33 / 162
第2章:パーティーができあがるまで
32話:「王城潜入から翌日」
しおりを挟む王城での一件が終わった翌日の朝、大和は目を覚ました。
あんなことがあったからだろうどうやら少しばかり眠りすぎてしまったようだ。
外はすでに人の往来があるのだろう、話し声や荷馬車が出す走行音が耳に入ってきた
そろそろベッドから起きようかと思ったその時
自分の寝ているベッドにいるはずのない人物が息を立てて寝ていた。
言わずもがな、この魔王討伐のために共に旅をしている仲間リナ・シェーラである。
もはや大和にとってリナがベッドに潜り込んでいることは日常茶飯事な出来事なので
驚きはしない、驚きはしないのだが人の言うことを聞かない彼女に苛立ちを覚える。
さてどうしたものだろうか?
このままぶん殴って起こすのもいいが、前に試しにやってみたら
起きたことは起きたが、例の【だらしない顔】になって気持ち悪かったためこの方法はパスだ
(だらしない顔:目じりが下がり、鼻の下を伸ばして涎を垂らしている顔)
いろいろと思案した大和だったが適当な手が思いつかなかったため
そのままリナを放っておいて、一人で出かけることにした。
出かけると言っても宿の外に出て、人が行き交うのをボーっと眺めるだけだ。
外に出ると、多くの人が通りを行き交う姿がありそれを見ているだけでも楽しかった。
年齢層も幅広く、荷馬車を引く商人風の男や町娘風の若い女の子
筋肉がはちきれんばかりの戦士風の男や
胸が服からこぼれ落ちそうな盗賊風のお姉さんなど
まさにファンタジーの世界にいるという実感が伝わってくる光景だ。
大和は起き抜けの体をほぐすために体を伸ばしながらストレッチをすると
少し遅めの朝食を取るため、宿の中に戻った。
宿の食事処にある椅子に腰かけると、若いウェイトレス風の女性が注文を聞いてきた。
顔は美人ではないが、愛嬌がある顔で人懐っこい性格をしているようだ。
服の上からでもわかる二つの大きな膨らみを見ていると
「やだぁ~お客さんどこ見てるんですぁ~」と冗談交じりで胸を隠す。
「いやあー大きいからつい」と大和が言うと
「もうお客さんここは娼館じゃないんですからね」と返してくる
そういったやり取りを終えた後
おすすめだというモーニングセットを頼んだ。
注文を聞くとその女性はいそいそとその場を後にした
(ちなみに大和の中では結構好きなタイプだったようだ)
女性がいなくなったあと後ろから声を掛けられた
「ふーん、ああいう人がいいんですね・・・」
振り返ると案の定見知った顔がそこにはあった
見ると頬を風船のように「ぷう」っとふくらませこちらを睨みつけるリナがいた
こういう仕草は年相応で可愛かったりするのだが、口が裂けても言葉には出さない
「なんだ、起きてきたのか」
何事もなかったかのように対応する大和
それを良しとはしなかったがこれ以上追及したところで無駄と悟ったのか
同じテーブルの椅子にリナがちょこんと座る。
それを見ていたのだろう先ほどのウエイトレスの女性が近づいてきて
リナに「ご注文は?」と訊いてくる。
リナは彼女を睨みつけながら顔を女性の近くまで近づけると
憤怒に満ちた声で一言こう答えた。
「彼と同じものをくださいっ」
その態度に苦笑いを浮かべながら「畏まりました少々お待ちください」とだけ言い
そそくさと離れていってしまった。
その後大和がリナの額をコツンと小突く
突然の出来事に目を見開いで驚く彼女に対し
「なに対抗心燃やしてるんだ馬鹿」
とだけ言っておいた
しばらくして注文した2つのモーニングセットが到着する
持ってきてくれたさっきの女性にまた睨みを利かせていたので
頭をチョップして止めさせた。
仲間が迷惑をかけたお詫びとしてチップ代わりに
10ゼリルを彼女に差し出した。
「こんなのいただけません」と言っていたが
「何も言わずに受け取ってほしい」とお願いすると
しぶしぶといった表情で受け取ってくれた。
その後朝食を食べ終わると、事の顛末を報告するため
ニルベルンの屋敷へと向かった。
(ちなみに朝食代は宿代に含まれているらしくタダだった)
ニルベルンの屋敷に到着すると、執事風の服を着た
50代くらいの男性が対応してくれた。
どうやら執政官としての事務的な仕事をしているのだろう
