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35話「奴隷になるよう交渉するみたい」
しおりを挟む彼女から話を聞く前に、姫は鑑定を使って彼女の能力を調べてみることにした。
名前:アリアス(♀)
年齢:23歳
種族:妖精族(エルフ)
体力:860 / 860
魔力:3600 / 3600
スキル:【風魔法Lv1】、【光魔法Lv1】、【生活魔法Lv1】
修得魔法:
【風魔法】:ウインド
【光魔法】:ライト
【生活魔法】:クリーン
称号:魔力音痴、残念エルフ、ギャンブル好き
状態:空腹
彼女の能力を見てまず姫が抱いた感想は“なんだこれは”というものであった。体力は少ないもののエルフという種族の特性なのか魔力が物凄く高い。しかしながら、覚えている魔法が大したことがなく攻撃魔法がないためせっかくの魔力も意味を成していない。
そして、彼女の特質すべき点は称号で、三つともマイナスの印象を受けた。
魔力音痴はその名の通り、魔法に関するスキルと魔法の習得にマイナスの補正が掛かるらしく、これが原因でまともな攻撃魔法を覚えていない。
残念エルフは、特に補正が掛かるわけではないが彼女自身の性格に起因する称号らしい。最後のギャンブル好きはその名の通りギャンブルに命を懸けてきた人間に与えられる異名のようなものだ。
能力はあるが称号から推察するにあまりお近づきになりたくない部類の人間であるということが、姫の彼女に対する第一印象である。
「……それで、なにがあったの?」
「じ、実はですね」
鑑定である程度のプロフィールは見えていたが、改めて自己紹介をさせたあとで事情を話してもらった。
彼女、アリアスの話によると冒険者になるためにエルフの里からやって来たところギャンブルに嵌ってしまい、気が付けば悪徳な高利貸しから借金をしてしまったので何とか借金を返そうと野良の冒険者パーティーに入れてもらうのだが、魔法の腕が無さ過ぎてすぐにパーティーから追い出されてしまったとのことらしい。
「借金って、どれくらい借りたの?」
「そうですねー、ざっと100万ゼノくらいでしょうか」
「ファッ!?」
アリアスが借りた金額を聞いて思わず姫が驚愕の声を上げる。それもそのはず、この世界では平民一か月の生活費が約6000ゼノあればなんとかやっていけるレベルであり、一年だと72000ゼノとなる。つまり100万ゼノは平民の生活費換算で約14年分ということになってしまうのだ。
彼女の話を聞いたミルダとミャームも呆れを含んだ顔を浮かべており、一体どんなギャンブルをすればそこまでの借金になるのかと疑問を抱く程だ。
さらに衝撃的なのが、アリアスが借りた金額は100万ゼノだが借金というのは利息というものが発生する。どうやら彼女が借金をした高利貸しは質が悪かったらしく、日に日に利息が増え借金の額が膨らんでいき、今の金額は200万ゼノという大金になっているとのことだ。
「200万ゼノって、一般的な家庭の生活費28年分にもなるじゃない!」
「一体、どうすればそこまでの額になるんだ」
「信じられないニャ」
「あははは……」
姫、ミルダ、ミャームの順に口々に感想を述べる。アリアスは言い訳もできずただただ苦笑いを浮かべることしかできない。
彼女とて借金まみれの生活を望んでいたわけではないのだが、それでも一度ギャンブルに嵌った人間が元の生活に戻ることは難しく、借金を返済するためにさらに借金を重ねるという負のスパイラルに陥ってしまったのだ。
アリアスが借金をしたのはシャキーン商会という商会で、主に他人に金を貸しその暴利で利益を得ている平たく言えば悪徳金貸しだった。
彼女の交わした契約は、彼女が借りた借金(合計103万ゼノ)の半分である50万ゼノを三か月後に返済し残りはさらにその三ヶ月後に支払というめちゃくちゃな内容だった。
なんとか最初の期限である50万ゼノを支払うことはできたらしいのだが、残りの53万ゼノの支払い期限まであと二週間しかないとのことだ。
アリアスから詳しい話を聞いた姫は、ここで一度頭の中で内容を整理する。
まず、アリアス自体の能力についてだが、体力はミルダやミャームと比べると劣ってはいるものの魔力に関していえば他の二人よりも優れている。
そして、低レベルとはいえ現時点で三つの魔法を習得していることとエルフであるということ。称号に目を瞑れば、総合的にはかなり優秀な部類に入る潜在能力を持ち合わせている。
(あたしが教えれば、この子……化けるかも)
地球にいた頃によくプレイしていた育成ゲームを思い出し、姫は内心でほくそ笑む。“逃がしてなるものか”というオタク特有の粘着質な感情を押し殺しながら、アリアスに不審に思われないようあくまでも平静を装いつつ彼女に提案する。
「ねぇ、アリアス。もしあなたがよければだけど。あなたの借金あたしが肩代わりしてあげてもいいわよ」
「本当ですか!?」
「主っ!?」
「ご、ご主人! な、なに言ってるニャ!?」
姫の提案に目を輝かせるアリアスとは対照的に、驚愕の表情をミルダとミャームが浮かべる。そんなことはお構いなしとばかりに、姫はさらに話を続ける。
「もちろん、善意でそんなことを言ってるわけじゃないわ。あたしがあなたの借金を肩代わりする代わりに、アリアス。あなた、あたしの奴隷になりなさい」
「ど、奴隷ですか?」
「そう、奴隷。まあ奴隷と言っても、別に重労働を課したり娼館に売り払ったりしないから安心して。あたしの見立てでは、あなたの潜在能力はかなり高いと見てるの。あたしが教えれば、かなりの使い手になるはずよ。だからその才能をあなたの借金を返済することで買いたいの。どう? 悪い話じゃないと思うんだけど」
「私にそんな才能が……」
姫の言葉に半信半疑な表情を浮かべるアリアスだったが、今のこの状況をなんとかできるかもしれないという期待感もあり、答えが出せないでいた。
そんな中、ミルダとミャームがアリアスの借金を肩代わりすることについて反対意見を姫に告げたが、この意見を姫は断固として却下する。
それでも食い下がる二人を見た姫が、アリアスに聞こえないように小声で二人に話す。
(いい? アリアスにも言ったけど、あの子の才能は本物よ。鍛え上げればかなりの使い手になるわ)
(だからといって、主が借金を肩代わりをしなくてもいいのでは?)
(そうニャ、ご飯が食べられなくなるニャ!)
ミルダとミャームで心配する内容が異なることに、苦笑いを浮かべていると悩んでいたアリアスが声を上げた。
「あ、あの! 本当に借金を払ってくれるんですよね?」
「ええ。あなたがあたしの奴隷になるのならね」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「交渉成立ね」
ミルダたちが姫の説得をする間もなく、交渉が成立してしまう。アリアスとの交渉が上手くいったことに姫は満足気な顔を浮かべると、さっそく彼女を奴隷にするための行動を開始するだった。
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応援してます!
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退会済ユーザのコメントです
それはこの先の執筆活動次第ですね。