初めてのVRMMO ~三十歳から始めるオンラインゲーム~

こばやん2号

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第四章 第二の街【ツヴァイトオルト】

22話「イールが大蜘蛛から逃げている頃、ローザは……」

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~ローザ視点~


 あたしは今見ず知らずのお爺さんの小脇に抱えられながら、ヴィント山を下山していた。というのも、とあるクエストでヴィント山に自生しているというロジェビ草を採取した帰り道、突如として大蜘蛛のモンスターが襲い掛かってきた。戦う気満々だったんだけど、一緒に行動していた彼がそれを止めた。こちらの思考を読んだかのように、彼の小脇に抱えられてしまい身動きが取れない状態で強制的に移動させられてしまった。


 その途中で、彼があたしのおっぱいを鷲掴みにしてきた時はびっくりしたけど、非常事態ということはわかっていたのでしょうがないと思った。……後で多めに料理を請求してやろう。


 逃げている道中、大蜘蛛から逃げてきた三人組のプレイヤーの内二人が力尽きてしまい、残されたのはあたしと彼と三人組の最後の一人だったお爺さんだけになってしまう。その状態で、彼が自分が囮になるためあたしの身柄をお爺さんに託し、一人別方向に走り去っていった。彼がお爺さんにあたしの身柄を預けるとき、彼があたしのおっぱいを意図的に揉んだ気がしたんだけど、気のせいだよねきっと……。


「ちょっと、いい加減降ろしてよ!」


 すでに大蜘蛛の姿も形も見えなくなり危険は去ったにもかかわらず、あたしはまだお爺さんに小脇に抱えられていた。一瞬だけあたしの体の感触を楽しんでるんじゃないかって思ったけど、理由はシンプルだった。


「今ここでお嬢ちゃんを降ろすと、あの若いのの後を追いかけるじゃろ? じゃから大人しく小脇に抱えられておれ」

「ぐっ」


 お爺さんの意見は的を射ていた。確かに、お爺さんがあたしを降ろしたら彼の後を追いかけるつもりだったけど、まさかそれを見破るなんて思いもみなかった。……妖怪「心読み爺」じゃないよね?


 そんなやり取りがあってから数分後、ようやくヴィント山の入り口付近にたどり着いた。そして、ようやくお爺さんから解放された。


「ふぅ、やっと自由になれた。よし、待っててね、今加勢に行くから」


 解放されたと同時に、あたしは地面を蹴ってその場から彼の元に向かおうとした。だた、それを許してはくれない人物の手によって阻止されてしまう。


「はい、ダメ」

「ふぎゃ」


 その場からすぐに移動を開始しようとした直後、突如として体が宙に浮き上がる。それが、お爺さんの手によってあたしの装備の襟を掴み上げているとわかったのはすぐのことだった。どうやら、あたしが解放されるとどういう行動を取るのかわかっていたらしく、その動きは実に迅速だった。……ほんとにあたしの心を読む妖怪じゃないよね?


「降ろせ、彼だけに楽しい思い……危険なことをさせるわけにはいかないの!」

「今明らかに本音がだだ洩れていたようじゃが、この際どうでもいいわい。とにかく、今の嬢ちゃんを野放しにしておくと危ないからのう。悪いがまた小脇に抱えさせてもらうぞい」


 そう宣言すると、お爺さんは再びあたしを小脇に抱えて歩き出した。そして、そのままの状態であたしたちは街へと帰還することになったのだ。当然だが、お爺さんに「恥ずかしいから降ろしてくれ」と頼んだが、「あの若いののところに行くつもりじゃろ?」と一蹴され聞く耳を持ってくれなかった。……まあ、降りたら彼の所に行くのは事実だけどさ。


 街に近づくにつれて、プレイヤーもちらほらと見かけるようになり無遠慮な視線が突き刺さる。老人が美少女を小脇に抱えていれば、誰でも怪訝な視線を向けてくるのは至極当然だ。……自分で美少女って言うなって? それについて苦情は一切認めない。認めないったら認めないんだから!


 そして、ツヴァイトオルトの街に到着しそのまま広場へと連行される。広場には先の追いかけっこでリタイアしたお爺さんの仲間である若い男女が待っていた。なんでも、広場に送還されると同時にお爺さんと個人チャットで連絡を取り合っていたらしい。……あたしとのやり取りをしながらそんなことしてたなんて、やっぱり妖怪かなにかじゃないのこのお爺さん。


「とりあえず、いい加減降ろしてくれないかな? もうここまで来ちゃったら、追いかけようがないし」

「おお、そうじゃったのう、すまんすまん」


 さすがに今から追いかけても間に合わないので、彼のところに行くのは諦めた。というより、諦めざるを得なかった。あたしが諦めたことを悟ったのか、お爺さんは素直に降ろしてくれた。


「そういえば、自己紹介がまだじゃったのう。わしの名は時々(じじ)という」

「じじい?」

「確かにわしは爺じゃが、その爺ではない。天気予報でよくある雨時々晴れという時々と書いてじじと読むのじゃ」


 ……そうですか、まあこの際老人の名前のこだわりはどうでもいいことなんだけどな。とにかく他の若い男女二人も自己紹介をしてくれた。男がマサキで女の方がユキナという名前らしい。


