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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」
140話:「転職変換装置ミネルヴァ」
しおりを挟む目の前の光景を一言で表すのなら“圧巻”というのが適切だろう。
学校の体育館ほどの広さと同じくらいの場所、この世界の建物としては比較的数の少ない二十メートル以上も高さのある天井
その空間にそれは存在していた。
―――【転職変換装置ミネルヴァ】
ランクアップを行いたい者や新たな職業に就く者が利用する世界でも十数個ほどしか存在が確認されていない装置であり
伝え聞く話によれば、神の手によって作られたとされる神器のようなものだとエマさんは説明してくれた。
外観は数十とも数百とも取れる大小さまざまな歯車がいくつも組み込んであり、まるで時計仕掛けで動いているかのようだが
それだけの数の歯車が動いているというのに聞こえてくる音は思ったほど大きくはない。
規模自体は六~七メートルほどの物で装置の雰囲気としてはパイプオルガンに近い物だった。
その装置をを守るかのようにして薄い白い靄の様な球体が装置全体を覆っている。
靄と言っても、透明度が高いため球体の中は実にクリアに見えていた。
「ルーチェ、何も問題はありませんね?」
「むぅ、その言い方だといつもは問題あるかのような言い方じゃの?
誠にもって遺憾じゃぞ小娘」
エマさんの案内で装置の前まで行くと装置の近くには一人の小さな女の子がいた。
年齢は十歳にも満たないそれこそ幼女と言っても過言ではないほど幼いが
見た目とは裏腹に重厚な雰囲気を漂わせた感じの女の子だ。
身の丈に合っていない白衣を羽織り、年季の入った作業用のゴーグルを付けながら
装置の点検をしているようでカチャカチャという音が彼女の背中から聞こえてくる。
作業に一区切りついたのか、向けていた背中を翻すと俺たちを見つけた彼女がエマさんに問いかける。
「むむ? そいつらは何者じゃ?」
「ああ、この方たちは勇者様ご一行でランクアップのためにこの都市に立ち寄ったそうです」
「なんと、このめんこい小僧が勇者じゃとっ!?」
そう言いながらトテトテと俺に近づいてくると手を顎にやりこちらを値踏みするように視線を上から下まで舐めまわす。
そして、ひとしきり品定めが終わるといきなり俺の足に抱き着きながら唐突に言葉を発する。
「小僧、ワシの婿にならぬか?」
「はっ?」
この子が一体何を言っているのか言葉の意味を理解するまで数秒を要したが
どうやら俺以外の女の子たちは瞬時に理解した様で殺気交じりの視線を幼女に向けていた。
俺が返答に困っていると彼女の行動を咎めるようにエマさんがフォローをしてくれる。
「ルーチェ、いくらヤマト様が美男子だからといって自分の歳を考えてください」
「何を言う! 恋に年齢制限などありはしないのじゃ!!」
そんなやり取りをただ呆然と眺めているわけにもいかずとりあえず自己紹介をすることにした。
「初めまして、エマさんに紹介された通り勇者をしてるコバシヤマトだよ、君の名前は?」
そう言って彼女と同じ視線になるよう膝を付きながら頭を撫でる。
彼女の藍色の短髪がふわりと揺れた。
「こっこここちらこしょはじめまちて、ワシの、いやアタシはルーチェって言うです。 よろしくです」
頭を撫でられたことが恥ずかしかったのかエマさんに話していた態度とは一変して噛み噛みな喋り方だ。
思わず俺が吹き出しながら「可愛い」と呟くと赤い顔がさらに真っ赤に染まった。
そのタイミングを見計らったようにエマさんが補足情報をくれる。
「ちなみにルーチェの実年齢は五千歳を軽く超えていますのよ」
「ええーーーーごご、五千歳っ!?」
突然の情報に俺は目を見開き目の前の幼女を見た。
衝撃の事実にリナたちも驚きの声を隠せないでいた。
そんな中実年齢をバラされてしまった幼女もとい幼女モドキが反論する。
「こ、こら小娘誰が五千歳じゃワシはそんなに年を食っておらんわ!!」
「なんだ冗談か、そりゃそうだよねだって―――」
「まだ四千九百八十二歳じゃ!!」
「ぶっーーーーーー」
先ほどとは違う意味で吹き出す俺を尻目に短い腕をブンブンと振り回しながらエマさんの言葉を訂正する。
―――いや幼女モドキよ、その年齢ならもう五千歳でよいではないか。
その後エマさんとルーチェが口喧嘩を始めてしまったためそれを収拾するのに30分を要してしまった。
「ともかく小僧そういうわけじゃからよろしくの!」
「こちらこそよろしくね」
そう言ってさっきと同じように頭を撫でてやる。
