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19話「購入した奴隷を治療するみたい」
しおりを挟む「これで、この奴隷との契約は完了しました。お買い上げありがとうございます」
デュクスが深々と頭を下げながら、客である姫に対しお礼の言葉を述べる。しかし、その言葉には明らかな喜びの色が混ざっており、ただの接客から出た言葉でないことが窺える。
ミルダとの話が終わったあと、デュクスに彼女を購入する旨を伝え、奴隷契約の手続きを済ませた。
最初は驚いていたデュクスだったが、姫が本気だということと厄介者を始末できるという商人気質が働き、結局彼女の要求通りにした形だ。
「姫様、本当に後悔しないのですね?」
「店主が気にする必要はない。その分奴隷の値段を割り引いてくれたのだろう? あたしはそれで責任は十分果たしたと考えるがね。それに、もしあたしの気が変わってやっぱりなかったことにとか言い出したらどうするんだ?」
「かしこまりました。ですが、奴隷が気に入らない時は遠慮なく返しに来てもらっても構いませんので」
「心遣い痛み入る(誰がこんな掘り出し物を手放すもんですか、バーカ!)」
デュクスの心配とは裏腹に、能力の高い奴隷を低価格で購入させてもらったことに内心でホクホク顔の姫。このまま通常の取引を行うのは、奴隷商を営む者として忍びないというデュクスの厚意により、大幅に値引きしてもらう計らいとなったのだ。
通常一般的な奴隷の値段は、30万から50万ゼノが平均とされているのだが、奴隷としてはおろかまともに歩くことすらままならない者では足手まといにしかならないとのことで、平均の最低額である30万ゼノの三分の一に相当する10万ゼノという破格の値段にしてもらったのだ。
もしも、ミルダが五体満足で怪我のない状態だった場合、その値段は150万から200万ゼノ辺りの値が付くことを考えれば、デュクスがどれだけ値引きしてくれたのかがわかるだろう。
姫との奴隷契約を済ませたミルダには、その身分が奴隷であるという証の首輪が嵌められている。
奴隷との契約は、隷属魔法と呼ばれる固有の魔法を使いある特定の条件を提示する。その条件を破った場合、首輪を通して隷属化した者に激しい苦痛を与えることで、条件を遵守させるのだ。
基本的な条件内容としては、契約した人間に間接及び直接攻撃を加えることを禁止するものや、契約者の命令は命に危険が及ばない限り絶対に従わなければならないといった具合だ。
姫は特にこれといった条件の提示はなかったが、契約者の許可なく契約者自身に攻撃しないことと、理不尽な要求でない限り基本的に命令には従うことという二つの条件を契約の内容とした。
ちなみに契約するには契約者の血が必要だったため、小さな針を指に突き立てることで血を出さなければならなかったので、多少痛い思いをすることとなった。
「じゃあ、世話になった」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
いろいろと興味深い体験をしたが、とりあえず目的だった奴隷を購入することができた姫は、新たに奴隷となったミルダと共にデュクス奴隷商をあとにする。
店を出る際、デュクス本人の口からミルダの怪我の具合を考慮し、馬車での送迎を提案されたのだが、姫のとある考えから丁重に断った。
せめてもの気持ちとして、杖代わりとなる棒切れをミルダにと差し出してきたので、さすがに相手の厚意を無下にするのは礼を失する行為だと考えた姫は、その厚意を受け取ることにした。
店から離れてしばらく歩くこと数分後、姫とミルダの二人は人通りの少ない路地を進んでいた。
そもそもの話をすると、取り扱っている商品が人間の店であるということもあって、奴隷を扱う店はあまり表立って営業することが難しい。それ故、奴隷商が主に営業所として選ぶ傾向がある場所は、人通りの少なくあまり治安的にも良くないとされる場所だ。
だが、今の姫にとってそれが逆に好都合だったりする。そして、彼女はその環境を利用し、まず初めにミルダに対してやらねばならない行為を優先することにした。
「……」
「……?」
突如として歩みを止めた姫を不審に思ったミルダだったが、そんな彼女の思いとは裏腹に姫は自分の目的を果たすべく行動に移った。
「《アースウォール》、《アースウォール》」
「い、一体何を?」
「《アース》、そこに座りなさい」
ひとまず、人の目を避けるため土属性魔法のアースウォールで路地を塞ぎ、一時的に死角を作る。さらにアースの魔法で腰を下ろすことができる簡易的な段差を作り、そこに座るようミルダを促す。
奴隷であるミルダは、基本的に命令に従わなければならないため、姫の意図が分からず困惑するも、彼女の命令に従い腰を下ろした。
すると、ゆったりとしているが確実にこちらに歩み寄ってくる姫の姿に、ミルダの内心は畏怖の感情で支配されていた。“自分の奴隷にならないのならこの場で殺す”とまで言わしめた相手が、自分のパーソナルスペース近くまで迫ってくるのだ。そんな状態で平静を保てていること自体が、奇跡と言っても過言ではない。
徐々にその距離が狭まっていき、ついに姫とミルダの距離が人一人分まで迫ったその時、急に彼女が地面に膝をつきミルダのとある部分を凝視し始めた。
「それじゃ、さっそく始めましょうか」
「始めるって、一体何を?」
「何って、あなたの足の治療に決まってるじゃない。それ以外に何があるのよ?」
まるでさも当たり前のように言ってのける姫に、ミルダはぽかんとした表情を浮かべる。その顔があまりにも彼女の性格と相反するものであったため、姫は思わず吹き出してしまう。
「なに? あたしに殺されると思ったわけ? まだ奴隷として何もしてないのに殺すわけないじゃないのよ。あんたバカぁー」
「……」
前半部分の言葉と最後の台詞のギャップに、さらにきょとん顔になったミルダを見て、姫は再び吹き出してしまった。そんな彼女を安心させるべく、姫は言い聞かせるようにミルダに話し掛けた。
「安心なさい。これでも回復魔法は使えるから、とりあえず杖なしでも歩ける状態にしないとあなた何もできないでしょ」
「それは、そうだが」
ついさっきまで自分を殺そうとした相手の言葉だとは思えず、釈然としないミルダであったが、そんな彼女の思いなどお構いなしに姫は彼女の左足に向かって回復魔法を放った。
「《ヒール》」
姫の唱えたヒールによって、ミルダの足が淡く光り輝く。それはまるで、彼女の足が光っているのかと思えるほどだった。
(足の中に残っている骨片が溶けてなくなっていくイメージで、足の骨格も元の正常な形になるよう頭に思い描く)
魔法を行使する上で最も重要な要素は何かと問われれば、それは頭の中で思い描くイメージ力だ。今から発動しようとしている魔法のイメージを強く持つことで、それが顕現したとき威力や精度に大きな影響を与える。
回復魔法においては、人体の構造を理解し、それがまるで早送りで修復されていくイメージを思い描くことで、地球では治療が困難とされる怪我や病気も容易く完治させることができてしまう。
「一応終わったけど、治ってるかどうかの確認のため、立ってみて」
回復魔法を掛け、完全に治ったかどうかの確認のため、ミルダを立たせる。ミルダ自身半信半疑ながらも、命令ということでゆっくりと立ち上がってみる。
ミルダ本人の感覚としては、今まで感じていた痛みが消え一見すると完治したように思えるほどだったが、自分の足が治ったことに目を見開き驚愕したあと、視線を姫へと向けると、その顔は眉間に皺が寄っており、難しい表情をしていた。
というのも、ミルダに立つ指示を出してすぐに彼女に鑑定を使ったのだが、その結果が思っていたものと異なっていたからだ。ちなみに鑑定の結果はこれだ。
名前:ミルダ(♀)
年齢:18歳
種族:亜人(オーガ)
体力:1890 / 2160
魔力:140 / 180
スキル:【棍棒術Lv7】、【身体強化Lv4】、【闇魔法Lv3】
称号:追放者、濡れ衣を着せられた者、奴隷(契約者:重御寺姫)、一途、剛力
状態:隷属化、空腹、右腕欠損、左足粉砕骨折(不十分な治療のため、痛みによる後遺症あり。ただし、歩行などの一部の動作は支障なく可能)
(さすがに、ヒール一回じゃ粉砕骨折は治らないか……でも、普通に歩くことはできるみたいだから、とりあえずはよしというところかな)
その後、ミルダにジャンプをさせると、やはり痛みを感じるようで一瞬顔を歪ませていた。再び足にヒールを掛けたが、鑑定の結果は変わらなかったので、これから時間を掛けて治していく方向にシフトし、一旦彼女の足の治療は保留とした。
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