「あたしはローザよ、よろしくね。それで、三人はどうしてあの大蜘蛛に追いかけられていたの?」

「む、あー、それがの……」


 時々のお爺さんの話によれば、街に住人から得た“ヴィント山に出現するモンスターが強い”という情報に従い、ポイント稼ぎにやって来たのはよかったのだが……。


「困ったことにユキナの嬢ちゃんが、もっと奥に進んでみたいと欲を出してしまってのう」

「気付いた時には、すでにあの大蜘蛛の住み家に入り込んでしまったんだ」

「しょ、しょうがないじゃない。まさかあんな化け物が出てくるなんて思わなかったし、それに二人も乗り気だったじゃない」


 時々のお爺さんとマサキの言い分に、ユキナが言い訳じみたことを言い放つ。三人の話を総合すると、ポイント稼ぎにヴィント山に来たはいいものの、予想に反して奥に行きすぎたためにあの大蜘蛛の生息域にまで知らず知らずのうちに入り込んでしまったというのが事の顛末らしい。


 三人の口論をしばらく聞いていたが、一向に彼が戻ってこないことに何かあったのかと不安に思い始めた頃、ようやく待ち人が現れた。


「悪い、どうやら待たせてしまったようだな」


 そこには、泥だらけになった状態の彼がいた。










「はあ、はあ、はあ、はあ」


 大蜘蛛からなんとか逃げ切ることに成功した俺は、ただひたすらにヴィント山の入り口を目指して山の斜面を走っていた。道中、大蜘蛛が暴れた影響なのか通常のモンスターの姿はほとんどなかったのは幸いだった。モンスターとの戦闘を避けることができたため、数分という短時間でヴィント山の入り口まで戻ってこれたのだが、肝心のローザたちの姿がなかった。


「あれ、いない。もしかして、街に戻ったのか? 俺を置いて」


 置き去りにされたことに一瞬憤慨しながらも、状況的には自ら囮になって犠牲になったと見れなくもない。そのため、大蜘蛛の餌食になり死に戻った可能性の方が高いと判断し、ヴィント山の入り口で待つよりも街に帰還して迎えに行けばいいという結論に至ることを考えれば、ここに彼らがいないことにも頷ける。


「でも、勝手に殺されるのはあまりいい気分じゃないなぁ……」


 大蜘蛛との鬼ごっこは確かにぎりぎりの戦いだった。それは認めよう。だがしかし、たとえ僅かでも生き残る可能性があるのであれば、その可能性に懸けて待つという選択肢を取って欲しかったというのは俺の我が儘なのだろうか?


「……とりあえず、俺も街に戻るか」


 少しばかりの寂しさを胸に、俺はヴィント山を後にしたのだった。一応目的を果たすことには成功しているので街に戻るのはまったく問題ないのだが、この筆舌に尽くし難い思いはなんなのだろうか?


 街に戻る道中も特にこれといったトラブルもなく帰還することができた。何も問題がないに越したことはないのだが、こうまで順調だと少しくらいトラブってもいいんだよという気持ちになってくる。


「まあ、そうなったらそうなったで怒るんだけどな、ふふ」


 自分のどっちつかずな考えに自嘲の笑みを浮かべながら、彼女たちがいるであろう広場へと向かう。相も変わらず人の往来の多い街並みは、現実世界の首都圏の混雑を思い出す。


 そんなことを思いつつ歩く事数分、ようやく広場へとたどり着きそこで見覚えのある背中を見つける。体自体は小さいのにもかかわらず、なぜか存在感のあるその背中は頼もしいの一言に尽きる。だが、ひとたび彼女が口を開けば誰しもが思ってしまうことだろう。“この子なんかおかしい”と……。


 本当ならあまり関わり合いになりたくないタイプの彼女だが、今回がっつりと関わってしまっているため、無視することができないのが非常に残念だ。そんな気持ちを押し殺し、俺はその背中に向かって声を掛けた。


「悪い、どうやら待たせてしまったようだな」


 俺が声を掛けると、その小さな幼女……もとい、小さな少女は目を見開いて驚いていた。


「ああ、君! ホントにもう、自分勝手すぎるよ!!」


 ……自分勝手さで言えばあんたには敵わないよという言葉を、辛うじて口の中で押し止めることに成功した俺は、ローザの言葉に反応することなく老人の元へと歩を進めた。


「ありがとうございました、ここまでローザを連れてきてくれて」

「おお、若いの無事じゃったか。なに、それくらいお安い御用じゃよ。それにわしが強制連行しなければ、お主の後を追いかけていたじゃろうということはなんとなく理解できたからのう。お主もいろいろ大変じゃのう。それから、別にわしに敬語は必要ないぞい」


 なるほど、さすがは年の功と言うべきか、やはりローザは普通ではないということがこれで確定してしまったようだ。見た目は愛らしく、スタイルも抜群だが肝心の中身がダメという“天は二物を与えません人間”だということが……。


 またしても、敬語いりません人間に出くわしてしまったが、一つだけ問いたい。なぜ、このゲームのプレイヤーたちは敬語をここまで嫌がるのだろうか……?


 兎にも角にも、爺さんと他の二人のお仲間との自己紹介を終えると、その場で解散ということになった。今回の原因を作ったユキナが別れ際に謝ってくれたが、別段気にしていないので彼女の謝罪を受け入れた。


「というわけでだ。ローザ、いろいろあったがこれでローピンさんの病気を治すことができるな」

「え? ああ、そういう経緯だったね、すっかり忘れてたよ」

「……おいこら、何しにヴィント山に行ったと思ってるんだ?」

「モンスター退治?」


 なにをどうしたら採取クエストが討伐クエストになるのかは俺には理解できないが、彼女の頭の中がおかしいということだけは理解できた。とりあえず、目的のロジェビ草はゲットできたのでローザに一声掛け、俺たちは食堂へと向かうことにした。
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