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第2章

第3話:残り少ない時間を楽しみます

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グレイ様の異動が決まってから早2ヶ月半が過ぎた。この2ヶ月半の間、時間を見つけてはリンダさんや仕事仲間たちとお買い物に行ったり食事をしたりして、思い出作りもしている。さらにリンダさんから、護身術を始め、色々な稽古も付けてもらい始めた。

“次に行く街は治安が悪いのでしょう?騎士団長の妻になるあなたも命を狙われる事もあるかもしれないわ。いい、夫が安心して働ける様な環境を作るのも妻の勤めなの”

そう言われた。確かにグレイ様が安心して働ける様に、私も強くならないといけないわね。そんな思いから、朝の30分と仕事終わりの1時間という短い時間ではあるが、リンダさんに色々と教えてもらっている。

と言っても、限られた時間での稽古になる為思う様に進まないが、それでもやらないよりはマシだ。そんな思いから、色々と教えてもらっているのだ。

ただ、この事はグレイ様には内緒だ。グレイ様の性格上、私が護身術を習っているなんて聞いたら、きっと反対するだろう。そう思ったのだ。

それにしても何でも身に着けているリンダさんには、本当に尊敬しかない。本人曰く

“コメットに会えない期間は、ひたすら自分磨きをしていたからね”

そう言って笑っていたが、その努力がとにかくすごい。本当にリンダ様様だ!私も負けてられないわ。そう思い、密かにリンダさんに教えてもらったトレーニング法を行っている。さらに最近では、竹刀も振っている。でも竹刀って結構重くて、振るだけでも大変なのよね。それでも自分の身は自分で守らないと、そんな思いで日々頑張っているのだ。

もちろん、トレーニングばかりしている訳ではない。2週間後に迫った結婚式のウエディングドレスやブーケ作りなどにも精を出し、先日無事完成した。ありがたい事に、皆が色々と手伝ってくれたお陰で、自分でもびっくりする程素敵な仕上がりだ。みんな本当に私の為に、色々と動いてくれていて感謝しかない。

そして今日も

「スカーレットちゃん、結婚披露パーティーのメニューなのだけれど、こんな感じでどう?」

式後に行われる予定のパーティーは店長のご厚意で、お店を貸し切りにして行う事になっている。その為料理なども、私の希望を聞いてくれているのだ。

「すごくいいと思いますわ。当日は多くの騎士団員さんたちもいらっしゃるので、とにかく量を多めでお願いします」

「大丈夫だよ、あなたの裁判が終わった後の宴で、嫌と言うほど見せてもらったからね。これでもかと言うくらい、料理は準備するから安心して」

そう言って笑った店長。店長も私たちの為に色々なレシピを考えてくれている様で、本当に有難い。こんなにも優しい人たちに囲まれて結婚式を迎えられるのだから、私は本当に幸せだ。

そして結婚式の翌日、グレイ様の異動の為この街を旅立つことになっている。その為、あまり使わないものから少しずつ箱に詰める作業を行い始めている。と言っても、私自身の荷物はあまり多くないので、そんなに手間はかからない。

ただグレイ様は引越しの準備と合わせ、次の騎士団長への引継ぎの準備などで忙しそうだ。それでも晩御飯の時間にはきちんと家に帰って来てくれているので、特に寂しいと思った事はない。

今も晩御飯前に急いで帰って来てくれたグレイ様と一緒に食事を終え、ティータイムを楽しんでいる。

「スカーレット、もうすぐ結婚式だな。それと同時に、俺たちの引越しも迫っている。それで、明日のスカーレットの休みに合わせて、俺も休みを取った。せっかくだから、2人で街を色々と見て回ろう。この街を出たら、しばらくはここには戻って来られないだろうし。俺も…その…君との思い出をたくさん作りたいんだ」

なぜか真っ赤な顔をしてそう言ったグレイ様。この街で、グレイ様と思い出作りか。

「それは素敵ですわね。でも、グレイ様はお忙しいのでしょう?街に出かける時間はあるのですか?」

「それは大丈夫だ。それじゃあ、明日は2人でゆっくり街を見て回ろう」

グレイ様とこの街で行う最後のデートか。そう言えば最近忙しくて、2人で出かけた事はなかったわね。明日が楽しみだわ。


翌日
早速2人で手を繋いで街に出かける。と言っても、特に予定を立てずに、街をゆっくり見て回る。

「グレイ様、この公園。子供の頃何度か両親が連れてきてくれた公園です。うちの両親はいつも忙しく働いていたのですが、たまにこの公園に連れて来てくれたのですよ。懐かしいわ」

あの当時、忙しい両親はこの近所の公園によく連れてきてくれた。

“こんな場所しか連れて来てあげられなくてごめんね”

と、よく謝っていた両親。でも私は、この公園が大好きだった。だって、お父さんとお母さんと一緒に居られた楽しい時間だったから。

懐かしくて、ついブランコに腰を下ろす。

「ここはスカーレットにとって大切な公園なんだな。そんな場所に、今日俺を連れて来てくれてありがとう」

嬉しそうにそう言ったグレイ様。公園の後は、また街を歩く。市場に向かったり、お店を見て回ったりした。そして日が沈みかかった頃。

「グレイ様、どうしても行きたい場所があるのですが、よろしいですか?」

「どうしても行きたい場所?」

「はい、私の特別な場所です」

グレイ様の手を取り、向かった先は教会の裏口だ。実はこの教会、裏に屋上へと繋がる長い階段があるのだ。本当は入ってはいけないのだけれど、子供の頃よく入って遊んでいた。

今回はきちんと神父様に許可を取り、階段を上がっていく。

「グレイ様、見て下さい。ここから見る夕日が、とても綺麗なのですよ。子供の頃、この夕日が見たくてよくあの階段を黙って上がったものです。この夕日を、どうしてもグレイ様に見せたかったのです」

ちょうど夕日が沈みかかって、物凄く綺麗だった。

「本当に綺麗な夕日だ。この街にこんな綺麗な夕日を見られる場所があったなんて…スカーレット、この場所に連れてきてくれてありがとう」

「私こそ、付いてきてくださりありがとうございます」

どちらともなくお互いの顔が近づき…長い沈黙の後、ゆっくり離れる。
そして美しい夕日を、いつまでも見つめる2人であった。
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