4 / 4
第一章 転生、そして新たな人生の幕開け
4話「五歳になりました」
しおりを挟む唐突だが、あれから五年経った。相も変わらず、俺は人里離れた森の中で生活しているのだが、そんな俺の生活にも多少なりとも変化があった。
まず、俺が二歳の時に妹が生まれた。この五年間両親の夫婦仲は変わっておらず、夜の活動もお盛んなことでその勢いは衰えるどころが、日ごと激しさを増していた。あれだけ頻繁にやっていれば、そりゃ妹の一人もできるだろうと納得してしまうほどだ。だが、さすがに五歳ともなれば両親と寝室を同じくするわけにはいかないため、俺が三歳の誕生日のお祝いとして自分の部屋が欲しいとねだった結果、その要求が認められ今は自分の部屋で就寝している。
この提案に最後まで反対したのが母親であるマリアンナだった。だが、俺のエンジェルスマイル――マリアンナ曰く――で彼女を説き伏せ見事説得に成功した。
「これが、子離れというものなのね……よよよよ」
若干芝居がかった言葉を俺に向かって投げ掛けてきたが、さすがに毎晩毎晩両親のハッスルしている音を子守唄にして寝るのは勘弁してほしい……切実に。
そして、俺が部屋を貰うと同時に妹であるレイチェルが俺と同じ部屋がいいと泣きついてきたのだ。この泣きつくというのは、言葉の通り泣き声を上げることでその意志を伝えてきたといったほうが正しい。
「まったくレイチェルったら、お兄ちゃんと同じ部屋がいいなんて図々しいにもほどがあるわ……やはり、私とウォルトちゃんの前に立ちはだかるのはあなたのようね」
ちなみに、世間一般的に二人目の子供が生まれると先に生まれた子供よりも後に生まれた子供を優先するようになるのが普通だ。うちの両親が非凡なのかそれともこの世界の価値観がそうなのかは現在調査中だが、何故か俺に構う率がかなり高い気がする。
これは母親父親関係なくそうであり、俺の自意識過剰でもなんでもなく妹のレイチェルよりも愛されている。もちろん、妹の世話はちゃんとしているし虐待などの行為などもまったくもって皆無なのだが、俺を構う片手間に妹を育ててますという気がしてならない。
(まあ、家を継ぐのは長男が多いから下の兄弟よりも重要視されてるのかな?)
だがしかし、仮にそうだとするのであれば両親の口から「いつか大きくなって立派な後継ぎになるんだぞ」というようなことを言われるはずなのだが、この五年間そういった言葉は一切なくただただ大事にされているだけなのだ。
まあとにかく、俺がこの世界に転生して五年が経過したわけだが、なんと今日が五歳を迎える誕生日だったりする。前世の年齢と合わせれば四十に近い年齢となってしまうのだが、それを言うと若干ブルーな気持ちになるので現世だけカウントし五歳(笑)ということにしておこう。五歳に見えない五歳児なんて前世でもいたしね……うん。
さらにサプライズとして、どうやら今日はわざわざ俺の誕生日をお祝いするために遠路はるばる王都からお客さんがやってくるとのこと。ちなみに俺が住んでいる場所から王都まで徒歩で数か月掛かる道のりらしい……俺たちってどんだけ秘境に住んでるんだよ。
「ねえ、かあさん。今日来るお客さんって誰?」
「はぅ……ウォ、ウォルトちゃぁああああん!!」
「へぶっ」
誰が来るのかまだ聞いていなかったので母親に問い掛けたところ、なぜか抱きすくめられてしまった。いつも嗅いでいる彼女の甘い匂いと柔らかさに包まれながら、抵抗することなく解放されるのをただただじっと待つ。もう彼女とも五年の付き合いなので事情は大体把握している。おそらく、小首を傾げて問いかける俺の仕草に欲情……もとい、母性を感じてしまい思わず抱きしめてしまったといったところだろう。首元に掛かる彼女の興奮した荒い息に若干身の危険を感じながらも、なんとか無事に解放してもらえたところで俺の疑問に答えてくれた。
「ふふ、今日来るお客さんはねー、なんとあなたのおじい――」
「マリアンナああああああああああ!!」
マリアンナの声を遮るかのように、突如として大地を揺るがすほどの大声が響き渡る。あまりのことに俺が呆然としていると、さも事情を知っているかのように「あら、もう来たのね」と呟くと彼女は家の扉の方へと向かって行った。
彼女の後を付いて行こうとしたその時、俺の服の裾が引っ張られる感覚があった。振り返ってみると、そこには金髪ショートヘアーの女の子が俺の隣に寄り添っていた。
「にー、にーと一緒にあーしもいく」
「そうか、じゃあ一緒に行こうか」
「うんっ」
子供らしい艶のある髪を靡かせながら母親と同じ碧眼の目を細めて顔を綻ばせているのは、我が妹レイチェルだ。あのお盛んな二人の美男美女との間にできた子供だけあって顔立ちは超絶的に整っており、お人形さんと言われればかなりの人が信じてしまうほどに美しい容姿をしている。まさに美少女ならぬ美幼女である。
彼女と手を繋ぎながら母親が出迎えている人物のもとへと歩み寄って行く。家の扉の前にいたのは老齢の男性だった。
「久しぶりだのマリアンナ、会いたかったぞ」
「私も会いたかったわパパ。……はっ、レイチェル! あなたウォルトちゃんと手を繋ぐなんてなんて破廉恥な!! 私と代わりなさい!」
「やー」
俺が妹と手を繋いでいるのを目敏く見つけたマリアンナが、その行為を窘める。別に兄妹同士で手を繋ぐくらいは問題ないと思うが、そのことについて敢えて言及はしない……前に突っ込んで大泣きされたからな。三歳の幼女と大人気なく睨み合っていると、それを見かねた男性がわざとらしく咳ばらいをする。
「ゴホン、娘よ。そろそろ、わしを紹介して欲しいのだがな……」
「ぐぬぬぬぬ……え? あ、ああ、そうだったわ。二人とも、この人はあなたたちのおじいちゃんよ。挨拶しなさい」
マリアンナがそんな風に紹介した人物に視線を向けると、俺は彼に向かって自己紹介を始めた。果たして祖父とは一体どんな人なのだろうか?
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる