5 / 73
第5話:まだぎこちないけれど
しおりを挟む
「シャレル、起きて。シャレル」
「う~ん」
ここは…
瞼を上げると、ダーウィン様の紫色の瞳と目が合った。ダーウィン様の瞳の色、綺麗ね。いままでこんな風に目が合う事なんて、ほとんどなかったもの。
「シャレル、嬉しそうな顔をしてどうしたのだい?」
「こんな風に、ダーウィン様と瞳を見つめ合って話が出来たことが嬉しくて…それに私の名前も呼んでくれたでしょう」
ささやかな事だが、なんだかそれが嬉しいのだ。
「シャレル、君って子は…僕は本当にダメな人間だね。こんな当たり前の事すら、してこなかったのだから…」
「ダーウィン様はダメな人間ではありませんわ。それよりも、馬車が停まっている様ですが…」
窓の外を見ると、小さな灯りが見える。ここは一体どこかしら?
「さすがにずっと馬を走らせている訳にはいかないからね。一目の付きにくい小さな宿だけれど、今日はここに泊まろうと思って。シャレルも疲れているだろうし」
「宿に泊まれるのですか?それは嬉しいですわ。1週間、ずっと馬車の中で寝泊まりするものだと思っておりましたので」
まさかお宿に泊まれるだなんて。嬉しくてそのまま馬車から降りようとしたのだが…
「待って、シャレル、その姿では目立つから、さっきのワンピースに着替えられるかい?僕は外に出ているから。すまない、メイドがいなくて。もし着替えられない様なら、宿の女将に頼んでくるよ」
「お気遣いありがとうございます。私は父の教育方針の一環で、何度か平民の暮らしを体験しておりましたので、着替えは1人でも出来ますわ。すぐに着替えますから、少々お待ちください」
「それなら良かった。公爵は本当に素晴らしい方だったのだね。そんな方を、無実の罪で殺すだなんて…本当にジョーンはどうかしているよ。て、何も出来かなった僕が言えた事ではないが。それじゃあ外で待っているから、着替えたら出てきてくれるかい?」
「承知いたしましたわ」
ダーウィン様が外に出ていくのを見送ると、早速着替えを済ませた。あら?このドレス、どうやって脱ぐのかしら?平民の生活の時は、ドレスなんて着なかったから、脱ぎ方が分からない。
こうなったら、破れてもいいから、適当に脱ごう。どうせもう、ドレスなんて着る事はないのだから。そう思い、無理やりドレスを脱ぎ捨て、ワンピースに着替えた。
このワンピース、本当に可愛いわ。それにサイズもぴったりだ。
「お待たせいたしました。可愛いワンピースですね。とても気に入りましたわ」
外で待っていてくれていたダーウィン様に、改めてお礼を言った。
「気に入ってくれて、よかった。その…本当にそのワンピース、よく似合っているよ。それじゃあ、行こうか」
なぜか頬を赤らめ、そのままクルリと反対方向を向いたダーウィン様。そんな彼の手を、そっと握った。
「君は一体何を考えているのだい?僕の手を握るだなんて…」
「あら、私たちは婚約者同士なのですから、手くらい握ってもよろしいでしょう?それにこれから、ずっと2人で暮らすのですから。それとも、私に手を握られるのは、嫌ですか?」
「い…嫌な訳がないよ。ただ、その…いいや、何でもないよ。それじゃあ、行こうか」
耳まで真っ赤なダーウィン様、きっと照れているのだろう。いつも俯いて何を考えているか分からなかった人だったけれど、こんな一面もあるのね。それにダーウィン様の手、大きくて温かい。まるでお父様の手みたい。
そのままダーウィン様に連れられ、小さな部屋へとやって来た。お部屋には小さなベッドと机、イスが並んでいる。どうやら今日は、ここに泊まる様だ。
「この部屋は君が使ってくれ。それじゃあ、僕はこれで」
そう言うと、ダーウィン様が部屋から出て行こうとしている。
「お待ちください、ダーウィン様はどこにいかれるのですか?他のお部屋に泊まるのですか?」
「いや…部屋は1つしかとれなかったのだよ、僕は馬車の中で寝るから、君はゆっくり休んでくれ」
「馬車で眠るですって?そんな事はいけませんわ。確かにあまり広くない部屋ですが、2人で使いましょう。ベッドも2人で寝られますわ」
「君は何を言っているのだい?僕たちは確かに婚約していたが、結婚前の男女が同じ部屋で寝るだなんて…」
「あら、もう私は貴族ではありませんわ。それに、これから私たちはずっと一緒なのです。別に今日、一緒の部屋に泊まっても問題ありませんわ。誰も私たちを戒める者はおりませんし。それでもどうしてもダーウィン様が私と同じお部屋が嫌だとおっしゃるのなら、私が馬車で寝ますわ」
「シャレルが馬車にだって?それは絶対ダメだ」
「それなら、2人でこのお部屋を使いましょう。正直今、1人になるのが怖いのです。1人になった瞬間、またあの薄暗い地下牢に戻されそうで…」
「分かったよ。それじゃあ、僕はこのイスで…」
「よかったですわ。それでは私は、湯あみをして参りますね。ダーウィン様、どうかお部屋にいて下さい」
そう念押しをして、急いで湯あみを済ませた。久しぶりの湯あみ、メイドたちが洗ってくれる様には上手に洗えなかったが、それでもさっぱりした。
その後ダーウィン様も湯あみを済ませ、部屋に戻ってきた。
「う~ん」
ここは…
瞼を上げると、ダーウィン様の紫色の瞳と目が合った。ダーウィン様の瞳の色、綺麗ね。いままでこんな風に目が合う事なんて、ほとんどなかったもの。
「シャレル、嬉しそうな顔をしてどうしたのだい?」
「こんな風に、ダーウィン様と瞳を見つめ合って話が出来たことが嬉しくて…それに私の名前も呼んでくれたでしょう」
ささやかな事だが、なんだかそれが嬉しいのだ。
「シャレル、君って子は…僕は本当にダメな人間だね。こんな当たり前の事すら、してこなかったのだから…」
「ダーウィン様はダメな人間ではありませんわ。それよりも、馬車が停まっている様ですが…」
窓の外を見ると、小さな灯りが見える。ここは一体どこかしら?
