味があっただけです。
そのついでに、あなたの先祖が正せなかった罪を俺が代わりに正しただけですよ」
「お主、まさか気づいて…」
「まぁ仮説ですがね。あなたは何らかのきっかけであの王族が行ってきたことを知ったのでしょう?
そして、それと同時に自分の先祖が何のために魔法師協会を作ったのかも知った。
あなたの先祖はおそらく、魔族と手を組んだ弟子の1人が初代賢者の魔力を封じるのを止められなかったのでしょう。
その事を悔やんだあなたの先祖は、今後そんな過ちが起きないよう、王族にも負けない地位を築くために魔法師協会を作った。
結果、魔法師協会は順調に力をつけて行き、何代か前に王族の暴挙を実力行使で止める権利を得た」
「…本当に、お主は恐ろしいのぉ」
過去にソニアから聞いた話を基に考えた仮説を説明すると、学園長は心の底から驚いたといった表情で俺のことを見てくる。
「あなたがソニアを特別気にかけていたのは見ていて分かりましたから。その視線に、僅かながら謝罪の感情が困っているのもね」
「お主の言う通りじゃ。儂は昔、屋敷の中で隠された部屋を見つけた。
そこには先祖が残したと思われる手帳があり、そこに全ての真実が書いてあった。
儂はどうするべきか悩んだが、結局どうすることもできなかった。
その真実を知った時、儂は既に魔法師教会の会長の座を降りていたし、今もあやつらが魔族と手を組んでいるという証拠が見つけられなかったからじゃ」
「その時に、ソニアを見つけたんですか?」
「そうじゃ。森の中で1人、並外れた魔力があるにも関わらず魔法が一切使えず、それでも直向きに練習を続けるあの娘を見かけた。
その時に彼女にかけられた魔力封印にも気づき、先祖に代わって儂がこの娘を守らねばと思った。
だから時間がある時はなるべく彼女を見守るようにし、いざという時に助けられるよう備えておったが、お主が全て解決してしまったわい」
学園長はそう言って苦笑いすると、冷めた紅茶を一気に飲み干した。
「もう儂があの娘にしてやれることは無くなってしまったのぉ」
「いいえ。あなたにはまだやるべきことがあります」
「なんじゃ?」
「それは、ソニアの魔法の師となることです」
「儂がか?お主ではなく」
「俺が今日ここにきたのは、学園を退学し、この国を出るためです。
なので、俺はこれ以上あいつの面倒を見ることはできない。まぁもともとそんなに見ていませんでしたがね」
「あの娘は連れて行かんのか?」
「正直言って、今の彼女を連れて行くのは色々と邪魔なんですよ。実力的にも価値観的にも。俺と彼女は根本的なところが合わない。一緒にいれば、いつか必ずどこかで衝突することになる。そういうのは面倒なんです」
「お主、容赦無いのぉ。じゃが、儂も王があんな事になったせいで忙しいんじゃが?」
「それについてはご安心を。俺に一つ考えがあります」
俺はそう言うと、王がいなくなったこの国について考えていた事を説明して行く。
「確かに悪くないが…果たしてうまく行くだろうか」
「大丈夫でしょう。今は民衆も王という一人の存在を頂点に置くことに不安を感じているはず。であれば、民衆の力を使えば他の弟子の末裔もこの案を飲むしかない。
それに、最悪うまく行かなければ、魔法師協会の力を使えばうまく行くのでは?」
「…はぁ。儂の静かな老後の生活が遠くなって行くようじゃ」
「あはは。まだまだ隠居するには早いですよ」
「お主は悪魔じゃな…まぁ、わかった。お主の言う通りに進めてみるとしよう」
「えぇ。頑張ってください」
俺はそう言ってソファーから立ち上がると、扉の方へと向かって歩き出す。
「もう行くのか?」
「俺には時間が無いんです。もっと力をつけなければ」
「そうか。じゃが、焦りは禁物じゃ。でないと、足元を掬われて死んでしまうぞ」
「ご忠告ありがとうございます。ですが、死ぬ程度のことなら俺は何とも思いませんから安心してください」
「…お主」
「では…」
俺はそう言って扉に手をかけると、振り返る事なくその部屋を後にするのであった。
ルイスが部屋を出た後、学園長はソファーにもたれ掛かり、大きく息を吐く。
「あの子は危険じゃな。あそこまで自分の死に興味が無い子は初めて見た」