「旦那様をお呼びしてまいります少々お待ちください」とだけ言い残し
昨日訪れた応接室のような部屋で待つことにした。
数分後、昨日の服とは違うが貴族らしい気品と高級感が漂う服を身に纏った
ニルベルンが姿を現した。
「これはこれはヤマト様、ようこそおいでくださいました。」
これまた貴族然とした動きで胸に手を当て、
優雅な立ち居振る舞いで挨拶をするニルベルン
それに対し大和は「どうも」と軽い挨拶をする
育ちの違いが大きく出てしまい、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
一呼吸の沈黙が訪れ、その沈黙を破るかのように
ニルベルンが口を開いた。
「それでヤマト様、ご用向きは何でございましょう?」
当然の質問だ。
ニルベルンにとっては昨日の今日で勇者である大和が来たのだ
何かあったのではないかと勘ぐるのが自然な流れだ。
「実は・・・その」
言いにくいことなのだろうと大和の言い方で察知したニルベルンは
報酬の交渉に来たのかと思い大和の言葉を遮って答える。
「報酬の件でしたら、命を懸けていただくのです。
こちらが用意できる金額をお支払いいたします。」
そう言って真摯な態度で答えるニルベルンに対し
手を左右にブンブンと振りながら大和が少し焦り気味に答える
「いえいえっ、報酬の話で来たわけではなくてですね。
あのー、お受けした依頼が完了 (?)したのでその報告に来たのですが・・・」
そういうとニルベルンは男性にしてはつぶらで大きな目を見開き
彼には珍しい焦った口調で聞いてきた
「えっ!?かか完了した?昨日の今日で、えぇ??」
そりゃそうだ、依頼をした次の日に依頼を完了したと言えば
誰だってこういう態度を取らざる終えない。
その後平静を取り戻したニルベルンに大和が昨日あった出来事を話した
リナが攫われたこと、救出のために王城に乗り込んだこと
玉座の間でウルレギウスと戦ったこと
流石にメフィストフェレスのことは言うと大変なことになるので
あと一歩のところで逃げられたが、王城からすべての魔族を追い出したことにしておいた
勇者の身でありながら嘘をつくのは忍びなかったが
相手を慮っての嘘なのだからと自分に言い聞かせ報告を続けた。
全ての話を聞き終わるとニルベルンは大和の手を握ってきた
いきなり男の人に手を握られたためびっくりしたが
その顔は深い感謝と喜びを湛えていたので感極まった結果の行動だということで理解した
ていうかそうあってくれ!
その推測は当たっていたらしくニルベルンが仰々しく片膝を付きながら
大和に対して敬意を示した。
「なんとお礼を申し上げてよいやら、ヤマト様
先の魔王との戦に敗れ3年、我々はこの3年間苦汁を舐めさせられ続けてきました。
ですがご神託の勇者様であるヤマト様が現れ、これは神の思し召しと思いぶしつけにお願い致しました。」
その後ニルベルンの感謝の言葉という謝辞が5分ほど続いた
途中「もうその辺で大丈夫です」と言わなかったら
30分は謝辞を言っていたことは想像に難くない
そして、思い付いたようにニルベルンは声を上げる
「そうだ、急ぎこのことを旧王都の者たちに伝えねば
ご神託の勇者様が現れ、我々を魔族の手から解放してくださったと。」
そう言うとニルベルンは踵を返し、部屋を出ていこうとするが
それはあまりに失礼と思ったのかくるりと振り返ると
さらに感謝の言葉を述べ、報酬の話などは後日改めてということになり
執事の男性と共に部屋を後にした。
その後、ご神託の勇者様の出現と勇者が王城の魔族を撃退した話は
その日のうちにフランプール中に知れ渡ることとなり。
その夜勇者を讃える宴が開かれ、街中を上げての催し物となった。
様々な人に感謝の言葉を言われまくった大和は
それに向かって作り笑いを浮かべながら手を振って応えていた。
どこか暗い雰囲気が漂っていたこの旧王都も今では
人々の笑顔が溢れる明るい街へと生まれ変わっていた。
そして、夜を徹しての宴も一段落つき
今日はニルベルンの厚意で彼の屋敷に泊めてもらうことになった。
こうして魔族を撃退した大和の手により
旧王都フランプールに平和が訪れたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる