次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

第39話：そんな事は言っていられなくなりました

「シャレル、お待たせ。１人で部屋に閉じ込めてごめんね。寂しかっただろう。さあ、晩御飯にしよう」

　私の元にやって来たのは、ダーウィン様だ。いつも通り優しい笑みを浮かべている。そんなダーウィン様に向かって、プイってあちらの方向を向いた。

「シャレル、怒っているのかい？怒っている君も可愛いね。ごめんね、寂しい思いをさせて。ディンの件も、僕を心配してくれているのだよね。でも、ディンは君が思っている様な人ではないよ。さあ、こっちにおいで」

　ギュッと私を抱きしめてくれるダーウィン様。

「ダーウィン様、ごめんなさい。ちょっと嫉妬してしまった様ですわ…今までは、私がダーウィン様の一番だったのに、今はディン様がダーウィン様の一番になってしまわれた様で…」

　私は寂しかったのだ。

「シャレルがディンに焼きもちをかい？それは嬉しいな。僕は昔も今も、君が一番大切だ。君を守るためなら、どんな事でもするよ。ディンはあくまでもビジネスパートナーで、それ以上でもそれ以下でもないよ」

「本当ですか？最近ずっと、ディン様と一緒にいらっしゃるから…」

「ディンはああ見えて、愛妻家なんだよ。もうすぐ子供も生まれるし。愛する奥さんと生まれてくる子供の為に、安定した国を作りたいらしい。だから僕に協力的なんだよ。少なくとも、僕の為に動いてくれている訳ではない」

「ディン様の奥様が、懐妊したというお話がありましたね。何度かお話をさせていただいたことがございますが、穏やかでお優しそうな方でしたわ。ディン様は愛妻家なのですね。なんだか意外ですわ」

「僕も意外だったよ。さあ、ディンの話はこれくらいでいいだろう？シャレル、寂しい思いをさせてしまってごめんね。極力君の傍にいる様にするから。そうだ、シャレルのお願いを1つ聞くよ。何がいいかい？」

「それは本当ですか。それでは今日、私が眠るまで傍にいて下さい」

「そんな事でいいのかい？それなら、お安い御用だ。さあ、食事にしよう。使用人の話では、お昼もあまり食べなかったのだろう？君はただでさえ細いのだから、いっぱい食べないとね」

「はい、ダーウィン様が傍にいて下さるのでしたら、沢山食べますわ」

　２人で食事をしようとした時だった。

「失礼いたします。殿下…」

　何やらダーウィン様付きの執事が、ダーウィン様に何かを伝えている。一体どうしたのかしら？

「シャレル、すまない。ちょっと急用が出来てしまったんだ。僕は今すぐ出かけないといけなくなってしまった。ただ、君を１人で帰すのは不安だから、今日は君の父上と一緒に帰ってくれ」

「父と帰るのはいいのですが、一体何が起こったのですか？」

「ディンが馬車で帰る途中、事故に遭ったらしい。とにかく僕は、ディンの様子を見に行くよ。だから今日は、公爵と一緒に帰ってくれるかい？」

「ディン様が！それでディン様の様子は？」

「怪我の状況はまだ分からない。僕は一度様子を見てくるよ。シャレル、どうか気を付けて帰るのだよ」

「私の事は気にしないで下さい。ダーウィン様、早く行って差し上げて下さい。もしかしたら、事件性も十分考えられますから…いいえ、何でもありませんわ」

「ありがとう、シャレル。それじゃあ、シャレルの事は頼んだよ」

　足早に去っていくダーウィン様。このタイミングでディン様が事故に巻き込まれるだなんて…これは罠？それとも…

　いずれにせよ、ただの事故ではないだろう。犯人は第二王子？でも、第二王子がディン様を傷つける理由はない…事もないか。ディン様は非常に優秀で、１度目の生の時、ジョーン殿下の右腕だった人。

　ジョーン殿下が彼を評価しているとしたら、ライバルでもあるダーウィン様側に付いた事を快く思っていないかもしれない。それで彼を消そうとした？

　それとも、婚約者のマリア様？ディン様は私のバラ園を荒らしたマリア様の悪事を暴露した人物だ。そのせいで、王妃様はかなりご立腹で、婚約の解消の話まで出ている。マリア様がディン様を逆恨みしたと考えても不思議ではない。

　いずれにしろ、何かが動き出している事は間違いないだろう。

「シャレル、待たせたな。まさかディン殿が事故に巻き込まれるだなんて。とにかく、私たちも屋敷に戻ろう」

「お父様、ディン様は大丈夫なのでしょうか？」

「きっと大丈夫だ。雨も酷くなって来たし、早く帰ろう」

　お父様に促され、門までやって来た。昼間とは打って変わって、激しい雷雨だ。まるで今の私たちの状況を表している様だ。

「酷い雨だな。急いで帰ろう」

　お父様と一緒に馬車に乗り込んだ。そしてゆっくりと走り出す。

「こんな日に君を送れないだなんて、きっとダーウィン殿下は嘆かれている事だろう」

「お父様、何をおっしゃっているのですか？今はそれどころではないでしょう。それにしても、すごい雨ですね。まるでバケツをひっくり返したような雨ですわ」

「そうだね、私たちも事故でも起こしたら大変だ。気を付けて帰ろう」

　確かに見通しも悪いし、事故でも起こしたら大変だ。ちなみにダーウィン様が送り迎えが出来ないときは、必ずお父様と一緒なのだ。どうやらダーウィン様は、絶対に私を１人にしたくないらしい。

　いつの間にあんなに過保護になったのかしら？本当にダーウィン様は。