これ以上私の心をかき乱さないで下さい

第71話：私の決断

「私は、ディアンの温もりが大好きです。ディアンの手に触れるだけで、幸せになれる。ディアンに寄り添って寝ると、安心して寝られる。私にとってディアンは、居なくてはならないかけがえのない人なのです。ディアンが生きて傍にいてくれるだけで、私は幸せになれるのです。だから、どうかこれからも、ディアンの傍にいさせてください」

　すっと立ち上がり、おじ様とおば様に頭を下げた。

「ユーリちゃん、自分が何を言っているか分かっているの？ディアンはいつ目覚めるか分からない、もしかしたら、一生目覚めないかもしれないのよ」

「ええ、分かっています。それでも私には、ディアンが必要なのです。ディアンが生まれ育った、大切なこのカスタマーディス伯爵家も、ディアンが幼少期を過ごした、魅力的なカスタマーディス伯爵領も、私の手で守っていきたいのです。そこで、おじ様にお願いがあります」

　今度はおじ様の方を向いた。

「どうか私に、領地経営のお勉強をさせて下さい。私がディアンに代わり、カスタマーディス伯爵家を引っ張っていきます。お願いです、令嬢の私が何を言っているのか？そう思われるかもしれません。ですが、夫に先立たれた女性が、夫に代わり女主人として、爵位を受け継いでいる人も少なからずこの国にはいらっしゃいます。ですから、私がこの家をひぱって行っても、問題ないと思うのです」

「ユーリ嬢、君は何を言っているのだい？ただでさえ領地経営は大変なんだよ。それに夫人には夫人の仕事がある。その両方を君が担うだなんて…さすがに負担が大きすぎる。ユーリ嬢の気持ちは嬉しいが、ディアンがこんな事になってしまった以上、カスタマーディス伯爵家は、私の代で終わりにしようと思っている。ただ、ディアンが生きていけるだけの金は準備していくつもりだ。だからユーリ嬢は、そんな事を考えなくてもいいのだよ」

「お言葉ですがおじ様、カスタマーディス伯爵領は本当に魅力的な領地です。それはおじ様とディアンが、必死に築き上げてきたからではありませんか？私はカスタマーディス伯爵領が大好きです。どうか私の手で、このカスタマーディス伯爵家を、領地を守らせてください、お願いします」

「カスタマーディス伯爵、私からも頼むよ。実はユーリから１ヶ月ほど前に、この件に関して相談を受けていたのだよ。既にユーリは、領地経営の基礎知識の勉強を始めている。私が言うのも何だが、ユーリは非常に優秀で、どんどん吸収していく。確かにユーリは女だが、はっきり言って兄のオルガノより素質があるくらいだ」

　お父様には、事前にディアンの家を継ぎたい事を話していたのだ。そして１ヶ月前から、密かにお父様から領地経営の勉強を受けていた。

「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか？どこの世界に、自分の娘をわざわざ苦労させる親がいるのだ！確かにユーリ嬢がカスタマーディス伯爵家を継いでくれたら嬉しいが…そんな贅沢な事は望めない」

「相変わらず頭が固いわね。ユーリがやりたいと言って、今勉強を頑張っているのだから、いいじゃないの。アンはどう思う？私の娘じゃあ、役不足だと思う？」

　お母様がおば様に問いかけた。

「役不足だなんて、ユーリちゃんは非常に優秀な子だもの。でも、ユーリちゃんの未来を考えると…」

「ユーリはディアン様と添い遂げたいと言っているのよ。この子は私に似て、非常に頑固者。あなた達が拒み、無理に婚約解消なんてしたら、きっと一生独身を貫くわ。私はユーリの母親だもの、この子の事は手に取る様にわかるの。だからお願い、ユーリの未来を守ると思って、聞き入れてあげてくれないかしら？ユーリ、あなたも覚悟は出来ているのよね」

「ええ、もちろんですわ。ディアンといるためなら、何でもします。私を男だと思って、厳しく指導して頂いて構いません。ですから、どうかお願いします。もちろん、ディアンが次期伯爵と言う事でお願いしますわ」

「ユーリ嬢…君って子は…」

「ユーリちゃん、ディアンの為に、そこまで考えてくれていただなんて。本当にありがとう。あなた！」

「ああ、ここまで言われたら、これ以上私たちに拒むことなど出来ない。ありがとう、ユーリ嬢。ただ、無理はしないでくれ。私が生きている間は、全力でフォローするから」

「私もよ。ユーリちゃん。本当にありがとう。」

　おじ様とおば様が涙を流しながら、頭を下げている。

「それじゃあ、この紙は用無しね」

　そう言って笑顔で婚約破棄届を破り捨てたお母様。お父様も嬉しそうに頷いている。これからもっともっと大変になるだろう。

　でも…

　愛するディアンが生まれ育ったカスタマーディス伯爵家を、そして彼の手で発展させてきた領地を、私の手で守りたい。アレックス様も協力してくれると言っていた。

　きっとお父様やおじ様も、全力でサポートしてくれるだろう。そう、私は１人じゃない。それに私は、いつかディアンが目覚めるのではないか…そう思っている。

　ディアンが目覚めた時、また笑顔で暮らせるように、今できる事をやるまでだ。

　その後５人で話し合いが行われた。その結果、膨大な領地の情報を頭に叩き込まないといけないうえ、貴族学院への通学もある私の負担を考え、カスタマーディス伯爵家でお世話になる事が決まったのだった。