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第1章

第31話:気持ちを確かめ合いました

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物凄い勢いで部屋に入って来たのは、グレイ様だ。後ろにはコメットさんはじめ、沢山の騎士団員がいた。そしてそのまま抱きしめられた。こんな風に抱きしめられたのは初めてだ。グレイ様ったら、一体どうしたのかしら?

それでもグレイ様に抱きしめられ、安心している自分もいる。おっと、安心している場合ではないわ。色々と聞きたいことがあるのだ。

「あの、グレイ様、フェアレ様は…」

「そうだ、その件なんだが、本当にすまなかった。あの女は、不法侵入の疑いで先ほど連行した。今取り調べが行われている頃だ。現行犯逮捕だから、まず有罪だろう」

不法侵入の疑い?

「あの…でも、彼女は…」

「あの女は昔から最低な女だったんだ。傲慢で我が儘で。それでも男爵家の一人娘だったこともあり、父親が俺と結婚させようとしていたんだ。そもそも俺は、平民である母親の事をバカにするあの女が、反吐が出るほど嫌いだった。その上スカーレットまで追い出したとなれば、許せる道理がないだろう!」

物凄い勢いで話し出すグレイ様。

「でも、グレイ様は男爵令息なのですよね。やはり貴族なら…」

「俺はもう貴族ではない。15歳で母を連れて家を出た際、男爵家の名も捨て、正真正銘平民になったんだ。そして今の今まで平民として生きて来た。頼まれてももうあんな貴族に何てなるつもりはない!スカーレット、俺の母は平民という事で、あの女を始め、他の妻たちにも散々イジメられてきた。そして夫でもある父親も、俺の母を助けようともしなかった。俺はその姿を見て、母を守るため騎士団に入ったんだ。そして念願だった母と2人暮らしを始めた。でも…18歳の時に、母は病気で亡くなったんだ。それでも、母は幸せそうだった」

お母様は亡くなっていらしたのね…それにしても、男爵でもあるグレイ様のお父様は、グレイ様のお母様がイジメられていても見て見ぬふりをするなんて、酷い男ね。

「貴族はなぜか、多くの妻を持つことが出来るという、この国の制度も俺は気に食わない。妻が1人だけだったら、母は他の妻にイジメられる事もなかったんだ。俺は小さい頃から、結婚するならたった1人の愛する女性とのみしようと心に決めていた。そして俺は見つけたんだ。そのたった1人の女性を」

なぜか跪いたグレイ様。そんなグレイ様を、ただ見つめる。

「スカーレット、俺は君に初めて会った時から、君の笑顔に一目ぼれした。そして、食堂で話をするうちにどんどん好きになっていた。でも、君には当時夫がいた。諦めるしかない、そう思っていた時に、君が俺の元にやって来た。卑怯な言い方だが、あの時チャンスだと思った。そして君と過ごすうちに、増々君への気持ちが大きくなっていた。スカーレットは俺の事を、正義感が強く悪を許さないヒーローの様な存在だと思っているかもしれない。でも実際の俺は、嫉妬深くて小心者で、君に告白一つすることすらままならなかった情けない男だ。それでも君を愛する思いは誰にも負けない。どうか、俺と結婚してくれませんか?」

グレイ様から、渾身のプロポーズ…
ずっとグレイ様は私の事を妹としてしか見ていないと思っていた。でも、実際は…
その事実を知った時、嬉しくて涙が溢れる。

「はい…私も、グレイ様が大好きです。ずっとずっと一緒に居たいです。まだまだ自分に自信が持てなくて弱い私ですが、どうかよろしくお願いします」

本当はもっともっと色々と伝えたい言葉があったはずなのに、いざその場になってみると頭がパニックになり、こんな言葉しか出てこなかった。それでも

「ありがとう、スカーレット」

そう言って嬉しそうに笑ったグレイ様。そして私の腕に青い宝石が付いたブレスレットを付けた。

「スカーレット、悪いがこのブレスレットを、俺に付けてもらえるかな?」

そう言うと、私にブレスレットを手渡した。美しい緑色の宝石が付いたブレスレットだ。これをグレイ様の腕に付ければいいのね。言われた通りに、腕に付ける。


「ありがとう、スカーレット。この国の貴族は、お互いの瞳の色の宝石が付いたブレスレットをはめる習慣があるんだ。“つないだ手がずっと離れない様に”と願いを込めて。俺は貴族が好きではない。でも…どうしてもスカーレットと繋がっていたくて、買ってしまった」

そう言うと恥ずかしそうに笑ったグレイ様。

「初めて聞きましたが、とても素敵ですね。このブレスレット、肌身離さず持っていますね。身に着けているだけで、グレイ様を身近に感じていられるから…」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。スカーレット、ありがとう」

お互いが見つめあい、どちらともなくゆっくり顔が近づいていく。そして、唇が触れるかという瞬間…

「バカ、押すな!今いいところだろう」

「俺だって見たいんだよ!それにしても、下手な恋愛歌劇よりもずっと面白いな」

騎士団員たちの声が…もちろん、唇が重なる事はなく…

「お前たち!いいところで邪魔しやがって!」

怒り狂うグレイ様。すっかり忘れていたが、ここはコメットさんとリンダさんのお家。さらに心配して沢山の騎士団員たちも来てくれていたのだ。私ったら、大勢の前で恥ずかしい…

「お前のせいで、いいところを見られなかったじゃないか」

「お前が押すからだろう」

怒り狂うグレイ様に加え、騎士団員たちの言い合いが始まった。それを止める他の騎士団員たち。なんだかおかしな展開になって来た。

「全く男たちときたら。でもスカーレットさん、よかったわね」

私の肩に手を置き、そう言ってにっこり微笑んだリンダさん。

「それもこれも、リンダさんのお陰よ。本当にありがとう」

「いいえ、私は何もしていないわ。それよりお腹空かない?皆さん、お腹空いていませんか?今日はお2人をお祝して、家でご飯を食べて行ってください」

そう叫んだリンダさん。

「さすがリンダちゃん、よし、早速酒を買いに行こうぜ」

「おい、待て。俺はスカーレットと…」

「団長、これからもずっとスカーレットちゃんと一緒に居られるのですから、今日1日くらい良いではないですか!」

そう言うと、さっさとグレイ様を連れていく騎士団員たち。

「さあ、私たちは料理を作らないとね。コメット、悪いんだけれど、食材を買ってきてくれる?」

「ああ、もちろんだ」

コメットさんと数名の騎士団員たちが買い出しに行ってくれている間に、私とリンダさんは急いで料理を作り、居間へと運ぶ。

結局その日は、夜遅くまで料理やお酒を楽しみ、話に花を咲かせたのであった。
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