どんなに年齢が上でも年下にしか見えないのだから俺はルーチェを幼女扱いすることにした。
彼女もそれに異論はないようで俺に撫でられるのを拒否はしなかった。
それを見たリナたちが「策士め」だの「幼女枠はマーリンの専売特許ですのん」だの口々に言っていたが
反応すると厄介なことになりそうだったので全力で聞き流した。
一通りの茶番が終わったので、俺は咳ばらいを一つすると本題を投げかけた。
「それで誰からランクアップする?」
ちなみにだが、現在ランクアップを必要としているのはフレイヤ以外の4人でリナ、エルノア、マーリン、マチルダだった。
レベル40で止まっているのがリナとエルノアでレベル60で止まりがマーリン、マチルダだ。
それぞれ下位神官、下位レンジャー、中位魔術師、中位武術家の職に就いている。
ここで彼女たちには二つの選択肢のうち一つを選択することになる。
一つは今就いている職業のランクを上げてさらに強くなる方法か別の職業に転職して新たな力を手に入れるかの二択だ。
ランクを上げれば同じ職のより強力な魔法やスキルを覚えられ、転職すればそれまで覚えた魔法やスキルを継承して新たな職に就くことができる。
一つの職を極めるのもよし、転職してさまざまな魔法やスキルを覚えるもよしというどっちにしても損がない仕様となっている。
だがもちろんデメリットも存在する。
ランクアップや転職直後はどちらもレベル1の状態に戻ってしまうため一時的に能力が下がってしまう。
特に転職は全く別の職業に転職する場合、ほぼゼロからのスタートになってしまうのだ。
ランクアップの場合は多少の能力減少はあるもののレベルが上昇する毎にアップするステータスの量も増えるため
転職と比べると幾分マシと言える。
「じゃあ私から・・・・・・」
そう言うとリナが“シュタッ”という効果音が出そうな感じで手をピーンと上げる。
特に異論がなさそうなので最初はリナがいけにえ、もといランクアップしてもらおう。
「ではこちらの中央に立ってもらえますか?」
エマさんが装置の中央に設置されているお立ち台のような場所にリナを誘う。
中央まで彼女が来たことを確認すると最終確認のためだろう改めて質問をする。
「ではリナさん、一応念のためにお聞きしますがランクアップと転職どちらをお望みになられますか?」
「ランクアップでお願いします」
「わかりました。 では気を楽にして心を落ち着かせてください」
そう言うとエマさんはルーチェに目配せをする。
それを受けたルーチェが半透明の操作盤のようなものを操作すると装置が勢いよく動き始めた。
歯車が今までよりも早く回転し、連動する歯車が徐々に加速していく。
すると装置の周りの球体が淡い光を放ち始めるとその光が次第に強みを増し、ついには装置が見えないほどに強い光を帯びていく。
しばらくするとその光が弱くなっていき装置とリナの姿が見えだした。
そして、光が無くなり気が付けば元の状態に戻っていた。
「はいもう結構ですよ~」
「えっ? もう終わりですか?」
本当にランクアップしたのか半信半疑のリナだったが俺が彼女のステータスを確認すると確かにランクアップが完了し
下位神官から中位神官にランクが上がっていた。
その後他の仲間が次々とランクアップをしていった。
これで俺とフレイヤの全員がレベル1に戻ってしまったが、今後鍛えていけば以前よりも強くなっていくので
しばらくは俺とフレイヤの二人で戦っていくとこになるだろう。
全員のランクアップが終了した後、エマさんが俺の職業に関して問いただしてきたが女神の制約があるとか
適当な言い訳を付けてなんとか俺のステータスがバレずに済んだ。
ちなみにフレイヤの職業を聞いてみるとフレア・ドラゴンという種族だけで職業には就いていないことが分かったので
彼女にはドラゴンの身体能力と生まれながらの強い魔力を活かせるよう格闘系のスキルと治療系の魔法が覚えられる下位修行僧の職業にしようとしたのだが彼女のレベルが100を超えているため
最上位修行僧という職が自動的に選ばれた。
それを見たエマさんとルーチェさんが目玉が飛び出るほどびっくりしていたが要らぬ詮索をされる前に手早くお礼を告げるとその場から逃げ出した。
あとでわかったことなのだが、最上位系の職は上位系の職を極めなければいけないため最上位系の職に就いている者はそれこそ
軍事国家の切り札的存在の騎士くらいのもので平たく言えば英雄級の強さらしい。
なんかまた悩みの種が一つ増えたような気がしたがとにかく仲間が問題なくランクアップできたので今はそれでいいと自分を納得させることにした。
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