12 / 73
第12話:出たわね
しおりを挟む
「ダーウィン様、あちらにテラスがありますわ。あそこで一緒にお茶をしましょう」
少し進んだところに、お茶が出来るテラスがある。あそこは1度目の生で、私が好んで使っていた場所だ。
「あの…僕は…」
困惑しているダーウィン様を席に着かせ、使用人にお茶とお菓子を準備してもらう。
「あれ?兄上とシャレル嬢じゃないかい?」
やって来たのは、第二王子だ。この男のせいで、私たちは!こみ上げる怒りを必死に抑え、笑顔を作る。
「あなた様は、第二王子殿下の、ジョーン殿下ですね。お初にお目にかかります。シャレル・ガスディアノと申します。どうぞお見知りおきを」
本当なら追い払いたいところだが、これでも私は公爵令嬢だ。令嬢らしく、この男に挨拶をする。
「ああ、知っているよ。さっきの会議に、僕も出ていたからね。シャレル嬢は、8歳とは思えない程堂々としていて、とても素敵だったよ。あまりの美しさに、見とれてしまうくらいに」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。これからはダーウィン様を支えられる様に、もっと精進して参りますわ」
私はダーウィン様以外興味がないのよ。だから、さっさとどっかに行って頂戴。そんな思いで、彼に伝えた。
「兄上の為に精進か…ねえ、シャレル嬢、僕も一緒にお茶をしてもいいかな?君は僕の義姉上になる人だろう。僕も君と仲良くなりたいのだよ」
そんなの、嫌に決まっている。
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。シャレル、今日はありがとう」
ん?ちょっと待って、どうしてこの状況で、私から離れようとしているの?て、そうか、この人、私が世間から見ても聡明と言われているこの男の事が好きだと思っていたのだったわ。だから気を使っているのね。
本当にこの人は…
「お待ちください、ダーウィン様。どうして私の婚約者でもあるあなた様が、私の傍を離れようとされているのですか?ジョーン殿下、申し訳ございません。私は今、ダーウィン様との仲を深めたいのです。ですから、今日のところはご勘弁を」
あなたに私たちの時間を、邪魔されてたまるか。
「シャレル嬢は、律儀なのだね。第二王子でもある僕にはっきりものを言うその強さ…気に入ったよ。シャレル嬢、今度僕ともゆっくり話をしてね。それじゃあ、僕はこれで」
笑顔で去っていくジョーン殿下。誰があなたとゆっくり話なんてするものかしら?とはいえ、1度目の生の時、ジョーン殿下の誘いを断り切れずに、何度かお茶をしたことがあった。
あれもいけなかったのよね。次回からは、気を付けないと。
「ダーウィン様、邪魔者もいなくなりましたし、ゆっくりお茶を楽しみましょう」
「邪魔者?」
しまった、つい本音が。
「いえ、何でもありませんわ。それにしても、このバラ園。素敵ですね。私、バラが大好きですの」
「シャレルは、バラが好きなのかい?」
「はい、亡くなった母もバラが好きだった様で、公爵家には、母の為に作られたバラ園があるのです。とても綺麗なのですよ」
私を生んですぐに亡くなったお母様。肖像画でしか見た事がないが、私に良く似た女性だった。
「シャレルにとって、バラは母上と君を繋ぐ、大切なお花なのだね…」
ポツリとダーウィン様が呟いたのだ。
「はい、バラは私と母を繋ぐ、大切なお花です。バラ園を見ていると、なんだか母と繋がっているみたいで、心が温かくなりますわ。少し冷えて参りましたね。そろそろ王宮に戻りましょう」
「そうだね、気が付かなくてすまない。そろそろ王宮に戻ろう」
相変わらず私の前を歩いていくダーウィン様。今日は少しだけお話しが出来た。いつか私の隣を歩いてくれる日が来るといいな。そんな思いで、彼の背中を見つめた。
「シャレル嬢、今日はありがとう。どうかダーウィンの事を、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、ありがとうございました。それでは、失礼いたします」
陛下とダーウィン様に見送られ、お父様と一緒に馬車に乗り込んだ。相変わらずダーウィン様は俯いているが、そんな姿もまた愛おしい。
「シャレル、今日は色々とお疲れ様。君のお陰で、話しが早くまとまったよ。それにしても、シャレルがあそこまでしっかりしていただなんて、驚きだな。凛とした姿、亡くなった君の母親にそっくりだった。君の母親も、いつも堂々としていて、凛々しい女性だったんだよ」
「そうだったのですね。お母様に少しでも近づける様に、そして公爵令嬢としての誇りを忘れず、これからもっと精進して参りますわ」
今度こそ、お父様もダーウィン様も失わない。絶対に。
それにしても、ジョーン殿下、相変わらずだったわ。今日の出来事で分かった、あの男は、既に私に興味を持ち始めている。きっとこれからも、私に絡んでくるだろう。そして…
1度目の生の恐ろしい記憶が、脳裏によみがえる。絶対にあんな未来にはさせない。二度とあんな悲しい思いはしたくない。その為にも、私は…