「さすがにずっと馬を走らせている訳にはいかないからね。一目の付きにくい小さな宿だけれど、今日はここに泊まろうと思って。シャレルも疲れているだろうし」
「宿に泊まれるのですか?それは嬉しいですわ。1週間、ずっと馬車の中で寝泊まりするものだと思っておりましたので」
まさかお宿に泊まれるだなんて。嬉しくてそのまま馬車から降りようとしたのだが…
「待って、シャレル、その姿では目立つから、さっきのワンピースに着替えられるかい?僕は外に出ているから。すまない、メイドがいなくて。もし着替えられない様なら、宿の女将に頼んでくるよ」
「お気遣いありがとうございます。私は父の教育方針の一環で、何度か平民の暮らしを体験しておりましたので、着替えは1人でも出来ますわ。すぐに着替えますから、少々お待ちください」
「それなら良かった。公爵は本当に素晴らしい方だったのだね。そんな方を、無実の罪で殺すだなんて…本当にジョーンはどうかしているよ。て、何も出来かなった僕が言えた事ではないが。それじゃあ外で待っているから、着替えたら出てきてくれるかい?」
「承知いたしましたわ」
ダーウィン様が外に出ていくのを見送ると、早速着替えを済ませた。あら?このドレス、どうやって脱ぐのかしら?平民の生活の時は、ドレスなんて着なかったから、脱ぎ方が分からない。
こうなったら、破れてもいいから、適当に脱ごう。どうせもう、ドレスなんて着る事はないのだから。そう思い、無理やりドレスを脱ぎ捨て、ワンピースに着替えた。
このワンピース、本当に可愛いわ。それにサイズもぴったりだ。
「お待たせいたしました。可愛いワンピースですね。とても気に入りましたわ」
外で待っていてくれていたダーウィン様に、改めてお礼を言った。
「気に入ってくれて、よかった。その…本当にそのワンピース、よく似合っているよ。それじゃあ、行こうか」
なぜか頬を赤らめ、そのままクルリと反対方向を向いたダーウィン様。そんな彼の手を、そっと握った。
「君は一体何を考えているのだい?僕の手を握るだなんて…」
「あら、私たちは婚約者同士なのですから、手くらい握ってもよろしいでしょう?それにこれから、ずっと2人で暮らすのですから。それとも、私に手を握られるのは、嫌ですか?」
「い…嫌な訳がないよ。ただ、その…いいや、何でもないよ。それじゃあ、行こうか」
耳まで真っ赤なダーウィン様、きっと照れているのだろう。いつも俯いて何を考えているか分からなかった人だったけれど、こんな一面もあるのね。それにダーウィン様の手、大きくて温かい。まるでお父様の手みたい。
そのままダーウィン様に連れられ、小さな部屋へとやって来た。お部屋には小さなベッドと机、イスが並んでいる。どうやら今日は、ここに泊まる様だ。
「この部屋は君が使ってくれ。それじゃあ、僕はこれで」
そう言うと、ダーウィン様が部屋から出て行こうとしている。
「お待ちください、ダーウィン様はどこにいかれるのですか?他のお部屋に泊まるのですか?」
「いや…部屋は1つしかとれなかったのだよ、僕は馬車の中で寝るから、君はゆっくり休んでくれ」
「馬車で眠るですって?そんな事はいけませんわ。確かにあまり広くない部屋ですが、2人で使いましょう。ベッドも2人で寝られますわ」
「君は何を言っているのだい?僕たちは確かに婚約していたが、結婚前の男女が同じ部屋で寝るだなんて…」
「あら、もう私は貴族ではありませんわ。それに、これから私たちはずっと一緒なのです。別に今日、一緒の部屋に泊まっても問題ありませんわ。誰も私たちを戒める者はおりませんし。それでもどうしてもダーウィン様が私と同じお部屋が嫌だとおっしゃるのなら、私が馬車で寝ますわ」
「シャレルが馬車にだって?それは絶対ダメだ」
「それなら、2人でこのお部屋を使いましょう。正直今、1人になるのが怖いのです。1人になった瞬間、またあの薄暗い地下牢に戻されそうで…」
「分かったよ。それじゃあ、僕はこのイスで…」
「よかったですわ。それでは私は、湯あみをして参りますね。ダーウィン様、どうかお部屋にいて下さい」
そう念押しをして、急いで湯あみを済ませた。久しぶりの湯あみ、メイドたちが洗ってくれる様には上手に洗えなかったが、それでもさっぱりした。
その後ダーウィン様も湯あみを済ませ、部屋に戻ってきた。
124
あなたにおすすめの小説
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる