悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

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悪役令嬢のシスコンすぎる兄

9 悪役令嬢の私(妹)ですが、兄のお願いは断りたい

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 「エリック兄様、これはなんなのですか?
 屋敷の庭に敷き詰められている石のようですが………
 何に使うご予定で?」


 今日は兄がこれからの領地改革について相談があると言うので、お家の倉庫にと二人で来ていた。
 私は、この間鉱山に行った際に兄が持ち帰った白くゴツゴツとした石を手に取り凝視していた。


 「まあまあ、これから説明するからさっ。

 これは石灰岩だよ。炭酸カルシウムを主成分とする岩石を学問的には石灰岩と言うんだけど、鉱業の対象として考える時は石灰石とも呼ぶかな。」

 私は周りに誰もいないかを確認すると、兄の耳に手を立てて口を近づけ話す。

 「石灰とはよく運動会の白線に使われたりするようなものですわね?」

 「そうだよ。石灰石には様々な用途があってね?
 前世だとセメントや大理石のような床材に使われたり、酪農では飼料に混ぜて与えることで牛の牛乳や鳥の卵のからの成分にもなるんだよ。石灰は土壌のph値を調整する為や食物そのものの栄養素にもなるし、殺虫・殺菌効果もあるんだ————」



 「床材を売って資金にしたり、自領の農業や酪農にその知識を広めていくんですわね!!!」

 兄の知識に興奮し食い気味に言葉を挟む。


 「そのつもりだよ。でもリリにはもう一つお願いしたいことがあるんだ」


 「お願いしたいことですか?」

 兄がお願いなど悪い予感しかしない…………


 「お煎餅を作って欲しい!!!!」


 「お煎餅ですか…………?」


 そういえば前世の兄は醤油煎餅が好きだった。というより兄とが好きだった。
 私は妹にどうしても自分の作ったお煎餅を食べてほしくて時間をかけて作ったことがあるのだが、それが意外にも家族に好評でそれ以来手作りするようになった。
 毎回大量に作るので兄はいつも片手にお煎餅を持っていた。


 「そうだ!梨々が作ってくれたお煎餅が忘れられないのだよ!!」

 ——お煎餅を持ちながら研究に励むようなバカはうちの兄だけだよ…………


 「はあ………でもお米なんてこの領にありましたか?それにお醤油も必要ですし…………」


 「それなら心配ない!!お米も大豆も少量だが入手し栽培にも成功している!」

 準備がよすぎではないか兄よ…………
 キラキラ発言する兄に私は少し引いた…………
 いや、かなり引いた…………



 「いつの間に栽培なんてしていたのですか…………」


 「それはもちろん、リリが前世の記憶を取り戻した頃にはいつかは作ってもらおうと思っていたから、3年前から着々と準備を進めてて、ようやく去年の秋には栽培できたかな」


 「なんという執念…………」

 私は呆れながらそう言うと

 「何も自分のためだけに作って欲しいと言っているわけではないよ。少しは思ってい————
 いや、これはこの領の為になるんだ!」


 と鼻息を荒くした兄が言葉を返す。



 「領のためとは?」


 「お煎餅は冷蔵庫がないこの世界でも保存がきくし、作るとしても手間はかかるが特に特別な材料や器具を使うわけでもない」

 ——確かによく私の作っているところを見てたもんな~。


 お煎餅は前世でも歴史が古く、紀元前から食べられていたような伝統的なお菓子だから、
 手間はかかるけどそんなに材料も使わない。
 お煎餅が割れないように何度も試行錯誤を重ねたが、一度コツを掴んでしまえばあとは簡単に作ることができた。


 「それに石灰石を使って乾燥剤を作ることもできるんだ!
 だから、お煎餅を自領の産物にしたいと思っている!!」


 ——乾燥剤か…………それなら国内だけでなく他国にも輸出できるかも…………

 この世界ではお菓子の種類が少ないと聞くし、保存もできないものがほとんどなので売れるかもしれない。前世でも外国からの評価が良かったお煎餅だから、きっとこの世界でも通じるだろう。


 ——でもな…………




 醤油の開発や一からこの世界でお煎餅を作るとなるとかなり大変だ。


 「リリにしかできないことなんだ!!
 もし手伝ってくれると言うのなら、リリが望むものも用意するよ!」

 「特に今は望みなどありませんわ」

 きっぱりと兄に向かって言う。

 「そこをなんとか頼む!!!お願いだリリ!!!」

 なんだか前回のお父様状態になってはいませんか…………?

 ——うーん。領地のために何かすると決めたしな…………

 「しかし…………さすがに私一人では…………」


 「そう言うと思って助っ人に来てもらうことになっているっ!
 そろそろ着く頃だ!」


 「助っ人?」


 誰だろう…………
 思い当たるのはノルマンディー家のセレナさんくらいだけど…………
 彼女を今では私のレシピの虜であり、健康・美容オタクのアニエスさんがアルマニャック家に来ることを許すだろうか…………


 コンコン


 「エリック様。お客様をお連れいたしました」


 ドアの向こうから使用人の声が聞こえた。

 「来たようだ………。入ってくれ!」


 ギィー
 ドアの向こうには、首からかけた布に包帯を巻いた腕をのせた、この間鉱山で見かけた少女が立っていた。


 私はエリックの袖を引っ張ると、こそこそとエリックに話しかけた。

 「エリック兄様、どう言うことですか?
 彼女は子供ですよ?それに怪我だってまだ…………
 第一!お煎餅を作るのだからせめて料理場の方とかいらしたでしょう………」


 「俺たちだって子供だ。
 彼女、石灰岩の採掘に切り替わってから仕事がなくなってしまったようなんだ。
 それに料理場だって毎日忙しいんだからお願いするなんで無理だぞ————



 「お願いします!料理も家でお手伝いしてますし、基礎的なことならできます!
 なんでもしますので働かせてください!!」

 彼女ははっきりとした口調でそう言うと、深く頭を下げた。

 「ですが…………」

 私は彼女たちが働かなくても食べていけるような豊かな領にする為にこれから資金を貯めようというのに、彼女を雇うなど元も子もない…………


 私が渋っていると、怪我人は使えないと思われていると勘違いしてか、彼女はバっと顔を上げると私を真剣な表情で見つめて来た。

 うっ、鉱山であった時も思ったけどこの子素材がとてもいいっ!
 真剣な眼差しといい、健気に頑張るこの姿勢…………私好みすぎるっ!

 でも、だからと言って…………

 ジッ
 彼女のまっすぐな瞳がまたしても私の目を捕らえる。


 「お願いします!!」



 「で、どうするリリ?」


 兄は意地悪なことに私に決定権を委ねて来た。


 「わかって言ってますよね…………タチ悪いですわよエリック兄様…………」


 兄はいつものようにニコニコした笑顔で私を見ている。
 私はドアの方に顔を向けると、彼女は私たちのやりとりを不思議そうな顔で見つめていた。

 私は彼女の前まで行くと彼女を怖がらせないように優しい口調で話しかけた。


 「私はリリアンヌ・アルマニャックと申します。あなた、お名前はなんと言うのかしら?」


 「…………マリーです」


 「ではマリー、これからよろしく頼みますね?」


 マリーはみるみるうちに顔がパーっと明るくなる。


 「はい!!!頑張ります!!!
 よろしくお願いします!!!!」



 ——うっ、可愛い。

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