少し進んだところに、お茶が出来るテラスがある。あそこは1度目の生で、私が好んで使っていた場所だ。
「あの…僕は…」
困惑しているダーウィン様を席に着かせ、使用人にお茶とお菓子を準備してもらう。
「あれ?兄上とシャレル嬢じゃないかい?」
やって来たのは、第二王子だ。この男のせいで、私たちは!こみ上げる怒りを必死に抑え、笑顔を作る。
「あなた様は、第二王子殿下の、ジョーン殿下ですね。お初にお目にかかります。シャレル・ガスディアノと申します。どうぞお見知りおきを」
本当なら追い払いたいところだが、これでも私は公爵令嬢だ。令嬢らしく、この男に挨拶をする。
「ああ、知っているよ。さっきの会議に、僕も出ていたからね。シャレル嬢は、8歳とは思えない程堂々としていて、とても素敵だったよ。あまりの美しさに、見とれてしまうくらいに」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。これからはダーウィン様を支えられる様に、もっと精進して参りますわ」
私はダーウィン様以外興味がないのよ。だから、さっさとどっかに行って頂戴。そんな思いで、彼に伝えた。
「兄上の為に精進か…ねえ、シャレル嬢、僕も一緒にお茶をしてもいいかな?君は僕の義姉上になる人だろう。僕も君と仲良くなりたいのだよ」
そんなの、嫌に決まっている。
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。シャレル、今日はありがとう」
ん?ちょっと待って、どうしてこの状況で、私から離れようとしているの?て、そうか、この人、私が世間から見ても聡明と言われているこの男の事が好きだと思っていたのだったわ。だから気を使っているのね。
本当にこの人は…
「お待ちください、ダーウィン様。どうして私の婚約者でもあるあなた様が、私の傍を離れようとされているのですか?ジョーン殿下、申し訳ございません。私は今、ダーウィン様との仲を深めたいのです。ですから、今日のところはご勘弁を」
あなたに私たちの時間を、邪魔されてたまるか。
「シャレル嬢は、律儀なのだね。第二王子でもある僕にはっきりものを言うその強さ…気に入ったよ。シャレル嬢、今度僕ともゆっくり話をしてね。それじゃあ、僕はこれで」
笑顔で去っていくジョーン殿下。誰があなたとゆっくり話なんてするものかしら?とはいえ、1度目の生の時、ジョーン殿下の誘いを断り切れずに、何度かお茶をしたことがあった。
あれもいけなかったのよね。次回からは、気を付けないと。
「ダーウィン様、邪魔者もいなくなりましたし、ゆっくりお茶を楽しみましょう」
「邪魔者?」
しまった、つい本音が。
「いえ、何でもありませんわ。それにしても、このバラ園。素敵ですね。私、バラが大好きですの」
「シャレルは、バラが好きなのかい?」
「はい、亡くなった母もバラが好きだった様で、公爵家には、母の為に作られたバラ園があるのです。とても綺麗なのですよ」
私を生んですぐに亡くなったお母様。肖像画でしか見た事がないが、私に良く似た女性だった。
「シャレルにとって、バラは母上と君を繋ぐ、大切なお花なのだね…」
ポツリとダーウィン様が呟いたのだ。
「はい、バラは私と母を繋ぐ、大切なお花です。バラ園を見ていると、なんだか母と繋がっているみたいで、心が温かくなりますわ。少し冷えて参りましたね。そろそろ王宮に戻りましょう」
「そうだね、気が付かなくてすまない。そろそろ王宮に戻ろう」
相変わらず私の前を歩いていくダーウィン様。今日は少しだけお話しが出来た。いつか私の隣を歩いてくれる日が来るといいな。そんな思いで、彼の背中を見つめた。
「シャレル嬢、今日はありがとう。どうかダーウィンの事を、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、ありがとうございました。それでは、失礼いたします」
陛下とダーウィン様に見送られ、お父様と一緒に馬車に乗り込んだ。相変わらずダーウィン様は俯いているが、そんな姿もまた愛おしい。
「シャレル、今日は色々とお疲れ様。君のお陰で、話しが早くまとまったよ。それにしても、シャレルがあそこまでしっかりしていただなんて、驚きだな。凛とした姿、亡くなった君の母親にそっくりだった。君の母親も、いつも堂々としていて、凛々しい女性だったんだよ」
「そうだったのですね。お母様に少しでも近づける様に、そして公爵令嬢としての誇りを忘れず、これからもっと精進して参りますわ」
今度こそ、お父様もダーウィン様も失わない。絶対に。
それにしても、ジョーン殿下、相変わらずだったわ。今日の出来事で分かった、あの男は、既に私に興味を持ち始めている。きっとこれからも、私に絡んでくるだろう。そして…
1度目の生の恐ろしい記憶が、脳裏によみがえる。絶対にあんな未来にはさせない。二度とあんな悲しい思いはしたくない。その為にも、私は…
121
あなたにおすすめの小説
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる