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第一章 冒険者から始まる二度目の人生
2話「変なあだ名を付けたら、名前を教えてもらえなかったんだが!?」
しおりを挟む「……こほん、それでは転生に関する事前の打ち合わせを始めます」
「ぱちぱちぱちぱちぱち(拍手)」
思考能力が著しく停止した彼女がようやく再起動を果たした。まだぎこちなさが残っているが、なんとか通常運転を再開できるレベルにまで落ち着いた。そのことに内心で安堵しながらも、彼女の言葉に無表情で手を打ち鳴らす。
「まず、先ほど市之丞さんが言っていた通り、今回の転生はあなたが天寿を全うした特典、具体的には“八十年以上真っ当に生きること”という条件を満たしたお陰で発生したものだということをお伝えしておきます」
「ふむふむ、続けて」
彼女の説明を聞きつつ、俺は適度に相槌を打つ。俺がちゃんと耳を傾けていることに頷きながら続きを話し始めた。
「まず初めに、異世界に転生するにあたってあなたは四つの特典を選択できます。具体的な特典としてはこちらの一覧をご覧ください」
そう言い終わると同時に、俺の目の前にパソコンのウインドウのような半透明の物体が出現する。そこには彼女の言う様々な特典が記載されており、その量も物凄く膨大だ。
「こん中から四つ選べばいいのか?」
「基本的にはそうですが、そこに記載されていない能力でも応相談で可能です」
「……少し時間をくれ」
それから、どれだけの時間が経過しただろうか? かなり悩みに悩んだ結果、異世界転生する上であったらいいなという四つの能力を選んだ。
選んだといっても、彼女の提示した能力一覧の中から選んだわけではなく、彼女に「こういう能力は使えるか?」というこちらが口頭で質問する形になってしまったのだが、大体の能力が決まった。それが以下の四つだ。
1、鍛えれば鍛えるほど強くなっていく【成長スキル】
2、どんな怪我や病気も治してしまう【治癒魔法】
3、無限に収納することができ時間経過の劣化がない【アイテムボックス】
4、いかなるものであろうともその詳細を知ることができる【鑑定スキル】
「そして、あらゆる看破スキルを誤魔化すための【隠匿スキル】」
「いやいやいやいや! それ五つ目になってますから!!」
「……ちっ、騙されなかったか」
今までの彼女の言動から鑑みてコロッと騙されてくれると思ったのだが、どうやらそうは問屋が卸さなかったらしい。……使えん女だ。
「それでは、以上の四つでよろしいですね?」
「ああ、それなんだがこの【成長スキル】について補足で追加していいか?」
「……なんでしょうか?」
俺は彼女にこう説明した。【成長】というのはただ力が強くなるとか身のこなしが良くなるなどの身体的な成長だけに留まらず、スキルの修得率や成長率に対しても【成長スキル】の適応内になると。
「つまりはだ。この成長スキルはただ単に筋トレなどで肉体が強化されやすくなるものではなく“スキルや魔法も含めた全ての成長するもの”に対して適応されるようにして欲しいということだ。さっき選んだ四つの能力の中に攻撃魔法を入れなかったのはこの成長スキルでそれを補填できると思ったからだしな」
「むぅ、意外と抜け目ないですね……わかりました。では今からこの四つの能力をあなたに付与します」
そう言うと、彼女は指をパチンと鳴らした。すると俺の周囲にキラキラとした何かか纏わりつきしばらくして消失した。
「これであなたの希望した能力が全て付与されているはずです。さあ、それを確認するために“ステータ――」
「【ステータスオープン】、ふむふむ確かに付与は出来てるみたいだな。よろしい」
「人の話は最後まで聞いてくださいよっ! ……ここが一番のキメ台詞なのに」
なんかわけのわからないことを宣っているが、それよりも今は貰った能力の確認が先決なため目の前に表示されているウインドウに目を通していく。
【名前】:矢崎市之丞
【種族】:人間
【年齢】:
【性別】:男
【職業】:なし
【犯罪歴】:なし
《ステータス》
レベル1
HP 100
MP 100
攻撃力 50
防御力 50
素早さ 50
精神力 50
かしこさ 50
幸運 50
【スキル】:成長Lv1、治癒魔法Lv1、アイテムボックスLv1、鑑定Lv1、異世界言語Lv1
(なるほど、いくつか疑問点があるが、まあ大体スタンダードな感じのステータスだな)
プロフィールに関していえば、年齢が空欄なのが引っかかるがこれはあとで聞けばいいとして、まずは各パラメータから見ていこう。といっても、RPGゲームをやったことがある人間なら説明しなくてもいい極々ありふれたものなので特に疑問に思うこともないのが正直な感想だ。強いて言えば、HPとMPの数値が100に対し他の能力が50と異様に高い気がするといったところだろうか。……いや、逆にHPとMPが低すぎるのかもな。
次にスキルだが、俺が希望した通りの能力が付与されていたので何も問題ない。一つ気になったのは、希望していない【異世界言語】というものがあった。名前からして、これから転生する世界の言語と文字が理解できるようにするためのサービス的なものだろうと結論付ける。
「おい、管理者。ステータスの年齢が空欄なのはどういうことだ?」
「だから、その管理者って呼び方やめてもらえませんか!」
「じゃあ、おっぱい女神で」
「なっ!?」
俺の唐突な宣言に呆気にとられた顔をする。その顔が面白くて吹き出しそうになるが、辛うじて堪えることができた。その後彼女が抗議の声を上げてくるが、「じゃあその胸についてる二つの脂肪の塊はなんなんだゴルァ」と叫んでやった一発で大人しくなった。
「はぁー、そもそもさあ。俺お前に名乗ってもらってないんだけど? 名前がわからないんだから管理者かおっぱい女神の二択しかないだろうが」
「……もっと他にあるじゃないですか? 神様とか女神様とか」
「……お前のようなぽけぽけした神がいてたまるものか!! なにが全知全能だ! なにが神の裁きだ! ごっこ遊びは他所でやれ!!」
「ぐっ」
思い当たる節があるのか、俺の言葉に返すことができずに押し黙る。俺はあからさまなため息を吐くと、彼女に「そんなことはどうでもいいから自分の仕事を早く済ませた方がいいんじゃないか?」と言うと、はち切れんばかりの大声で「誰のせいでこうなってると思ってるんですか!!」と絶叫した。……いやどう考えてもお前のせいだろ?
「それで、転生ってことは赤ん坊からのスタートなのか?」
「はぁはぁはぁはぁ、ちょ、ちょっとまって、くだ、さい……」
どうやらかなり大声で叫んでしまったようで肩で息をしていた。まったくこの女はなにをやっているんだろうか?
数分後、彼女の息が整ったところで俺の問いに答えるため説明し始めた。
「最初は赤ん坊か年齢を指定して人気のない任意の場所に転移させるかを選択する形で転生が完了します」
「じゃあ、年齢はたぶん異世界の場合十五歳が成人だろうから十五歳でいいとして、転生する場所は近くの街から歩いて一時間以内の場所かつその世界の最弱モンスターが生息する場所で頼めるか?」
「わかりました。……では、以上で手続きは完了となりますが、最後に何かありますでしょうか?」
いろいろと一悶着というなの漫才があったが、どうやらこれで手続きは完了らしい。最後に何かあるかと言われたが、俺は結局こいつの名前を教えてもらっていないことに気付いたので一応聞いておくことにした。
「そうだな、じゃあ最後におっぱい女神、お前の名前を教えてくれ」
「ふぇっ!? ……え、えっとそれはそのー」
よほど自分の名前を名乗るのが嫌なのか、苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべている。そして、なにかを決意したように一つ息を吐くと俺に向かって言い放った。
「それでは第二の人生をお楽しみください!! パチン」
「お、おい! ちょっと待てよ! まだお前の名前を聞いてな――」
俺が抗議の言葉を言い終わる前に、彼女は指をパチンと鳴らす。すると突然、浮遊する感覚に襲われる。そして、気が付けば白い空間には彼女一人だけが残された状態だった。
「ふぅー、どうやらうまく行ったみたいですね……やれやれです。それにしても誰がおっぱいだけの女神ですかっ、失礼しちゃいます。ぷんぷん」
もはや誰もいない空間に向かってそう独りごちた彼女はさらに言葉を続けた。
「“おっぱい女神”とか言ってる人に言えるわけないじゃないですか。私の名前がオパイツだなんて……」
そう呟いた彼女は先ほど目的の世界に送った男とのやり取りを思い出し、盛大なため息を吐くともういなくなった彼に向けて「楽しんできてくださいね」と心の中で激励するのだった。
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