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第1章

第32話:私たちのペースで進んでいきます

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グレイ様と気持ちが通じ合った翌日、いつもの様にグレイ様を見送る。

「それじゃあスカーレット、行ってくる」

「気を付けて行ってらっしゃいませ」

いつもと変わらない朝の風景だ。

「スカーレット、あの…騎士団から帰ったら、今後の事を話し合おう。それじゃあ」

そう言うと、速足で家から出て行ったグレイ様。今後の事か。その言葉が、胸にしみわたる。私たちは昨日気持ちが通じ合ったんだ、その事実を実感し、つい頬が緩んでしまった。

私ったら、にやけている場合じゃないわ。すぐに掃除と洗濯を済ませないと。急いで家の事を片付け、食堂に向かう。すると、同僚や先輩たちに囲まれた。

「スカーレット、リンダちゃんから話は聞いたわよ。あなたついに騎士団長様と結ばれたのですってね」

「早い段階から両思いだったのに、中々くっ付かないんだもの。本当に2人とも鈍いんだから嫌になるわ」

「皆、気が付いていたの?」

「当たり前じゃない。そもそも騎士団長様なんて、あなたがアホデビッドと結婚していた時から、熱烈な視線を送っていたのに、全く気が付かないのですもの。あなた以外の全員が気付いていたのにね」

「そうそう、本当にスカーレットは鈍いんだから。でも、おめでとう。よかったわね。今度こそ、幸せになるのよ」

「ありがとう、皆…」

仕事仲間たちからも祝福され、嬉しくてつい頬が緩む。

「それで、いつ結婚式を挙げるの?」

ニコニコしながら、皆が色々と聞いてくる。

「昨日の今日だから、まだ具体的な話は決まっていなくて。今日の夜、今後について色々と話すことになっているの」

「そう、また結婚式の日取りが決まったら教えてね。必ず出席するから」

「私も教えてよ」

「ええ、もちろんよ」

そんな話をしていると、店長がやって来た。

「ほら、あんたたち、もう店を開ける時間だよ。それからスカーレット、話は聞いたよ。おめでとう。騎士団長ならきっと幸せにしてくれるよ。それで、結婚式はいつなんだい?家の店を貸し切りにして、パーティーをしてもいいと思っているんだ。せっかくなら、皆でお祝いしたいじゃないか」

「ありがとうございます、店長。グレイ様に相談してみますね」

「そうしてくれるかい?スカーレットは一度目の結婚の際は、結婚式をしなかっただろう?その事が少し気がかりだったんだ。あなたのウエディングドレス姿を見るのが、今から楽しみだね」

そう言って笑った店長。 こうやってみんなが私とグレイ様を祝福してくれる。それが嬉しくてたまらない。

「さあ、店を開ける準備をするよ」

「「「「は~い」」」」」

いつもの様に店を開ける。すると

「スカーレットちゃん、団長と恋仲になったんだってね。くっそ~、俺狙っていたのに~」

「団長が相手じゃ無理だろう。スカーレットちゃん、おめでとう」

「「「「おめでとう、スカーレットちゃん」」」」

騎士団員皆がお祝いしてくれた。

「なんだなんだ、スカーレットちゃんは騎士団長とくっ付いたのか。あの男、ずっとスカーレットちゃんの事を狙っていたからな。まあ、仕方ないか。おめでとう、スカーレットちゃん」

他のお客様も祝福してくれた。

「皆様、ありがとうございます」

その後も色々な人から、祝福の言葉を貰った。こんなに沢山の人に気にかけてもらえていたことが、嬉しくてたまらない。でもきっとグレイ様の人柄も関係しているのだろうと、私は思っている。

仕事を終え家に帰ると、早速晩御飯の準備開始だ。昨日買ったものは、フェアレ様たちが使ってしまった様なので、また新たに買って来た。

今日はグレイ様の大好物でもある、牛筋煮込みと、魚の餡かけ、海鮮スープだ。魚の餡かけは、リンダさんに教えてもらった。そうだわ、ケーキも焼こう。つい鼻歌を歌ってしまう。ちょうど料理が出来た頃、グレイ様が帰って来た。

ガチャ
「ただいま、スカーレット」

「おかえりなさい、グレイ様」

急いで玄関へと向かうと、そのまま抱きしめられた。急に抱きしめられて、完全にフリーズしてしまう私。

「すまん、つい我慢できなくて。すぐに着替えてくるから、食事にしよう」

そう言って私から離れると、すぐに着替えに行ってしまったグレイ様。私ったら、せっかくグレイ様が抱きしめてくれたのに、固まってしまうなんて…やっぱりああいう時は、手を回して私も抱き着かないダメなのよね。

思い返してみれば、元夫でもあるデビッドとは、手を繋ぐくらいしかしたことがなかった。その為、どう接していいのかわからないのだ。

一旦台所に戻り、料理を盛り付けていく。しばらくすると、グレイ様が戻って来たので食事スタートだ。食後は居間でティータイム。隣にピッタリくっ付いて座るグレイ様。ダメだ、物凄く緊張する。

どうしていいかわからない私に

「スカーレット、もしかして俺は君に無理をさせてしまったのか?昨日皆の前で気持ちを伝えたから、断り切れずにOKを出したのではないかと思って…」

と、心配そうに訪ねてくるグレイ様。これはまずいわ。私がうまくグレイ様からのスキンシップを受け入れられていないから、変な誤解を与えてしまっている。

「違うんです。私は本当にグレイ様の事が大好きなんです。ただ…前の夫とは、手を繋ぐぐらいしかしておりませんでしたので…どうしていいのかわからないのです…」

「手を繋いだぐらいとは本当か?仮にもあの男と結婚していたのだろう?」

「はい。でも、デビッドは私に指一本触れてきませんでした。きっと私に魅力がなかったのでしょう」

私と結婚する前から、美しいキャロリーナさんに夢中だったデビッド。貧相な私には、触れる気にはなれなかったのだろう。

「バカな男だとは思っていたが、こんなにも美しいスカーレットに触れなかっただなんて…あいつは本当に男なのか?まあ、俺としては有難い。スカーレット、正直言うと、俺も女性と付き合うのは初めだ。どう扱っていいのか、よくわからない。だからこそ、俺たちのペースで仲を深めていきたいと思っている」

「私たちのペースで?」

「ああ、そうだ。俺たちのペースでだ。それから結婚式なのだが、きっとスカーレットも理想などがあるだろうから、半年後くらいに挙げようと思っている。それまでは、婚約者として過ごす感じでもいいだろうか?」

「ええ、もちろんです。半年後ですか、今から楽しみですわ」

「ウエディングドレスなど、色々と準備も必要だろう。俺たちのペースで、ゆっくり進めていこう」

「はい、私たちのペースで」

恋愛に関してまだまだひよっこの私たち。だからこそ、これからは私たちのペースで進んでいこうと思う。

ふとグレイ様の手に自分の手を重ねた。大きくて温かくて、触れるだけで落ち着かせてくれるこの手。きっとこれからも、この手を握り続けていくのだろう。

これから始まるグレイとの新しい生活に、胸弾ませるスカーレットであった。


~あとがき~
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これにて第1章は終わりです。
夕方から、第2章をスタートさせます。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
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