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第二章 クエスト攻略
6話「二回目のログイン」
しおりを挟む「よし、VRMMO活動二日目行ってみるか!」
始めてVRMMOを体験した翌日、朝食と部屋の掃除を済ませた俺はさっそくゲームをする準備を始めた。
とても楽しみしていたこともあり、決意表明のように独りごちながらヘッドギアを被り、【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】の世界へ再びログインする。前回同様、意識が遠のいていく感覚に襲われるも、二回目とあって動揺は一切ない。
意識が再び戻ると、そこは前回と同じ街の中央に位置する広場だった。
この街の簡単な造りを説明すると、石の壁に囲まれた円形状の形をしており、東西南北にそれぞれ存在する門から走っている大きな通りがあってその中央部に広場がある。
ちょうどホールケーキを縦横に切り分けた状態をイメージしてもらえればわかりやすいだろう。それを俯瞰で見た状態で、左上、右上、右下、左下の四つのブロックに街が分かれている。
主な施設としては、南の門から見て左上が商業区、右上が工業区、右下が公共区、左下が宿場区というような感じになっている。商業区は、武具やアイテムなどを販売する店が大多数を占めている区画でNPCも商人系が多く、工業区は鍛冶や木工などの物作りを主に行っている区画で職人系のNPCが多い。公共区は冒険者ギルドや商業ギルドといったギルドや役場などの施設が多いため役人系のNPCが多く、宿場区はその名の通り宿が多いため、宿主系NPCが多い傾向にある。
ログインする前に、改めて取説を読み返して初めて知ったことなのだが、この世界に住んでいる住人のことをNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と呼び、簡単に言えば運転手のいないひとりでに動く車のようなものらしい。
実際に誰かが操っているわけではなく、AIと呼ばれる人工知能によって動いているのだが、従来のAIとは違い複雑な言葉を理解することができ人間のようにちゃんとした感情も持ち合わせている所謂“超AI”というものであると、取説には記載されていた。昨日冒険者ギルドで対応してくれた受付嬢もそのNPCであったが、現実世界の受付嬢との違いはまるでなく、それこそ人間といっても差し支えないほどであった。
現在俺はその街の中央である広場にいるわけだが、この広場というのは最初にログインしてきたときにやってくる場所らしい。他にもモンスターにやられるなどして死んでしまった場合でも、この広場に戻ってくると取説に記載されていた。ちなみに、宿屋でログアウトだけ行い再ログインした場合の初期位置はこの広場だが、宿屋で部屋を取っていた場合の再ログインは部屋を取った宿からのスタートとなるようだ。
(一先ず、初心者チュートリアルの続きをやっていこうかな)
今もメニュー画面の端に表示されているこの初心者チュートリアルだが、現在の目的は“冒険者ギルドで受けたクエストを攻略しよう”というミッションで止まってしまっている。というのも、冒険者ギルドで登録した時に【スフェリカルラビット討伐】と【ハイルング草納品】のクエストを受けていたのだが、目的地である草原と林に他のプレイヤーが殺到してしまいクエストをこなすどころの話ではなかったのだ。
「さてさて、今日は人がいないだろうか」
そんなことを考えつつ街の外の草原に向かったのだが、俺の淡い期待は露と消えた。そこに広がっていた光景は、前回にも増して人がひしめき合っている草原だった。
考えてみればこの状態は至極当然であると俺は思った。今日は土曜日で、世間一般的には学校も会社も休日として扱われている日なのだ。
レジャー施設や遊園地などの場所において一週間のうち最も人が集まる曜日といえば、学校や会社が休みの日である土曜日と日曜日だろう。そして、今日は土曜日であるわけだが、当然俺以外の学生や社会人も学校や仕事が休みである。となってくれば、俺と同じようにテストプレイヤーに選ばれた人間がすることといえば【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】をプレイすることであるのは自明の理だ。
「この調子じゃ、林の方も似たり寄ったりな感じだろうなぁ……」
当たって欲しくない予想を口にしながらも、間違いなくそうであろうことはわかっているため思わずため息をつく。今日もクエスト攻略を断念した俺は、前回と同じく街中の石を拾いながら他のクエストがないかと冒険者ギルドに行ってみることにした。
道中の石を拾いながら冒険者ギルドに向かうこと十分、目的地へと到着する。普通に歩けば数分の距離を十分掛けた甲斐があったのか十数個の小石を手に入れた。
ギルドに到着すると、さっそく受付カウンターへと足を向けたところまでは良かったのだが、突如として声を掛けてくる男がいた。
「おい、そこのお前。お前みたいな雑魚野郎が、冒険者をやろうなんざ千年早ぇー。おとなしく、帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
(おう、マジかよ……今どきそんな風に絡んでくる奴なんていないぞ?)
俺がどうしようかと困惑していたのが気に障ったのか、男が「おい、てめぇ聞いてるのか!?」と手を伸ばしてきた。しかし、その伸びてきた手は俺の肩ではなく俺の右斜め前にいた男の肩に置かれた。肩に手を置かれた男も、自分のことだと認識していなかったのか一瞬戸惑ったが、すぐに顔を歪めながら難癖をつけてきた男と口論を始める。
「てめぇ、いい度胸だ! 表出やがれ!!」
「上等だゴルァ!! やってやんよ!!」
そう吐き捨てるように言い放った両者は、そのままギルドの外へと出て行ってしまった。その後、すぐに外から「喧嘩だ、喧嘩だー」とか「ゲームマスター呼んで来い!」という声が飛び交っていたが、それ以上関わると貴重な時間が失われると考えたため、俺はすぐに受付へと向かった。
(『触らぬ神に祟りなし』って言うしね、それとも『君子危うきに近づかず』か?)
そんなどうでもいいことを考えながら受付に向かうと、以前ここに来た時に担当してくれた受付嬢がいた。栗色のショートボブの髪がとても似合う可愛らしい女性だ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は……」
それから、俺はクエストを攻略したいが人が多すぎて攻略できないといった現在の状況を簡単に説明して、他に攻略できそうなクエストは無いのか聞いてみた。
「申し訳ございません。登録されたばかりの冒険者が受けられるクエストは、今イールさんが受けている二つだけでございまして。他のクエストを受けるためには二つのクエストのうちどちらか一つをクリアしてもらう必要があるんです。この二つのクエストは冒険者としての資質を見極める試験の意味合いもありますので……」
そう言って、彼女は謝罪の意味が籠ったお辞儀をする。胸元が少し開いた服から胸の谷間がちらりと見えた。……眼福である。
「いえいえ、こちらとしてもこの状況がどうにかならないかと思って聞いてみただけですのでお気になさらず。……それに、いいものも見せてもらったし」
「あの……何か言いましたでしょうか?」
最後の方は呟くように言ったため聞こえなかったらしく、受付嬢が聞き返してきた。俺は彼女に「なんでもありません」とだけ答え、お礼を言って受付を後にした。
ギルドを出ていこうとしたその時、ちょうどギルド内へと足を踏み入れる三人組がいた。三人とも十八か十九歳くらいと若い見た目の男女で、男が一人に女二人の編成だった。
(あれが俗に言う“リア充”というやつなのか? まあ、俺には関係のない話だが)
別に女に興味がないわけではないが、かといって積極的に親密な関係になりたいとも思わない。だからこそ、一緒にいる男に対して俺個人としては感じるものは何一つとしてなかったのだが、ギルド内にいた男たちはそう思っていないようで、怨嗟のような視線を向けていた。
そんな彼らとすれ違う形になってしまったが、特に絡むことも絡まれることもなく俺はギルドを後にした。
「さて、これからどうするかな」
誰にともなくそう独りごちりながら、この先どうすべきか思案に耽る。もちろん、道中にある小石はちゃっかりと拾っている。そういうところに関しては、抜かりはない。
ここで一度街の外がどうなっているのか確認するために、俺はメニュー画面からマップを表示させる。この街は【エアストテール】という名前で、プレイヤーが最初の拠点とする場所である。東西南北に設置された門を出た先にはそれぞれ街道が伸びており、現在は北と南の街道のみが利用可能で、東西の街道は関所が設けられていて封鎖されている。南側には、今もプレイヤーたちがいて絶賛おしくらまんじゅう状態にある草原と林があり、北側には少し進んだ先に森が広がっている。
「これは一度北の森に行ってみてもいいかもな」
このままではずっと小石拾いだけをすることになってしまうと焦った俺は、まだプレイヤーが少ない北側の森に行ってみた方がいいと判断し、北側の門に向かって歩き出した。
門に向かいながら小石を拾い集め続けていたこともあり、門に着いた時には五十個以上の小石を所持していた。門には数人の衛兵が詰めており、出入りする人間の対応に当たっていた。
「次」
列に並んで数分後、自分の番になったため衛兵の前に歩み出る。特にこれといったトラブルもなく、身分を証明する物の提示を求められたため、ギルドカードを出したらすんなりと通してくれた。
門を出ると、そこには一本の街道が通っており、それ以外は何もない平野が続いていた。モンスターに出くわすことなく街道を歩くこと数分後、森の入り口らしき場所にたどり着いた。
「ここが北の森か、特に変わったところはないな」
そこに広がっていたのは、鬱蒼とした木々が生えているどこにでもある普通の森だった。入り口から見た感じだが、特に重苦しい空気もない。
「じゃあ、いっちょ行ってみるかね」
せっかくここまできて引き返す選択肢を選ぶことはできなかったので、少し怖くもあったが意を決してそのまま森に侵入することにした。いよいよ冒険の始まりだ。
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