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第十四章 三つ目の国 寄り道編
161話
しおりを挟む「森神様を説得してきた?」
「そうだ」
エルフの里へと戻った秋雨は、さっそくエーリアスに捕まった。どこに行っていたのかと問い詰める彼女に、彼はシンプルに森で薬草採集をして帰ってきたと告げる。
そして、その道中森神様に遭遇し、エルフを襲う理由を聞き出し、その理由の原因となっている病を治療したことを教え、あろうことか森神様を説得してきたと宣ったのだ。
「これで、あれがお前たちエルフを襲うことはないはずだ。理由もなしに襲おうとすれば、それはただのモンスターと変わりないからな」
「これは夢なのだろうか?」
まさか本当に秋雨が森神様をどうにかしてくるとは思わず、エーリアスが素の言葉で呟く。それほどまでに彼のしてきたことが衝撃的だったのだ。
しかし、それをまるでちょっと散歩のついでにコンビニに寄ってきたというようなノリで話すものだから、エーリアスからすれば堪ったものではない。
「と、とと、とにかくおばあちゃ……長老に報告に行きましょう」
「お前から話しておいてくれ。俺はもう休む」
「ダメです! 森神様に直接交渉したのはあなたなんですから最後までやってください」
薬草採集と白狼狐との戦いで多少疲れていた秋雨であったが、エーリアスに正論を突き付けられて、仕方なく事の顛末を話すため、ターニャフィリスのもとへと向かった。
「というわけだ」
「何がというわけなのかしら?」
開口一番、ターニャフィリスにそう告げる秋雨であったが、彼女からすればどういうわけなのかまったく理解できなかった。間の過程をすべてすっとばした状態であるから彼女が理解できないのは至極当然なのだが、説明が面倒な部分をカットした結果、このような形の報告となってしまった。
「はあ、長老。実は……」
それを見かねたエーリアスが、秋雨の報告を補足するように説明を始めた。それを見て、最初から彼女がターニャフィリスに説明すればよかったのではと思わなくもないが、そこは空気を読んであえて口にすることはなかった。
エーリアスの説明を聞いたターニャフィリスは、目を見開いて驚愕する。そして、確認のために秋雨にも詰め寄ってきた。
「アキサメさん、エリーの言っていることは本当なのかしら? 森神様を説得したというのは?」
「ああ、本当だ。もうあの魔獣にエルフを襲う理由はなくなった。そんな中でまだエルフを害そうというのなら、それはもうただのモンスターと変わらないことは理解できるはずだ」
秋雨も多少大雑把な説明で白狼狐を説得したところがあり、本当に白狼狐がエルフを襲わないのかは彼にもあずかり知らない。しかし、ある程度の知性を持っていることは短い間の接触でもわかったため、秋雨の言葉が本当なのか確認をするだろうと彼は考えていた。そして、その中で彼の言葉が真実であることに気づき、エルフを襲う理由がなくなるという予想を立てたのだ。
「アキサメさん、改めてお礼を言わせてください。我々エルフにとってあなたは、救世主です。病ばかりか、森神様のご説得までしていただいたこと感謝いたします」
「たまたまだ。それに、すでに報酬はもらっている」
「やはりここは、わたくしの体を提供しなければ――」
「それは遠慮しておく」
ターニャフィリスの言葉を遮るように、秋雨は彼女の申し出を断った。彼とてターニャフィリスとそういったことをしてみたいという気持ちはある。エルフという美形かつ形のいい神乳を持った魅力的な女性に迫られては、その申し出を断ることは難しい。
しかし、仮にそういったことを許してしまった場合、朝になるまで精も根も尽き果てるまで彼女の相手をさせられそうな予感がしたのだ。いくら魅力的とはいえ、そこまでとことん付き合うほど秋雨は性的なことに興味があるわけではない。
過ぎたるは及ばざるがごとしという言葉もあるように、何事も程々が一番なのである。
そういった一幕があったが、里の脅威が去ったということで他のエルフの秋雨に対する警戒心も薄れ、その日はささやかながらも宴が開かれることになった。
疲れていた秋雨は宴の参加を辞退しようとしたが、主役がいなければ盛り上がらないということで、半ば強制的に宴へと参加されられてしまった。
そして、精神的にも疲れた秋雨は、宴が終わるとすぐにベッドに倒れ込み、その意識を手放したのであった。
「うふふふ、かなり疲れているみたいね。これは、わたくしが奉仕して差し上げなければ……」
(う、むぅ……なんだ? 誰かいるのか?)
宴で疲れて眠りつかれている秋雨のもとに、邪な思いを持った悪しき存在の魔の手が忍び寄る。言わずもがなターニャフィリスであり、懲りもせず秋雨に夜這いをかけようとしているらしい。
意識が覚醒するとともに、手足の自由を奪われていることに気づいた秋雨であったが、一応念のため確認することにした。
「これは一体何の真似だ?」
「そんなこと決まっているじゃないの? さあ、わたくしに身を任せてちょうだい。そうすれば、天国へ連れてってあげるわ」
それは単純な殺人宣言なのではないのであろうかという心のツッコミをしつつ、このときになって秋雨はようやく自分の置かれた状況を再認識する。
現状、彼はベッドに身を預けており、両手両足が木の蔦で縛られている。おそらくはターニャフィリスの魔法であり、秋雨が逃げないようにするためのものだ。
そして、そのターニャフィリスはというと、扇情的なネグリジェのようなものを着ており、身に着けているものはそれ以外はなかった。
スケスケのネグリジェは彼女の局部を隠すこともなく、いろいろと見えてはいけない部分が見えてしまっており、服としての体裁を成してはいない。
彼女の身体の線は、引っ込んでいるところは引っ込んで出ているところは出ているという女性として理想的な体つきをしており、特に形の良い巨大な乳房は神乳といっても過言ではない。
エルフとして整った顔立ちに均整の取れた体躯、そしてメロン……否、スイカの如きデカ乳というまさに男の理想をそのまま体現したような姿の女性がそこにいた。
(くそが、なんていやらしい体つきをしてやがる。この体で何人の男をたぶらかしてきたんだ。実に、実にけしからん!!)
まるでどこぞの中年親父のような感想を心の中で宣う秋雨であったが、状況的にはあまり芳しくない。このままでは彼女の毒牙にかかってしまい、その花を散らされることになってしまう。
だが、神は見捨ててはいなかった。そこに颯爽と現れた人物がいた。エーリアスである。
「おばあちゃん! またそんなことをして!! すぐにアキサメさんから離れなさい!!」
「嫌よ。明日になったら彼はもうこの里から去ってしまう。今日が彼と一つになれる最後の機会なの。例え孫でもわたくしの邪魔をするのなら容赦はしない!!」
「うっ」
それは紛れもない威圧であった。長き時を生きた者にしか出すことのできない他者を威圧する力。何人たりとも自分の目的の邪魔をさせないという強い意志がそこにはあった。
その得も言われぬ雰囲気に一瞬たじろぐエーリアスであったが、腐っても里随一の実力者の名は伊達ではなく、すぐに正気を取り戻し、ターニャフィリスに負けじと彼女も威圧を纏う。
「里を二度も救ってくれたアキサメさんにそんな不埒なことは許されない。例えおばあちゃんでも、見過ごすことはできない! 全力で阻止する!!」
「ならばかかってきなさい! エリーちゃんがどれだけ強くなったか、このわたくしが見てあげましょう!」
「勝負!」
そこからは、重力や慣性の法則といったありとあらゆる物理学的な常識を逸脱した戦いが繰り広げられた。空中を蹴って移動したり、まるで転移魔法を使ったのではないかというレベルの高速移動など、二人の戦いはいろいろとおかしかった。
せっかく眠りに就いた秋雨も、この騒ぎですっかり目が冴えてしまい、二人の戦いをぼんやりと眺めていた。
最終的に、エーリアスの渾身の右ストレートがターニャフィリスの腹に突き刺さり、そこからの顔面にショートアッパーが炸裂する。それが決め手となり、ちょうど空いていた窓の外へと吹き飛ばされ、彼女が仰向けで倒れ込んだ状態で気絶した。
ほとんど何も隠れていないほぼ全裸の状態だったが、そこにはいやらしさというよりも下品さが際立ってしまっており、その状態の彼女を見ても何も思わなかった。
騒ぎを聞きつけてやってきたエルフたちも、また長老がおかしなことをしているということで、騒ぎの原因がわかるとあくびを噛み殺しながら家へと戻って行った。その際、男性エルフもちらほらといたのだが、艶めかしい姿のターニャフィリスを見ても眉一つ動かさなかったところを鑑みるに、彼女の日頃の手癖の悪さを際立たせていた。
「アキサメさん、おばあちゃんが申し訳ありません」
「いや、問題ない」
エーリアスの謝罪を受け入れると、彼女はすぐにターニャフィリスを引きずって行った。そして、朝になるまで彼女が戻ってくることはなかったのである。
再び静寂を取り戻した室内で、眠気がやってくるまで秋雨はベッドに体を預けた。まだ疲れが残っていたのか、すぐに彼の寝息が聞こえてきた。
こうして、ターニャフィリスの夜這いは失敗に終わり、秋雨とのワンナイトラブが成立することは終ぞなかったのであった。
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