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第10話:ルミタンが可愛すぎる~カルロス視点~

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「あなた、大丈夫?こんなところで横になっていては風邪をひきますわよ」

クリクリした大きな瞳で俺を見つめる女の子。急いで起き上がる。

「ルミナス、団員に気安く話しかけるな。とにかく、すぐに帰るんだ。ほら、母上の元に送ってあげるから」

すかさず女の子の手を握り、そのまま連れて行ってしまった。どうやらドリトルの妹で、ルミナスというらしい。

ルミナスを送って来たドリトルが、再び怖い顔で戻って来たと思ったら

「カルロス、何をサボっているのだ。他の騎士団員たちは既に稽古を始めているぞ。本当にお前は…」

そう言ってため息を付く。なぜかドリトルは俺にだけ特別に厳しく接するんだ。きっとこの男、俺の事が嫌いなんだ。そう思ったら、急に涙が込みあげてきた。

人前で泣くなんて恥ずかしい姿を見せたくない。特にこの男の前では!そう思い、急いで走り出した。

「おい、カルロス。どこに行くつもりだ!」

後ろでドリトルの叫び声が聞こえたが、無視して走り続けた。稽古場の裏まで来ると、その場に座り込み、声を殺して泣いた。悔しくて悲しくて辛くて、もう何もかもが嫌になっていた。

「あなた、大丈夫?」

1人静かに泣いていると、女の子の声が。ゆっくり顔を上げると、ドリトルの妹が心配そうにこちらを見ていた。

「君、まだここにいたのかい?早く帰らないと、お兄さんに叱られるよ」

「あなたこそ、大丈夫?家のお兄様、口うるさいでしょう?私にもとてもうるさいのよ。でもね、お兄様は、自分の好きな人間にしか厳しくしないの。あなた、もしかしてカルロス様?」

「どうして俺の名前を?」

「やっぱりね、いつもお父様とお兄様があなたの事を話しているのよ。カルロス様は、いずれ騎士団長になれるほどの力があるって。だからこそ、お兄様もあなたに厳しくするのよ。それだけ期待しているって事なの。だって、興味のない人間に、お兄様自ら稽古を付けたりしないもの」

「俺に期待している?そんな訳…」

「私は騎士団の事はよくわからないけれど、騎士団員って1ヶ月続けばいい方だとお父様が言っていたわ。あなた、今どれくらい騎士団員をやっているの?」

「もうすぐ1年半…」

「まあ、1年半も続けているのね。それだけ続けられるだけで、十分凄いと私は思うわ。それにあなたの手、豆だらけね。お父様やお兄様と同じ手…私ね、この豆だらけの手、大好きよ。だから、あなたも頑張って」

そう言ってほほ笑んだルミナス。

「そうそう、あなた、お腹空いていない?はい、サンドウィッチ。家の料理長が作ったサンドウィッチはとても美味しいのよ。お父様もお兄様も、このサンドウィッチが大好きなの。これさえ食べれば、たちまち体力が回復するのよ。はい、どうぞ」

ルミナスが笑顔でサンドウィッチを俺に渡してくれた。せっかくなので1口。

「旨い…このサンドウィッチ、とても美味しいよ。ありがとう…ルミナス」

「どういたしまして」

そう言うと、それはそれは可愛らしい笑顔を見せてくれたのだ。その瞬間、一気に鼓動が早くなるのを感じた。なんなんだ、この可愛い生き物は…

「さあ、お腹のいっぱいになったでしょう?そろそろ稽古に戻りましょう。そうだわ、お兄様に怒られない様に、私が話を付けてあげる。さあ、行きましょう」

ルミナスは俺の手を握ると、得意そうに歩き出した。小さくて温かくて、柔らかい手…
それが妙に心地いい。

気が付くとルミナスの手を、ギュッと握っていた。その時だった。

「カルロス、ここにいたのか!探したんだぞ…て、ルミナス。なんでお前がカルロスと一緒にいるんだ」

「どうしてって、そこで会ったからよ」

“見て、お兄様のあの焦った顔。やっぱりあなたの事を、とても大切に思っているのよ”

耳もとでルミナスが呟く。近い…近すぎる…一気に鼓動が早くなるのを感じた。

「おい、ルミナス。カルロスに何を言ったんだ?カルロス、顔が赤いぞ。大丈夫か?」

「お…俺は別に何でもありません。急に稽古を抜け出してすみませんでした」

ドリトルに頭を下げた。

「俺の方こそ、ちょっと厳しくしすぎてごめん…さっき父上に怒られたんだ…厳しくするだけではダメだって」

「お兄様も反省している様だし、どうか許してあげて、カルロス様。私もあなたの事を、応援しているから。いつかきっと、お父様やお兄様を支えて下さる立派な騎士様になってね」

そう言うと、俺の手をギュッと握ってほほ笑んでくれたのだ。俺の事を期待しているという事は、ルミナスも俺の事を…

「おい、ルミナス。余計な事を言うな。カルロス、しっかりしろ。とにかくルミナスはもう帰るんだ。母上も探しているだろうし。本当にお前は、騎士団内を自由に動き回るのだから」

「もう、分かったわよ。それじゃあ、カルロス様、また会いましょうね」

そう言うと手を振って去っていくルミナス。その姿がまた可愛くて、俺は彼女の後ろ姿をただただ見つめ続けたのだった。
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