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第2話:どこまで私たちを苦しめるのでしょう

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屋敷に戻ると、お父様とお母様が飛んできた。

「ルージュ、お帰り。それでどうだったのだい?やっぱり殿下とは、婚約を解消する事になったのかい?」

「ええ、さっきサインをして参りましたわ」

「そうか。すまない、私の力不足のせいで。正直ファウスン侯爵令嬢の言い分のみを聞いて、ルージュだけを悪者にする殿下には不信感しかない。ただ、殿下がどうしてもファウスン侯爵令嬢と結婚したい、もし彼女と結婚できないなら、国王にはならないと言い出して…結局陛下も折れる形になってしまったんだよ…ただ、王妃殿下は猛反対していたが…」

「いくら殿下がファウスン侯爵令嬢が好きだからって、殿下の言いなりになるだなんて。さすがに納得できないわ。そんな言い分が通るとなると、今後貴族たちは王族に忠誠を誓えなくなってしまうわ」

「確かにそうだが…他の令嬢にうつつを抜かすような王太子に、ルージュをやりたくはないと思ったのだよ。ルージュには、辛い選択をさせてしまってすまなかった」

お父様が私に頭を下げて来たのだ。

「お父様、どうか頭を上げて下さい。お父様のおっしゃった通り、他の令嬢にうつつを抜かし、自分の意見が通らないなら国王にならないと駄々をこねる様な男、こちらから願い下げですわ。ですので、どうか気にしないで下さい」

クリストファー様は、そんな愚かな事を陛下に訴えていただなんて…いつからこんなどうしようもない男になってしまったのだろう。昔はもっとしっかりしていらしたのに…

「ルージュ、ありがとう。貴族の中にはあることない事噂する人間もいるだろう。しばらくは、屋敷でゆっくり過ごしてくれ」

「ありがとうございます。そうさせていただきますわ」

とにかく今日は疲れた。もう私はクリストファー様の婚約者ではないのだ。王妃教育も受ける必要はない。しばらくはゆっくり過ごそう。

その日から私は、ほとんど屋敷から出ず、ゆっくりと過ごすことにした。ちょうど今は、貴族学院が長期休みで、友人たちもそれぞれ領地に行ったり、婚約者に会いに行ったりしている。話を聞いてもらいたいという気持ちもあるが、友人たちを見たら感情が溢れ出てしまうだろう。

気持ちが少し落ち着いてから、友人達とは話がしたい。ある意味いい時期に婚約を解消出来た。とにかく今は、のんびり過ごそう、そう思っていたのに…


「ヴァレスティナ公爵、夫人、それからルージュ嬢。一緒に来てもらう」

クリストファー様と婚約破棄をしてから3日後、急に騎士たちが押しかけて来たかと思うと、私たちを拘束したのだ。一体何が起こっているの?訳が分からない。

「私たちが一体何をしたというのだ!勝手に人の家に押し入って来て、こんな事をしてよいと思っているのか?」

お父様も叫んでいる。

「今しがた、ヴァレスティナ公爵令息のグレイソン殿を、王太子殿下の婚約者でもあるヴィクトリア嬢を誘拐しようとした罪で逮捕された。王太子殿下の婚約者を危険に晒したのだ。家族でもあるお前たちにも逮捕状が出ている。とにかく一緒に来てもらおう」

「グレイソンが?一体どういうことだ。どうしてグレイソンがそんな事を?」

グレイソン…

彼は5年前、10歳の時に我が家に養子に来たのだ。元々お父様の親友の子供だったらしいが、親友夫妻が亡くなり、親戚の家で暮していたそうだが、冷遇を受けていた為、気の毒に思ったお父様が引き取ったのだが。

私と同い年だが、誕生日の関係で私の義兄として迎えられたグレイソン。正直いつも俯いていて、何を考えているか分からない人だった。グレイソンもヴァイオレット様と親しくなっていたことは知っていたけれど、まさかこんな事件を起こすだなんて…

私たちは鎖で繋がれ、乱暴に馬車に乗せられた。そして別々に冷たい地下牢に入れられたのだ。

薄暗く気味が悪い地下牢。どうして私が、こんな目に合わないといけないのだろう。一気に涙が溢れ出る。そもそもグレイソンは、何を考えていたのだろう。どうしてそんな愚かな事をしたのだろう。私達家族に迷惑がかかるとか、考えなかったのかしら?

あの男のせいで、私たちは…

言いようのない怒りがこみあげてくる。

それと同時に、これから私たちはどうなるのだろうという、絶望が襲った。どれくらい地下牢で過ごしただろう。

その時だった。

「やあ、ルージュ」

私の元にやって来たのは、クリストファー様だ。ゆっくりと彼を見上げる。

「随分と絶望的な顔をしているね。君たちの処罰が決まったから、知らせに来たよ。僕の可愛いヴァイオレットを誘拐しようとしたにっくきグレイソンは、公開処刑に処されることが決まったよ。そしてその家族でもある君たちは、国外追放になった。ルージュ、君がヴァイオレットを虐めさえしなければ、もしかしたら国外追放は免れたかもしれないのにね。まあ、これからは辛い日々が待っているだろうが、せいぜい自分の行いを後悔しながら生きていく事だね」

そう言うと、クリストファー様がニコリとほほ笑んだのだ。その微笑が、悪魔にしか見えない。

「そうですか、承知いたしました。でも、私は何も悪い事はしておりません。クリストファー殿下、神様はきっとあなた様の行いを見ております。どうかあなた様も、後悔しない日々をお過ごしください」

そう伝えると、ニヤリと笑ってやった。これが私に出来る、最後の強がりだ。

「何なんだよ、恐ろしい女だな。何が神様は見ているだ!僕は何も悪い事はしていないし、間違った事はしていないよ。強がりを言っていられるのも、今のうちだからな」

そう叫ぶと、さっさと地下牢から去っていった。本当に、どうしてあんな男を私は愛してしまったのだろう…
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