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第四章 第二の街【ツヴァイトオルト】

24話「お子様ランチの完成とパーティ勧誘」

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「ふごふごふごふご」

「うるさいぞローザ、ちょっとは静かにできんのか?」

「ふごー!!」


 俺の言葉に、こちらを非難するような態度を取るローザ。まあ、それも致し方なきことではあるのだが……。突然口にトマトを突っ込まれれば、誰でもそんな態度を取ってしまうことだろう。


「もぐもぐ、……あ、美味しい」


 尤も、彼女の場合物事の過程よりも結果が良ければすべてよしという価値観を持っているようで、“トマトを口に突っ込まれたけど、食べてみたらおいしかったのでオッケー”という結論になったらしく、それ以上抗議の声を上げることはなかった。


 とりあえず、現状お子様ランチに必要な四品のうちまだ一品が完成しただけに過ぎないため、できるだけ作業ピッチを上げていきたいところだ。さが、次に調理するのはみんな大好きホットケーキだ。


 まず、卵を割り、黄身と卵白に分ける。ボウルに卵白を入れ、そこに砂糖を入れて泡だて器でひたすら混ぜ続け、メレンゲを作る。そのメレンゲを、別のボウルで作った小麦粉と黄身と砂糖と牛乳を混ぜたものに入れ合わせて混ぜていく。ポイントとしては、メレンゲは一度に混ぜてしまうのではなく、少しずつ加えながら生地の出来具合を見て調節することだ。


 そして、熱したフライパンに油を敷き馴染んだところで、出来上がったホットケーキのタネを適量投入する。少し加熱後ひっくり返して反対側も焼き両面がある程度焼けたところで皿に盛りつければ完成だ。


【ホットケーキ】:黄身と小麦粉を混ぜたものに、卵白と砂糖で作ったメレンゲを混ぜ合わせた生地で焼き上げられている。美味ではあるものの、ベーキングパウダー的なものが足りていないため少し物足りない感は否めない。

【ランク】:4

【料理等級】:八等級


「うーん、やっぱベーキングパウダーか重曹が必要だったか」

「パーキングエリア? これからドライブにでも行くの?」


 ローザの天然ボケを右から左に受け流し出来上がったものに自己評価を付けていく。一口サイズに切り分けたホットケーキを口に入れると、ほのかな甘みとまろやかさが口いっぱいに広がる。情報通り美味ではあるが、確かにこれで完成と呼ぶには何かが足りないというのが正直な感想だ。……まあ、何かというのはベーキングパウダーなんだが。


 俺がホットケーキを味見していると、目をランランに輝かせたローザが期待に満ちた目でこちらを見ていた。その目は雄弁に物語っている。“早く、味見をさせろ”と……。別に意地悪をするつもりはないので、一口分を切り分けて出してやると一瞬にして彼女の口の中へと消えていった。


「うーん、一切れじゃ味がわかんないよ。てことで、もう三枚くらいおくれー!」

「……」


 そう言いながら、食べ終わった皿をこちらに差し出し、ローザはにこやかな笑顔を浮かべる。さすがに性別が女性メスなだけあって、どうやら甘い物には目がないようで、かなりの量を要求してきた。とりあえず、ホットケーキはこれでひとまず完成と見なし、鼻息の荒くなった彼女を宥めすかすと次の品の調理に移行する。ちなみに、あとでホットケーキだけ単品で作るという約束をさせられたのは言うまでもないことだろう。


 次の三品目は今回の主役とも言うべきおかずであるハンバーグだ。基本的にハンバーグは、合い挽き肉と呼ばれる別種の肉を混ぜ合わせて作ったものを使用することが多いのだが、今回せっかくということで、在庫がたくさんあるスフェリカルラビットの肉と、ヴィント山でゲイルウルフを倒した時に手に入れた肉を使って合い挽きにしてみようと思う。ウサギと狼という絶対にスーパーに並ぶことのない組み合わせの合い挽き肉がここに爆誕した。


 比率はウサギを7ウルフを3にし、少しあっさりしたハンバーグを作ることを目指して調理する。現実では合い挽きするための調理器具を使用しなければならないのだが、そこはゲーム世界ということで二つの肉をくっつけることで合い挽き肉が出来上がった。詳細はこちら。


【合い挽き肉】:スフェリカルラビットとゲイルウルフという異色の組み合わせによって作られた合い挽き肉。7:3の比率で混ぜ合わされていて、焼けばあっさりとしたものが出来上がる。

【ランク】:5

【料理等級】:六等級


 あとはこの肉を使ってハンバーグを作っていくだけなので、手早く調理していこう。まずボウルに合い挽き肉を入れる。そして、刻んだ玉ねぎを入れ塩と胡椒で味を調え卵を割り入れる。それらを手で捏ねながら混ぜていき、できたものをテニスボール大ほどの大きさに形を作っていく。空気抜きのため、自分の手から手へキャッチボールをするように叩きつける。


「あっ、あたしもやりたい! やらせてやらせて!」

「別に遊んでるわけじゃないんだぞ?」


 仕方なく、一個だけやらせてやったが、結果どうなったのかは……言わなくてもわかるだろう。


「う、うぅー。あたしのハンバーグちゃんが……」

「今どきハンバーグに“ちゃん”を付ける奴がいたとはな……」


 厨房の床とキスをしているハンバーグの傍らで、両膝を突きながら地面に平伏すローザを見ながら、俺は正直な感想を述べる。まあ、ローザにやらせた時点でこうなるのではないかと思っていたため、俺としては想定の範囲内ではあるのだが、そのことを口に出すほど俺はデリカシーのない人間ではないため、平伏すローザを横目に残りの肉をハンバーグに変えていく。


 未だハンバーグショックから立ち直れていないローザを完全に無視して、俺は熱したフライパンでハンバーグを焼いていく。というのも、そもそもハンバーグの調理というのは加熱にそれなりに時間が掛かってしまう。大体最初の面を焼くのに二、三分加熱し、ひっくり返して弱火でじっくり七分から十分も掛かるのだ。時間的にはまだログアウトの時間ではないが、社会人である俺にゲームとはいえ無駄な時間を使う余裕はない。


 弱火で加熱している間、ローザの打ちひしがれている姿をまるで観賞用のサボテンを眺めるように観察すること八分後、ハンバーグの中まで火が通ったことを確認した後、皿に盛りつける。


【ハンバーグ】:スフェリカルラビットとゲイルウルフという合い挽き肉のハンバーグ。あっさりとしているため食べやすく、美味である。

【ランク】:6

【料理等級】:五等級


 最初の時点で五等級をいただけるとは、かなりうまくできたようだ。すでに復活していたローザと共に出来上がったハンバーグを試食する。


「うん、美味いな」

「確かに美味しいけど、これはあたしのハンバーグちゃんじゃないんだ」

「もういい加減引きずるなよ。お前がどんなに悔やんだところで、お前の“ハンバーグちゃん”は帰ってこないんだぞ」

「うぅー」


 というような一幕があったものの、これで三品目のハンバーグも完成しあとは四品目であるデザートを残すだけとなった。


「最後はやっぱシンプルに果物を切って盛り付けるだけでいいだろ」

「でもそれって、料理と言えるのかな?」


 さっきまでハンバーグにご執心だったくせに何気に核心を突くローザ。まったく、さっきの“あたしのハンバーグちゃんが……”と言ってた奴と同一人物とはとても思えんぞ?


「でも、そろそろ完成させたいし、凝ったものだとたくさん作れないからやっぱりシンプルイズベストってことで、うさぎちゃんリンゴにしておこう」

「うさぎちゃんリンゴ!!」


 どういう呼び方が適切かはわからんが、リンゴの皮をうさぎの耳に見立てて切ったものを俺の家では“うさぎちゃんリンゴ”と呼んでいたのだが、ローザが飛び跳ねながら喜んでいるところを見るに、意味としては通じたようだ。ていうか、うさぎちゃんリンゴで子供のように飛び跳ねる大学生って……いや、何言うまい。


「よし、あとはこの四品を一つの皿に盛りつけるだけだ」

「あたしもやりた……ぷぎゃ」

「お前がやると、せっかく作った料理がさよならバイバイすることになるから、俺にまかせとけ」


 自分も最後の盛り付けをやりたいと志願してきたローザの頭にチョップを落とすことで、なんとか最悪の結末を迎えることだけは避けられた。その後彼女が抗議の声を上げてきたが、彼女が“ハンバーグちゃん”と呼んでいたものがあった床の辺りを指差しながら「第二のハンバーグちゃんを生み出す気か?」と言うと、大人しくなった。


 こうして、様々なトラブルや珍事がありながらも、なんとか完成にまでこぎつけることができた。最終的に出来た物がこれだ。


【お子様ランチ】:ケチャップライス、ホットケーキ、ハンバーグ、デザートの四品で構成される子供向けの料理。子供向けとはいえ、一つ一つは作り手の技術が込められており、足りないものが存在し改良の余地はままあるものの、概ね美味である。

【ランク】:7

【料理等級】:五等級



「はあー、とりあえずできたからローピンさんたちと一緒に食べるぞ」

「オッケー、あたし呼んでくる」


 そう言うが早いか素早い動きで走り出すと、瞬く間にローピンさんたちを呼びに行った。そして、ローザに呼ばれてきたローピンさんとディッシュと共に、出来上がったお子様ランチを食べた。


「これは、美味しいです」

「うん、イールお兄ちゃん、凄く美味しいよ」

「それならよかったです」

「もぐもぐ……おかわり」


 その後、ローザが三人前を食べ終わったところで、ローピンさんとディッシュにお礼を言って食堂を後にした。これで、ローザとのクエスト攻略も済んだので、食堂を出るとき臨時パーティを解除しておいた。


「さて、そろそろいい時間だし、宿に戻ってログアウトすっか」


 そう呟いたところで、後ろから声を掛けられた。そこにいたのは、ローザだったのだが少しためらいがちに体をもじもじとさせながら、何か言いたげな雰囲気を醸し出す。そして、意を決したと同時にローザがお願いを口にした。


「もし、よかったらあたしとパーティ組んでくれませんか?」

「パーティだと?」


 彼女曰く、今日とっても楽しかったらしく、できれば一緒に行動を共にしたいとの事だ。もともとこのAFOは、多人数で攻略していくことを主目的として作られているゲームだと説明書にも記載されていたが、今となっては一人でマイペースに過ごすこともできるとわかったので、できればそっちの方向で今後プレイしていきたいと俺は考えていた。


「すまないが、もうしばらく一人でマイペースにやっていきたいんでね、せっかくのお誘いだが断る」

「もし、パーティ組んでくれたらいつでもおっぱい触らせてあげ――ぷぎゃ」

「それ、セクハラだから」


 その後、「もっと自分の体を大切にしろ」という俺の有難い説教を五分ほど受けた後、ローザはとぼとぼとどこかに歩いていった。個人的に言うなら、仮に触れなくてもあの胸をいつでも見ていられるというのは、男としてこれ以上ないほど魅力的なものではあったが、ゲームにまで人間関係でぎくしゃくしたくないという思いがあったため、断腸の思いで断った。……今から頼めば揉ませてくれるかな?


 それからローザと別れ、宿に戻るとすぐにログアウトした。今回はいろいろと大変だったが、俺としてもローザと同じで楽しかったのは間違いない。とりあえず、今後の予定としてポイント稼ぎをしながらアップデートが来るのを待つことにしよう。
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