悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号

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第八章 ダンジョンの最下層

91話

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「逃げるぞアキーサ! あたしたちじゃ、あいつに勝てない!!」


 スチールスライムの姿を確認したミランダは、すぐさま撤退を提案する。だが、秋雨としては是が非でも倒したい相手であった。


 スチールスライムから獲得できる経験値はかなりのもので、可能であれば乱獲したいと思えるほどにおいしいモンスターだ。だが、ミランダという監視の目がある以上、スチールスライムを倒せるということを知られるわけにはいかず、秋雨はどうしたものかと考えを巡らせていた。


「な、なにを立ち止まっているんだ!? 早く逃げるぞ!!」

「あ、ああ(くそう、俺の経験値がぁー)」


 後ろ髪を引かれる思いだったが、ここで実力がバレてしまってはまた別の拠点を探さねばならなくなる。そう考えた秋雨は、ミランダと共にその場から離れようとした。だが、一歩遅くスチールスライムに見つかってしまい、ものすごい速さで襲い掛かってきた。


「ちぃ、逃げるのが一足遅れた。アキーサ、ここはあたしが引き受けるからお前はここから逃げるんだ!!」

「しかし」

「いいから行けっ!! このままじゃあ二人ともあいつにやられる」


 第三者の視点から見れば、ミランダ一人を残していくことを戸惑う駆け出し冒険者の図に見えるだろうが、実情はかなり異なる。目の前においしい餌があるのに、それを倒すと実力がバレてしまうというリスクを恐れて積極的に動くことができない状況であり、秋雨的にはもどかしい気持ちでいっぱいだった。


「ぷるぷるー」

「そっちに行ったぞ!!」

「う、うわぁー(棒読み)」


 まともに戦えば確実に勝てる相手ではあるが、そうなれば隠し事がバレてしまう。であるならばと、秋雨はまともに戦うことを放棄した。


「く、くるなぁー。くるなくるなくるなぁー(棒読み)」

「ぷるるっ!?」


 目を瞑り、まるで当たらない敵に向かって我武者羅に剣を振り回す風を装いながら、実際は確実に相手を狙った連撃を放つ。


 不意を突かれたスチールスライムは、秋雨の剣の間合いに不用意に飛び込んでしまい、その連撃を食らってしまう。だが、その体は硬く有効打になったのはたったの二撃であった。


「ぷるぷるぷるぅー」

「てぇーい(棒読み)」

「や、やめろぉー! やめるんだアキーサ!!」


 棒読みで攻撃をする秋雨と、迫真な雰囲気で彼を止めようとするミランダというなんともシュールな光景が広がっている。そして、わざと地面に埋まっていた岩に躓いたかのように体勢を崩しながら、偶然を装って剣を振り下ろす。


 そんなラッキーパンチのような攻撃をくらうなどというほどスチールスライムが愚かではなく、持ち前の素早さを生かして回避しようとする。だが、その攻撃は吸い込まれるようにスチールスライムへと向かっていった。


「ぷるっー!?」

「あれれぇー? 当たったぞぉー(棒読み)」


 もともと、偶然を装った狙い澄ました攻撃であるため、秋雨の剣がスチールスライムを捉える。これでスチールスライムの残り体力は1となり、瀕死状態に陥る。


 危機を感じたスチールスライムは、その場から逃げようとした。だが、それを秋雨が許してくれるはずもなく……。


「これでとどめだぁー!(棒読み) うわっぷっ」


 最後のとどめとばかりに走り出す秋雨だったが、そこに偶然にもまた岩に足を取られてしまう。そして、そのまま前のめりに倒れ込んでしまうのだが、その時勢い余って剣が手からすっぽ抜けてしまった。


 秋雨の手から離れた剣は、なぜか偶然にもそのままスチールスライムへと吸い込まれていき、それが止めとなってスチールスライムに命中する。


 あとに残されたのは、スチールスライムのドロップ品であるメタリカ鉱石のみであり、周囲は再び静寂を取り戻した。


(よし、偶然の事故を装ってすっぽ抜けた剣が、これまた偶然にもスチールスライムに当たって奇跡的に倒せたという演出ができたぞ)

「……」


 もちろん、秋雨の行動はすべて計算のもとで行われた演出であり、あくまでも「スチールスライムを倒せたのは偶然ですよ? 自分の実力ではないですよ?」という意味を持たせたかったのだが、動きがぎこちなかったのと台詞がすべて棒読みであったため、いろいろと台無しであった。


(な、なんてこった。まさか、こんな少年がスチールスライムを倒せる実力を隠していたとは……。こりゃあ、シェリルがあんな指示を出すわけだ)


 もともとミランダが秋雨とパーティーを組むことになったのは、冒険者ギルドの受付嬢であるシェリルの策であり、すべては秋雨の実力を把握するため彼女が仕組んだことであった。


 そのことを秋雨が冒険者ギルドをあとにしてから聞かされていたミランダは、内心では半信半疑であった。まだ成人したばかりの胸ばかり見てくるませた少年が、まさかスチールスライムを倒せるほどの実力を隠し持っているとは思っていなかったからである。


 スチールスライム自体の強さはEランクと低めだが、圧倒的な防御力と素早さを保持しているため、かなり手練れの冒険者でなければ倒す以前に攻撃を当てることも難しい。


 だというのに、秋雨はそれを倒してしまった。しかも、あんなバレバレな棒読みの掛け声を出せばわざとやっていることは明白であり、これで偶然起こった出来事であると言っても誰も信じないだろう。


「……」

「?」


 ――スタスタスタスタスタスタスタ。


「じー」

「それはやんのかいっ!!」


 そして、スチールスライムとの戦いがまるでなかったかのように何事もなくミランダに近寄った秋雨は、再び彼女の胸に視線を向けた。もはや遠慮する素振りすら見せない彼に対し、盛大なツッコミを入れるミランダであったが、そのことを責める人間はおそらくいないだろう。


「アキーサ。お前は一体、何者なんだ?」

「ただのEランクの新人冒険者だ」

「スチールスライムを倒せる人間を新人冒険者とは呼ばない」

「あれは事故だ。あんたも見てただろ? 偶然地面から出ていた岩に躓いて手から剣がすっぽ抜けただけだ」

「そんなわけあるかぁー!!」

「事実だ」

「大体、戦ってた時の台詞が棒読みだったじゃないか!!」

「そういう癖なんだ。危機的状況になればなるほど棒読みになっていくんだ」

「……」


 秋雨の苦しい言い訳に、思わず呆れてジト目をミランダが向ける。スチールスライムに向けた攻撃自体、偶然を装ってはいるが、明らかに狙い澄ました攻撃であったことは明らかであり、あれが偶然の事故だということはあり得ないと彼女は思っていた。


 もし仮に、あの時の攻撃が偶然なのであれば、スチールスライムから入手できるメタリカ鉱石がここまで希少な素材として扱われることはなかっただろう。


「とりあえず、いつまであたしの胸を見ているんだ!」

「いつまでも」

「いいから!! とっとと、メタリカ鉱石と自分の剣を拾ってこい!!!」

「……」


 秋雨は自分の剣もドロップ品のメタリカ鉱石も放っておいて、真っ先にミランダのところへ駆け出していたのだ。一体なにをやっているんだとツッコミたいところだが、おっぱい鑑賞を邪魔された彼が恨みがましく離れていくのを目の当たりにすれば、これはなにを言っても無駄だということは容易に想像できる。


(はぁー、ようやく落ち着いたが、これはとんでもないことになったな)


 ミランダとしても、ただの興味本位で秋雨と臨時のパーティーを組むことを了承した。しかし、高位の冒険者でも苦戦するスチールスライムを倒せるのならば、このまま継続的にパーティーを組んでもいいのではと思い始めていた。


 もしも秋雨がそれを了承してくれるのであれば、実力を隠したいと考えているであろう彼の思いを汲んでシェリルへの報告もごまかすつもりだし、彼の不興を買うという行為は避けるべきだと彼女は考えていた。


「拾ってきたぞ」

「アキーサ。もしよかったらなんだが、正式にパーティーを組まないか?」

「いや、遠慮しておく」


 秋雨がミランダのもとへ戻ると、彼女からそんな提案があった。だが、これを彼は即答で断る。


 できるだけ人と関わらないようにすることで、自身の実力を隠しておきたい秋雨にとって最悪の事態は避けねばならない。そのためにも、ミランダとのパーティーは避けたいことであった。


(だが、このおっぱいを捨てるのは忍びない。おっぱいだけ一緒に連れていけないだろうか?)


 などと、最低な思考を考えているとも知らず、ミランダは秋雨の勧誘を諦めようとしない。そして、彼女にとってしてはならない提案をしてしまう。


「そこをなんとか! なんだったら、あたしのおっぱいを触らせてやるから――」

「じゃあ、遠慮なく」

「きゃあ、こ、こらぁー! まだパーティーを組むことを了承してないだろうが! 勝手に触るな!!」

「あんたが触っていいって言ったんだろう?」

「それは、お前があたしとパーティーを組むと言ってからだ! こら、触るな、揉むな、摘まもうとするな!!」


 ミランダが抗議する間にも、慣れた手つきで彼女の胸を触る秋雨だったが、彼が彼女の胸を触っていられたのはほんの数秒だった。それでも、秋雨の手から感じられた幸せな感触は彼を満足させるものであり、満足した顔を浮かべながら、目を瞑って手をわきわきとさせていた。


 だが、残念ながら秋雨がミランダとパーティーを組むという選択肢を取ることはなく、肩で息をする彼女に改めて言い放つ。


「さっきも言ったが、あんたとパーティーを組む気はない」

「なんだとっ!? それじゃあ、あたしの触られ損じゃないか!!」


 この世界では、女性に乱暴を働いたという名目で牢屋に入れられることはあるが、女性の体を触ったなどというセクハラ的なもので牢屋に入れられることは珍しい。もちろん、女性にそういったことをすることは褒められた行為ではなく、兵士に見つかれば事情聴取のため詰め所に連れていかれるが、モラル的な問題があるということで厳重注意だけで済んでしまい、法律的に刑事罰や慰謝料などを取ることは難しい。


 つまりミランダが触られ損と言ったのは、自分の体(おっぱい)を差し出す対価として秋雨のパーティー入りを承諾させるためのものであったが、結局彼が先走って彼女の胸を弄りました挙句、最終的にはパーティーを組むことを断るという骨折り損ならぬ触らせ損ということになってしまったのである。


「じゃあ、これをやるからそれで許せ」

「ば、それじゃああたしがもらい過ぎだろう!」


 抗議の声を上げるミランダに対し、秋雨は手に持っていたメタリカ鉱石を差し出す。彼としては“おさわり代”のつもりで渡したのだが、金貨数百枚という価値のあるものをぽんと渡したことになり、彼女としては自分の体にそこまでの価値があるのかということを考えた結果、対価として釣り合わないという結論に至った。


「我が儘なやつだな」

「なんだろう。その物言いに、ものすごく釈然としない気分になるんだが……」

「じゃあ、対価として釣り合うまであんたのおっぱいを触らせろ」

「なんでそうなる!!」


 それから、あーでもないこーでもないと議論した結果、最終的にはミランダが折れる形となり「あーもう! 好きなだけ触ればいいだろう!!」ということで秋雨が満足するまで彼女の胸を堪能した。


 それでも、対価としてはまったく釣り合っておらず、少しでも対価を払おうと彼女が着ていた服を脱ぎ始めた。だが、ダンジョン内でそういった行為をするのはいかがなものかということになり、さすがの秋雨もそれは止めた。


 こうして、ミランダとのダンジョン攻略は問題なく完了したが、秋雨が思い返すのは彼女の豊満で柔らかなおっぱいの感触だけであり、それ以外のことはまったく記憶に残らなかったのは言うまでもない。
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