58 / 162
2部【アース大陸横断編】 第1章 「目指せドグロブニク 漫遊編」
56話「カズール VS ヤマト」
しおりを挟むお互いに名前を名乗ると戦闘態勢に入る。
大和ほどの強さになると対峙しただけで相手の強さが手に取るようにわかる。
カズールという男は強いか弱いかそのどちらかに分類するならば
確実に強い部類に入るだろう。
改めてカズールを上から下まで値踏みするように観察する。
筋骨隆々というよりは無駄な脂肪が付いていない身体付き
飄々とした雰囲気を醸し出しながらもその眼光は鋭く隙が無い。
胡桃色の茶色がかった長髪を後ろでまとめ上げ
ボロボロの服をまるで着崩したかのようにお洒落に着こなしている。
年齢は大和よりも少し若く27、8といったところだろうか
その瞳には恐れを知らない自信と若さゆえの拙さが垣間見える。
一騎打ちが始まって、数十秒が経過してもお互いに動く気配がない。
正確にはカズールが動けずにいたのだ。
彼自身もまだ若輩の身でありながらもそれなりの修羅場を経験してきていた。
だからこそ一騎打ちという提案を申し出たのだが
この時彼は大和に戦いを挑んだことを後悔していた。
(なっなんだこいつは!? まるで隙がないじゃないか!!)
大和の構えは一見、半身の状態で隙だらけのように見えるが
実は半身の体勢であるため相手がどんな角度やどんなタイミングで来たとしても
対応できる構えを取っていたのだ。
この構えは大和のオリジナルの構えでありこの世界に来てから
自然と覚えた構えなのだ。
その隙の無さに心中で舌打ちをし目を細める。
このまま見つめ合っていても仕方がないため
覚悟を決めカズールは下半身に力を込め大和の間合いに入り込む。
そのスピードは常人の域を逸脱しており大和以外の三人で
この動きを捉えることができたのはレンジャーの職を持ったエルノアだけだった。
まるで加速装置が体に付いているかのように数メートル離れた大和まで一瞬で踏み込み
手に持ったシミターを突き出してくる。
その高速の攻撃を上体を逸らすことで躱し、突き出された剣先を
自らの剣で弾いた。
金属と金属がぶつかる音が響き渡る。
払われたシミターを引き戻し、再び距離を取るカズール
だがこの時点ですでに勝負は決していた。
カズールは大和が只者ではないことを直感していた
だからこそ最初の初撃で決着を付けなければならなかった。
そして、自分が出せる最高スピードを以って最高の一撃を放ったつもりだったのだが
その攻撃はいとも容易く回避されてしまったのだ。
(・・・・勝てない)
圧倒的な力量差の前ではどうしようもないのだ。
だがカズールもまた引くに引けない状況なのだ
仮に逃げたとしてももうこの町には居られないだろう
だからと言って玉砕覚悟で突っ込んだとしても簡単に殺されてしまうだろう。
カズールの額から大粒の汗が流れ落ちる。
それほど動いていないのにもかかわらず汗をかくのは
精神面的な緊張によるものだろう。
己を鼓舞するために目をギュッと瞑りパッっと開く。
そして、相手の位置を確認しようとしたときにはもはや勝負はついていた。
さきほど大和がいた場所には彼の姿はもうなかった。
その刹那首の付け根に軽い衝撃が走り、気付いた時にはカズールは意識を失っていた。
大和はカズールが目を瞑ってから開くまでのほんの数コンマ一秒の間に
距離を詰め後ろに回り込み、カズールが目を開けたと同時に手刀を首に放ったのだ。
たまらず前のめりに倒れ込むカズール
実に一騎打ちが始まってから僅か4分の出来事であった。
「やったですのん!」
「ヤマト様が勝ちました!」
「当然です。 ヤマトさまが負けるわけがありません」
戦いを見守っていた三人に安堵の色が浮かんでいた。
本当はかなり心配していたのだろう。
大和は倒れたカズールの懐から白茶色の金袋を取り返すと
三人の元に歩み寄る。
「ヤマトさんすごかったですのん!」
「惚れ直しちゃいました!!」
「最後の動きはあたしでも見えませんでしたよ」
それぞれ一騎打ちの感想を述べ大和の労を労う。
その時三人の後ろから小さな顔がひょこんと出てくる、リコルだ。
大和はリコルに近づき頭をくしゃくしゃと撫でたあと
先ほど取り返したばかりの金袋から金貨三枚を取り出すと
その金貨をリコルに渡した。
「えっこれ・・・・」
大和のしたことに驚きを隠せないといった表情を浮かべる。
そんなリコルにやさしい微笑みを浮かべたあと三人に向き直り
「金も取り返したし、じゃあ行くか!」
そう言うとその場を後にしようとするが
その歩みは一人の人物の手によって止められてしまう。
「待ってくださいっ!!」
子供独特の幼げな声が建物内に響き渡る
その声に足を止め、声の主に振り返る。
「まだ何か?」
大和がそう言うとリコルは問いかける。
「どうしてですか? どうしてリコルに何もしないのですか?
あたしはあなた様からお金を盗みました。
本当なら殺されても文句は言えません、それなのに!
あなた様はあたしを責めるどころかお金までくれて・・・・」
自分が犯してきた罪を悔いるかのような表情を浮かべ俯くリコル
大和はそんな彼女に歩み寄り頭に手を置きながら諭すように語り掛ける。
「リコルちゃんが今までしてきたことは許されないことだ。
でも生きるためには仕方のないことだってある。
リコルちゃんも好きでこんなことしてきたわけじゃないんだろ?
もし君が今までしてきたことを悔やんでいるのならまだ遅くない
リコルちゃんはまだ子供なんだからいくらでもやり直せる。
そのお金は君の新しい門出を祝う選別と思って受け取って欲しい」
その言葉を聞いた途端、タガが外れたように本来の子供らしく
大粒の涙を流しながら泣きじゃくる。
大和の胸に抱かれながら、今まで我慢していたものを全て吐き出すように
辛かった日々が報われたかのようにリコルは泣き続けた。
大和はそれ以上は何も言わずただただ彼女が泣き止むまで
ずっとそばにいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる