悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号

文字の大きさ
81 / 180
第七章 レベル上げ目的のダンジョン攻略

81話



「お、お待ちください! 私の妻を何卒お許しくださいませ!!」

「あ、あなた!」


 そこに現れたのは、女性の妻である男性だった。愛する妻を助けるため、未だ女性の胸を揉み続ける不届き者の貴族に頭を下げ懇願する。


(待てよ。確か、あの漫画では女を助けようとした男は……ま、まずいぞ)


 前世で読んだ漫画では、助けに入ろうとした恋人の男性が銃で殺されてしまう結末だったことをこのタイミングで秋雨は思い出す。そして、悪い予感ほど当たってしまうのが道理なわけで……。


「下民がこのわちしに話しかけてくるなえ!!」


 そう言いながら、腰に下げていた杖を男性に向け魔力を込め始める。その魔力に呼応して杖の先に炎の玉が出現し、まるで銃の弾丸のように男性めがけて放たれた。


(ちぃ、やっぱそうなったか。仕方がない。【魔法反射(リフレクション)】!!)


 このままでは男性が殺されてしまうと感じた秋雨は、即座に相手の魔法を反射させる結界を男性の周りに展開させる。それとほぼ同時に、自身の姿を光学迷彩で周囲の風景に溶け込ませ、誰が魔法を使ったかわからないようにした。


 結界に阻まれた魔法はそれを放った相手に跳ね返っていくが、貴族の男が持つ魔道具の一つが発動し、その魔法に対する防御結界が展開し、男にダメージを与えることはできなかった。しかし、貴族の男がノーダメージというわけにはいかなかった。


「ヴォゲァア」

「か、閣下ぁー!!」


 貴族だから魔法を無効化する手段の一つや二つ護身の術として持っていると予想した秋雨は、男の放った魔法が反射する瞬間、炎の玉の内部にこぶし大の岩を生成した。そして、その玉は魔力で作られた炎の玉は無効化できたが、物理的な攻撃を無力化する結界との同時展開はできなかったようで、炎の玉の内部に忍ばせた岩のみが結界を貫通し、男の顔面に直撃したのである。


 秋雨の恨みの籠った一撃は、確実に貴族の男にダメージを与え、その無駄についた贅肉によってかさ増しされた彼の重たい体を宙へと舞い上がらせた。


 突然起こった出来事に周囲の人間が騒然とする中、主を傷つけられた従者の声が響き渡った。


「主にこのような狼藉を働く者は誰だ!? 名乗り出ろ!!」


 沈黙……その言葉を受けて返ってきたのは、誰一人として言葉を発しない状況であった。


 そのあまりに音のない状況に、普段聞こえてこないはずの“ぴゅう”という風の音すら耳に入るほどだ。


 当然、その犯人である秋雨が素直に名乗り出るはずもなく、姿を消したまま成り行きを見守っている。


 その隙をついて件の女性と男性はその場をあとにしており、これで彼女の安全が確保された。


(それにしても、あのおっぱい……なかなかの戦闘力を持っていたな。あれを好き放題できるとは、なかなかに羨ましいぃー!)


 貴族をぶちのめしたことなど意に返さず、秋雨の頭にあるのは当事者の女性である胸のことであった。確かに、貴族の男が目をつけるほど女性の容姿は優れており、特に服の上からでも大きいことがわかる二つの膨らみは素晴らしいの一言に尽きる。


 貴族の男でなくとも彼女とよろしくやりたいと思う男性は多く、彼女を射止めた男性を羨む人間は決して少なくはなかった。


 そんなどうでもいいことを考えていると、貴族の男が復活したようで、今度は自分に攻撃した人間を探し始めていた。


「誰だえ!? このわちしを攻撃した不届き者は!! 今すぐ出てくるだえ!!!」


 醜くも唾を飛ばしながら叫ぶ姿は、ファンタジーで登場するモンスター……オークと見間違うほどだ。だが、それを指摘する者はこの場にはいない。


 相手が爵位を持つ貴族である以上、そんな人間を傷つければ不敬罪は避けられず、またすぐにこの場を去りたいが、その行動によって自分が犯人であることを邪推させてしまうため、人々は迂闊に動くことができない。


「何をしている?」


 そんな状況の中、救世主が現れた。


 それは三十代後半の中年男性で、身なりから察するに貴族の男と同じく相応の身分であることが窺える。そして、その推測が正しかったようで、貴族の男が口を開く。


「これは、ロンドウェル・フォン・コウハナブツジーン伯爵ではないかえ。どうしてこちらに?」

「ただの散歩だ。それで、チャロス・フォン・ドスケベーノ子爵。こんな往来で一体何をしていたのだ?」

「貴殿には関係のないことだえ」

「ならば、すぐに屋敷に戻られよ。貴族がいつまでもこのようなところで油を売っているものではないと思うのだが?」

「くっ、か、帰るだえ! 覚えているだえ。このことを父上に言いつけてやるだえ!!」

「ふん」


 ドスケベーノ子爵と相対したコウハナブツジーン伯爵は、毅然とした態度でこの場を収めようとする。相手の爵位が上ということもあってか、子爵も大人しく引き下がった様子だ。


 まるでかませ犬のような三流悪役の捨て台詞を吐きながら、子爵はその場を去っていく。一方の伯爵はその場にいた人々に頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。


「皆、此度は貴族が迷惑を掛けた。許せ」

「頭をお上げください!」

「コウハナブツジーン伯爵が謝ることではございません!」

「そうだぜ。悪いのはあの男じゃないですかい!」

「これもケジメである。貴族が迷惑を掛けたのならば、同じ貴族である私が謝意を示すのは自然なことだ」

(ふ、気高いことで。まさに硬派な人物ってわけだ)


 本来ならば、それをするべきはドスケベーノ子爵に攻撃した秋雨であるはずなのだが、自分のことは棚に上げコウハナブツジーン伯爵の評価を心の中で呟く。


「……」

(ん? なんか俺と目が合っている気がするんだが。……気のせいか)


 頭を上げた伯爵だったが、その視線が秋雨のいる方向に向けられていることを彼は不思議がった。だが、ただの偶然であると片づけた秋雨は用が済んだとばかりにその場を去って行った。


(あの少年、一体何者だ? これは、調べてみる必要がありそうだな)


 彼の希望的観測とは裏腹に、その場にいた人間で唯一その存在に気付いた伯爵は、彼がいなくなった方向に視線を向け続けていたのであった。


 これが秋雨と伯爵の初めての邂逅であり、秋雨の正体を巡って彼との間でちょっとした面倒事に発展することになることを今の秋雨は知る由もなかった。
感想 172

あなたにおすすめの小説

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