悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

文字の大きさ
13 / 14
悪役令嬢のシスコンすぎる兄

12 悪役令嬢の私(妹)ですが、兄に内緒でトキメキたい?

しおりを挟む

 「エリック兄様? 
 こんな早くからどこかへお出かけですか?」


 ベルナルド様との取引の次の日。
 朝早くから暗めのローブのフードを深くかぶり宿泊先から出て行こうとする兄を呼び止め、話しかける。


 「リリ…………。いや、ちょっとエイタリー国の町並みを見に…………」


 「では、私も連れてってくださいな」


 「え…………でも、すぐ帰って来るぞ…………」


 渋る兄に畳み掛けるようにして言葉を発した。

 「私がついて行ったら何か問題ございますか?」


 「いや、そんなことはないが…………」


 「では。決まりですね!」



 私たちは一応貴族なので護衛がつき、外出するときはあまり目立たないように護衛も私たちも変装をする。
 マリーにも町並みを見せてあげたかったので、一緒に連れて行くことにした。
 

 エイタリー国の王都の町並みは、見たことのない店が立ち並び、魔法があちこちで使われている為、私にはキラキラしているように見えた。
 普通は貴族にしか魔法を使えないのだが、エイタリー国では魔法をこめた石を使って誰でも簡単に使える。
 それも、魔法バカの第二王子が色々な魔法を石にこめては寄付という形で町の活性化に貢献している。



 「リリィ!!」

 聞いたことのある声に振り返る。

 「…………ルカ様!? ルカ様がどうしてエイタリー国へ?」

 そこには身長が伸び、髪も短髪で、少し大人っぽい顔つきになったルカがいた。
 全然会っていなかった為、初めは誰かわからなかった。

 ルカは早くから魔法の才能が開花した為、色々忙しいと聞いていたし、私も最近は食品の研究で忙しく彼此二年ぶりの再会だった。

 「僕の魔法の先生がエイタリーの人でね、何ヶ月間はこっちで魔法を教えてもらっているんだ。
 今日はエリックにエイタリーの街を案内しようと思ったんだけど聞いていない??
 こないだリリィに送った手紙にも書いたんだけど…………」


 「手紙?手紙なんて届いておりませんわ…………。 
 まさか…………エリック兄様…………?」


 兄はギクッとした表情を一瞬したが、開き直る。


 「ほら、リリはお煎餅の研究で忙しかったろ?邪魔してはいけないと思ってなっ! 
 決して、リリとルカの仲を裂いていた訳ではないぞ!!
 ルカも毎月手紙なんて送ってくるなよな!!」


 「兄様…………」

 ——いつもの事だけどさ…………。

 ルカは大体予想がついていたのか、兄を咎めなかった。
 毎回送ってたのに相手に読まれず、返事もこないでよく心が折れずに出し続けたな…………。


 「これからはリリィに直接届くように鳩に手紙をつけて送ることにするよ。
 忙しいと思うけど、時々でいいから手紙くれると嬉しいな」

 兄とは違う紳士で大人な対応に、以前のルカのような可愛い姿はなかった。
 
 ——なんだか、少し見ないうちに大人になって…………。
 ゲームの容姿に近づいていているのはわかった。

 
 「…………わかりましたわ。しかし、ルカ様もお勉強など忙しいのでは?」


 「リリィからの手紙は勉強のやる気に繋がるからいいんだよ」


 「そうですか…………」

 ルカがふんわり笑うと以前のような可愛いルカの面影が少しある。
 

 「それより!リリィは街を見に来たんだよね? どんなのが見たい?」


 「せっかく魔法の国に来たのですから、魔法にちなんだものが見たいですわね」

 そういうと、ルカは私たちを案内するように歩き、綺麗な宝石みたいな石が並ぶお店に連れてきてくれた。
 
 
 「リリ様、キラキラした石があります!!これは何でしょうか??」

 マリーは見たことのない石に気分が高揚していた。
 私に緑青色の石を見せお店の主人に話しかける。

 「それは魔石だ。
 石に魔力を込めることによってでき、魔石を使えば誰でも一度だけ魔法が使える」


 「誰でも使えるんですか!? すごいです!!」

 マリーはいくつかの石をとり光に翳すように眺めていた。

 「マリーはどの色が好き?」


 「この色もいいですが、やはりこの色が素敵です!!」

 一番初めに手に取った緑青色の石が気に入ったようだった。

 「マリーによく似合うわ。これにしましょう。
 すみませんが、こちら包んでいただけるかしら?」

 私が店の主人に包むようにお願いする。
 お店の主人は、少し顔をしかめながら言葉を返す。

 「嬢ちゃん…………魔石ってのはとっても高価なんだぞ。 お金はあるのかい?金貨1枚だぞ…………」


 「お金ならございますわ」

 「リリ様そんな高価なものいただけません!!!!」 

 ベルナルド様と取引したばかりだから、お金は余るほどある。
 買おうと思えば、このお店にある魔石を全て買うことだってできるだろう。 

 
 「マリーにはお煎餅作りも手伝ってもらいましたし、二年も私に仕えるくれているのだから、私からの感謝の気持ちよ。受け取って」

 店の主人にお金を渡すと、包まれた魔石をマリーに渡す。

 「リリ様…………。ありがとうございます!!大事にします!!!」


 「でも、魔石なんだから使わないと…………」


 「いえ!いざという時にとっておきます!!!!」


 「いざという時ねぇ…………私としては使って欲しいのだけれど…………」

 あんなに、魔法書を読んで勉強していたのに…………。

 この世界では魔法は適性がないと魔法を使うことはできない。
 10歳になれば適性があるか調べることができるのだが、魔法を使える者はほとんど貴族の血筋だ。
 平民のマリーが魔法を使えるようになる可能性は極めて低い。
 

 ——みんなが魔法を使える世界ならいいのに…………。

 
 私がそんなことを思っていると、ルカに手を引かれる。
 

 「リリィ!ちょっとこっちにきて」

 ルカはお店から離れ、人気が少ない広場に来ると足を止めた。
 ルカが私の方を向き、ポケットの中から綺麗なリボンがついた箱を取り出す。


 「リリィ、これ開けて見て」



 「これは…………?」



 「魔石を使ったネックレスだよ。
 僕の魔法を込めたんだ。これをリリに…………」


 「え、いいんですか?」


 「僕、最近忙しくてなかなかリリに会えないから、これを僕だと思って持っていて。
 護身用に魔法を込めてあるから、何かあったら使って欲しい。
 今度は傷つける魔法じゃなくて、守る為に僕の魔法を使いたいんだ…………」


 「ルカ様…………」

 ——やっぱりあの事、気にしてるんだ…………。
 
 ゲームのルカもそうだったが、ルカはリリアンヌにとても優しい。
 婚約破棄まではリリアンヌのわがままは全部聞き、とても大切に思っていた。
 ゲームではアニエスさんも亡くなっていたから、リリアンヌに依存していたのかもしれない。
 ヒロインに出会ったらヒロインに惹かれていく。


 「つけてあげる」

 私はそんなことを思いながら、されるがままにしていた。
 ルカは私の背中側に回るとつけてくれた。

 「ありがとうございま——— 

 私がお礼を言いながら振り返ると、ルカの顔が近くにある。
 綺麗に整った顔がそこにある。


 ドキッ

 「とても似合うよ。可愛いリリィにぴったりだ」


 「可愛いって…………、私がですか…………?」


 「もちろんそうに決まってるよ」


 カァァ

 耳まで熱くなるのが自分でもわかった。
 

 ——どうしたんだ私!!落ち着け!!相手はルカだよ?
 
 「リリィ、赤くなって可愛いね…………くすくす」

 「ば、バカじゃないですか!?も、もう帰ります!!」
 
 ——バカじゃないって何言ってるの私…………。
 
 私はルカを置いて早足でみんなのところに戻る。
 私がいなくなっていることに気づいた兄が私の元に急いできた。





 「どこに行ってたんだ? 
 ルカ!!私の可愛いリリに何かしてないだろうな!!」

 後から来たルカに兄がそういうと、
 私はさっきのことを思い出し体が反応する。


 「なんだリリのその反応は…………ルカーーー!!何があった!?」


 「ははは、心配しすぎだよエリック」

 ルカは焦る兄を笑って見ていた。


 「帰るぞ、リリ!マリーもいくぞ!!」



 「あっ!!はい!!エリック様!!
 今行きま————

 ドンッ

 「あ、すみません…………」


 「君…………」


 マリーは誰かとぶつかったみたいで、謝っていた。
 何か会話をしているみたいだが、さっきのことで頭がいっぱいな私にまでは届かない。



 「どうした?マリー?」


 「エリック様…………私急いでますので失礼いたします!!」


 「何かあったのか?」


 「人違いみたいです!この国は広いですから似てる人の一人や二人いそうですしね…………。
 お待たせしましたが、行きましょう!」



 「ああ、そうだな…………」

 
 兄とマリーがそんな会話をしているうちに、ルカが私の手を取る。


 「リリィ、手紙待ってるからね!! またね!!」

 ルカの握る力が強くなる。


 「え、えぇ…………」


 「ルカアアア!!リリに触るの禁止だああああ!!」


 兄がいつものように止めに入るが、今回ばかりは兄に助けられる。

 ルカが握った感触が手に残る…………。
 

 ルカの婚約者はリリアンヌであって、私ではない…………。
 ルカの恋愛対象はヒロインであって、私ではない…………。


  ——鳴り止め、私の心臓…………。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...