これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi

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第10話:懐かしい人との再会です

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 その日の夕方、馬車は立派なお屋敷に入って行った。ここは確か、カスタマーディス伯爵領よね。カスタマーディス伯爵家と言えば…

「さあ、着いたわよ。あら、わざわざ待っていてくれているわ。ユーリ、早く降りましょう」

 お母様に促され、馬車を降りた。

「ようこそ、ファルスィン伯爵夫人、ユーリ嬢。お待ちしておりましたよ」

「リリー、久しぶりね。よく来てくれたわ」

「アン、カスタマーディス伯爵、今日はお招きいただきありがとうございます。1日お世話になりますわ。ディアン様も、随分と大きくなられて」

「お久しぶりです。ファルスィン伯爵夫人、ユーリも久しぶり。僕の事、覚えていてくれているかな?」

 銀色の美しい髪に真っ赤な瞳の男性が、話しかけてきたのだ。

「ディアン…あなた、ディアンなの?懐かしいわね、7年ぶりかしら?急に領地に行ってしまうのですもの、とても寂しかったのよ…て、ごめんなさい。懐かしくてつい」

 彼は伯爵令息、ディアン様だ。昔はよく、アレックス様とディアン様と3人で遊んだりしていた。私とディアン様、アレックス様は幼馴染で、共に育った中なのだ。でも、ディアン様は体があまり強くなく、静養のため、8歳の時に領地で暮すことになった。

「ユーリはあの頃から、全く変わっていないね。元気そうでよかった」

「ディアン様も元気そうでよかったですわ。それで体調の方は、どうなのですか?」

「ああ、もうすっかり良くなったよ。近々王都に戻ろうと思っていてね。それにしても、ユーリは随分と令嬢らしくなったのだね。言葉遣いとかも」

「それはそうですわ、私は伯爵令嬢なのですもの。言葉使いはもちろん、マナーもバッチリよ」

 そう言って笑った。まさかこんなところで、ディアン様に会えるだなんて。

「さあ、2人とも中へ。長旅で疲れたでしょう」

 お母様と一緒に、カスタマーディス伯爵家のお屋敷へと入っていく。我が領地の隣に位置するカスタマーディス伯爵領は、自然豊かで素敵な街だ。伯爵家のお屋敷は、丘の上、街が一望できる場所にある。

 それぞれの部屋へと案内してもらった。どうやら私たちは、客間を使わせていただく様だ。さすがに今日は疲れたし、ゆっくりさせてもらおう、そう思っていたのだが…

「ユーリ、ちょっといいかい?」

 やって来たのは、ディアン様だ。

「ええ、構いませんわ。どうされましたか?」

「一緒に来て欲しい場所があるんだよ。行こう」

 私の手を握ると、ディアン様が歩き出した。懐かしいわね、昔はこうやっていつも3人で手を繋いで歩いていたわ。

「ディアンとこんな風に手をつなぐと、あの時の事が蘇って来るわ…」

 あの時の楽しかった日々。私はあの時から、アレックス様が好きだったのだ。て、また呼び捨てにしてしまったわ。

「ごめんなさい、私ったらまたディアン様の事を呼び捨てに…」

「ユーリ、僕は気にしないから、今まで通りディアンと呼んでくれていいよ。そうだね、あの頃はいつもこうやって、ユーリと一緒に手を繋いでいたね。あの頃よりも、随分と手が大きくなってしまったけれど、それでもあの頃と変わらず柔らかくて温かいよ」

 なぜか悲しそうに、ディアン様が呟いたのだ。

「私は伯爵令嬢ですので、殿方を呼び捨てにする訳にはいきませんわ。確かに随分とディアン様の手も、成長しましたね。あの頃は私と同じくらいの大きさだったのに…」

「7年も経てば、成長するよ。それでユーリは、相変わらずアレックスが好きなのかい?」

 アレックス様…

 子供の頃、一度だけアレックス様の事をディアン様に相談したことがあった。その後すぐに、ディアン様は静養のため、領地に向かったのだったわね。

「実はアレックス様には、何度も振られてしまって。さすがにもう、見込みがないから諦める事にしたわ。いつまでも振り向いてもらえない人を思っていても、辛いだけでしょう。それにアレックス様は、他の令嬢と婚約を結ぶそうよ」

「そうだったのだね。ユーリは随分辛い思いをしていたのか。アレックスは見る目がないな。僕だったらユーリを絶対に悲しませたりしないのに…」

「えっ?」

 今なんて言いった?私を悲しませたりしない?

「いや、何でもないよ。ほら、着いたよ。よかった、間に合ったみたいだね」

 いつの間にか、丘の上に来ていた。ディアン様の指さす方を見ると、そこには美しい夕日が。街が真っ赤に染まり、幻想的な風景が広がっていた。

「なんて綺麗なのかしら?街が赤く染まっているわ。こんなに美しい景色を見たのは初めてよ。ありがとう、ディアン…。あっ、ごめんなさい。私ったらまた呼び捨てにしてしまったわ」

 なぜだろう、彼といると、つい昔に戻ってしまうのだ。

「ユーリ、僕の前で無理をしなくてもいいよ。僕は素のユーリの方が好きだよ。昔みたいにディアンと呼んで」

「でも…」

「お願い、ユーリ」

 そんな目で真っすぐ見つめられると、なんだか断りづらい。それに私も、ディアンの方が呼びやすいし…まあいいか。

「分かったわ、それじゃあ、今まで通りディアンと呼ぶわね。ディアン、こんな素敵な景色を見せてくれてありがとう」

 まさか領地に着く前に、こんなにも素敵な景色と、懐かしい幼馴染に会えるだなんて。
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