学園長は、先ほど見せたルイスの姿が脳裏から離れず、また彼の考え方の危険性も理解していた。
「あの子に何があったのかは知らんが、あの子と行動を共にするのはまさに茨の道じゃな。…はぁ。ソニアのお嬢ちゃんはどうするのかのぉ。彼を追いかけるなんて言われたら、儂ちゃんと止められるだろうか」
学園長はこれまでソニアのことを密かに見守ってきた結果、勝手ながら彼女のことを実の孫のように思っていた。
そんな彼女がルイスと同じ道を進もうとした時、果たして自分はどうするべきなのか。
この瞬間、学園長の心労がまた一つ増えたのであった。
森の中を必死で駆け抜ける魔族の男は、先ほど見た光景が信じられず逃げるように全力で走っていた。
(馬鹿な。何故あの力を人間が使えるのです。あの力は…)
男はこの事実をすぐにでも自分の主人に伝えるため、暗い森の中を走り続ける。
(あの力は我が主人たちと同じ力でした。何故あの人間が持っていたのかは分かりませんが、ずっと不在だったあの席がついに埋まるというわけですか)
長年不在だった最後の席。その席がついに埋まるのだと思うと、男は歓喜して思わずニヤリと笑ってしまう。
(ですが、人間があの力を手に入れるとは思っておりませんでした。少し厄介ですが、見た感じ同族である人間には興味がない様子。
であれば、こちら側に引き込むことも容易いでしょう。全ては魔王様の復活のために)
魔族の男はその後、一度も休む事なく走り続け、自身の主人が待つ魔族領へと戻るのであった。
~sideルイス~
俺が王様のところから戻って早くも一週間が経った。その日は朝から街中が人の声でうるさく、みんな王城の前へと集まっていた。
そこへ、一週間前と変わらない虚な瞳した王様が現れ、王城の前に集まった民衆たちに向けて話し始める。
「此度は余の急な呼び出しに集まってもらい感謝する。今回集まってもらったのは、余から皆に謝罪せねばならぬことがあるからだ」
集まっていた民衆たちは、王が突然謝らなければならないことがあると話した事で、彼らの間にざわめきが生じる。
「余は王として、そして一人の人間として許されざる大罪を犯した。
余は魔族と手を組み、そして身寄りのない子供たちを魔族へと渡し、一つの村を彼らの実験場として明け渡していた。
この罪は償っても償い切れないものであり、謝っても許されるものではない。
よって、余は今日を持って王位を退き、北の塔へと入ろう。
また、我が一族は全ての者が王位継承権を放棄し、次なる王は初代賢者様の弟子の血を引く他の家系へと任せる。
最後に。皆の者、本当にすまなかった」
王様はそう言って頭を下げると、あたりは静寂に包み込まれる。
北の塔とは、大罪を犯したものを幽閉する場所であり、そこでは一切の自由が許されない。
入ったが最後、その者は二度と外の景色を見る事はできず、死後も塔内にある薄暗い墓地に名前も残さず埋められるだけだ。
また、塔の中で生きている間は魔力を搾り取るための道具とされ、人工魔石に魔力を込めたり、魔力を使う際の実験時に使われるだけの家畜となる。
そこはまさに死んだ方がマシだと思えるほどに最悪な場所であり、彼のような大罪人には相応しい場所でもあった。
『ふざけんな!』
『最低よ!』
『お前なんて死んじまえ!!』
『人族の裏切り者!』
すると、先ほどまで黙っていた民衆たちは一人が大きな声で罵ったあと、堰を切ったように次々と容赦のない言葉が王様に浴びせられる。
しかし、王様はその全てを虚な目で聞き続けた後、最後にもう一度だけ頭を下げて戻っていった。
「ふむ。まぁまぁかな。欲を言えばもう少し自我を残して苦しむ姿を見るのもありだったが、力の制御がまだ出来ないからな。命令を聞いただけマシだろう」
少し離れた所にある屋根の上からその様子を眺めていた俺は、今後の課題について考えながらその場から飛び降りると、下で待っていたフィエラたちと合流する。
「次はどうする?」
「学園に行く。退学するならちゃんと挨拶をしないとな」
「あなた、変なところで律儀なのね」
シュヴィーナは何故か呆れた様子を見せながらも、学園に向かって歩き出した俺たちについてくる。
「てか、お前らは良いのか?ソニアと仲良かっただろ。フィエラはともかく、シュヴィーナは残るって選択肢もあるんじゃないのか?」
「そうね。ソニアとは確かに友達になれたけれど、エイルたちと冒険者を続ける事と比べたら、申し訳ないけどこっちの方が大事ね。
それに、あの学園に通うよりあなたについて行った方が学べることも多そうだし」
そう言ったシュヴィーナを見てみると、本気でそう思っているのか世辞や嘘の感情は見られなかった。
「そうか。まぁ俺は教えたりする気は無いけどな」
「別に私も一から十まで教えもらおうなんて思ってないわ。あなたを見て勝手に学ぶから気にしないで」
その後、俺たちは特に話すこともなく歩き続け、ゆっくりと学園に向かうのであった。
お昼頃に学園へとやってきた俺たちは、教師たちに与えられた部屋へと向かい、そこで担任のハミルに声をかける。
「ハミル先生。今少しお時間いいですか?」
「ん~?あぁ、君たちか。今日は来ないと思っていたけど、こんな時間にどうしたんだい?」
「はい。俺たち、今日で退学しようと思いまして、退学届を持ってきました」
「なるほど、退学ね。了解。少し待って……退学?!」
ハミルは俺たちが退学すると聞いてよほど驚いたのか、大きな声でそう言いながら立ち上がった。
「落ち着いてください」
「ご、ごめん。いや、でもどうして急に退学なんて…」
「そうですね。端的に言えば、学べることが無かったので」
「うわ~。それ教師に面と向かって言っちゃダメなやつだよ?なんかもっとこう、思ってたのと違ったとか、他にやりたいことがとか無かったの?まぁ、確かに君たちのレベルで学べることなんて、この学園には無いだろうけど」
俺の退学理由を聞いたハミルは、何故か呆れた様子で溜息を吐きながらそんなことを言う。
「まぁそういうことなんで、俺たち退学しますね。こちら退学届なんで、よろしくお願いします」
「はぁ、わかったよ。手続きは僕の方でしておくよ。全く。王様のせいで忙しい時にまた面倒ごとが増えるとは…。あ、それとエイルくん」
「はい?」
「君が来たら伝えて欲しいって言われたんだけど、学園長がいつでも良いから来てくれってさ」
「わかりました」
学園長が俺に何の用なのかは分からないが、呼ばれた以上は行かなければならないし、もともと最後の挨拶のために会いに行く予定だったので学園長からの呼び出しはちょうど良かった。
ハミルの部屋を出た後、フィエラたちも一緒に行くか尋ねてみたが、彼女たちはソニアに会いに行くらしく断られた。
そして、1人で学園長のいる部屋までやってきた俺は、ノックをしてから返事を待つ。
「入って良いぞ」
「失礼します」
部屋の中へと入ると、入学試験の日に会って以来となる学園長が、椅子に座りながら執務で忙しそうにしていた。
「よくきてくれたの。そこに座りなさい」
「はい」
俺は部屋の中を進み、真ん中に置かれたソファーへと座ると、学園長が魔法で入れてくれた紅茶が宙を浮かびながらゆっくりとテーブルに置かれる。
「それでも飲んで待っていてくれ。もう少しで終わるからの」
「わかりました」
それからしばらく待っていると、執務を終えた学園長が向かい側のソファーへと座った。
「ふぅ。老体に書類仕事は辛いのぉ」
「お疲れ様です」
「ほっほっ。ありがとう」
学園長は自分の紅茶も魔法で入れてテーブルに置くと、それを一口飲んで溜息を吐き、いよいよ話の本題へと移る。
「はぁ。それにしても、お主やってくれたのぉ」
「何がです?」
「王のことじゃよ。あやつをあんな風にしたのはお主じゃろ?」
「さぁ。何のことだか」
「惚けるでない。一週間前、城の方から僅かじゃがお主の魔力を感じた。その次の日からじゃ。あやつがおかしくなったのは。もう一度聞く。お主なのじゃろ?」
学園長はそう言うと、先ほどまでの優しそうな雰囲気から一変、魔力を解放して威圧しながら尋ねてくる。
「そうですよ。俺がやりました」
「やはりな。何が目的じゃ?」
「別に何も。あえて言うなら、王様が手を組んでいた魔族に興味があっただけです。
そのついでに、あなたの先祖が正せなかった罪を俺が代わりに正しただけですよ」
「お主、まさか気づいて…」
「まぁ仮説ですがね。あなたは何らかのきっかけであの王族が行ってきたことを知ったのでしょう?
そして、それと同時に自分の先祖が何のために魔法師協会を作ったのかも知った。
あなたの先祖はおそらく、魔族と手を組んだ弟子の1人が初代賢者の魔力を封じるのを止められなかったのでしょう。
その事を悔やんだあなたの先祖は、今後そんな過ちが起きないよう、王族にも負けない地位を築くために魔法師協会を作った。
結果、魔法師協会は順調に力をつけて行き、何代か前に王族の暴挙を実力行使で止める権利を得た」
「…本当に、お主は恐ろしいのぉ」
過去にソニアから聞いた話を基に考えた仮説を説明すると、学園長は心の底から驚いたといった表情で俺のことを見てくる。
「あなたがソニアを特別気にかけていたのは見ていて分かりましたから。その視線に、僅かながら謝罪の感情が困っているのもね」
「お主の言う通りじゃ。儂は昔、屋敷の中で隠された部屋を見つけた。
そこには先祖が残したと思われる手帳があり、そこに全ての真実が書いてあった。
儂はどうするべきか悩んだが、結局どうすることもできなかった。
その真実を知った時、儂は既に魔法師教会の会長の座を降りていたし、今もあやつらが魔族と手を組んでいるという証拠が見つけられなかったからじゃ」
「その時に、ソニアを見つけたんですか?」
「そうじゃ。森の中で1人、並外れた魔力があるにも関わらず魔法が一切使えず、それでも直向きに練習を続けるあの娘を見かけた。
その時に彼女にかけられた魔力封印にも気づき、先祖に代わって儂がこの娘を守らねばと思った。
だから時間がある時はなるべく彼女を見守るようにし、いざという時に助けられるよう備えておったが、お主が全て解決してしまったわい」
学園長はそう言って苦笑いすると、冷めた紅茶を一気に飲み干した。
「もう儂があの娘にしてやれることは無くなってしまったのぉ」
「いいえ。あなたにはまだやるべきことがあります」
「なんじゃ?」
「それは、ソニアの魔法の師となることです」
「儂がか?お主ではなく」
「俺が今日ここにきたのは、学園を退学し、この国を出るためです。
なので、俺はこれ以上あいつの面倒を見ることはできない。まぁもともとそんなに見ていませんでしたがね」
「あの娘は連れて行かんのか?」
「正直言って、今の彼女を連れて行くのは色々と邪魔なんですよ。実力的にも価値観的にも。俺と彼女は根本的なところが合わない。一緒にいれば、いつか必ずどこかで衝突することになる。そういうのは面倒なんです」
「お主、容赦無いのぉ。じゃが、儂も王があんな事になったせいで忙しいんじゃが?」
「それについてはご安心を。俺に一つ考えがあります」
俺はそう言うと、王がいなくなったこの国について考えていた事を説明して行く。
「確かに悪くないが…果たしてうまく行くだろうか」
「大丈夫でしょう。今は民衆も王という一人の存在を頂点に置くことに不安を感じているはず。であれば、民衆の力を使えば他の弟子の末裔もこの案を飲むしかない。
それに、最悪うまく行かなければ、魔法師協会の力を使えばうまく行くのでは?」
「…はぁ。儂の静かな老後の生活が遠くなって行くようじゃ」
「あはは。まだまだ隠居するには早いですよ」
「お主は悪魔じゃな…まぁ、わかった。お主の言う通りに進めてみるとしよう」
「えぇ。頑張ってください」
俺はそう言ってソファーから立ち上がると、扉の方へと向かって歩き出す。
「もう行くのか?」
「俺には時間が無いんです。もっと力をつけなければ」
「そうか。じゃが、焦りは禁物じゃ。でないと、足元を掬われて死んでしまうぞ」
「ご忠告ありがとうございます。ですが、死ぬ程度のことなら俺は何とも思いませんから安心してください」
「…お主」
「では…」
俺はそう言って扉に手をかけると、振り返る事なくその部屋を後にするのであった。
ルイスが部屋を出た後、学園長はソファーにもたれ掛かり、大きく息を吐く。
「あの子は危険じゃな。あそこまで自分の死に興味が無い子は初めて見た」
学園長は、先ほど見せたルイスの姿が脳裏から離れず、また彼の考え方の危険性も理解していた。
「あの子に何があったのかは知らんが、あの子と行動を共にするのはまさに茨の道じゃな。…はぁ。ソニアのお嬢ちゃんはどうするのかのぉ。彼を追いかけるなんて言われたら、儂ちゃんと止められるだろうか」
学園長はこれまでソニアのことを密かに見守ってきた結果、勝手ながら彼女のことを実の孫のように思っていた。
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