次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi

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第51話:束の間の平和な時間

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「シャレル、また僕に黙って中庭に来ていたのだね。勝手に部屋から出てはいけないと、いつも言っているだろう?」

「勝手にではありませんわ。ちゃんと護衛たちに“お部屋から出ますね”と伝えてあります。それに、私に見張りを付けているのですから、私の行動など把握していらっしゃるのでしょう?だから今だって、すぐに飛んでいらしたくせに」

「それは君が勝手にどこかに飛んで行ってしまうからだろう?」

「殿下、シャレル嬢にジッとしていろと言う方が無理ですよ。彼女は非常に活発な女性なのですから」

「ディンまで、シャレルの味方をして。とにかく、一度部屋に戻るよ」

 私の手を引き、歩き出したダーウィン様。後ろでは少し呆れ気味のディン様の姿が。

 私たちが襲われ、マリア様達が断罪されてから、1年半が過ぎた。この1年半、特に動きのないジョーン殿下。正直最初はものすごく警戒していたが、あまりにもジョーン殿下が動かなさすぎて、なんだか拍子抜けをくらっているところだ。

 ただ、あの男の事だ。きっと今は、準備をしているところだろう。私は今16歳、無実の罪で断罪されたときと、同じ年齢なのだ。

 とはいえ、1度目の生の時とは、全く違ってきている。もちろん私が動いたせいで変わった点もあるが、ジョーン殿下自身も変わってしまった。

 1度目の生の時も私に執着する姿を見せていたが、今回の生は、あの時以上に私に執着をしている。どうしてそこまで私に執着しているのかはわからない。

 ただ、あの男は着実に私を手に入れるために動いているはずだ。

 それでも彼はもう18歳。王妃様を始め、ダーウィン様もジョーン殿下の新たな婚約者を探していると聞く。

 あの後どうなったのかしら?


「ダーウィン様、ジョーン殿下の婚約話は、どうなったのですか?」

「その件なのだが、未だにジョーンがマリア嬢の事を引きずっていてね。彼女を救えなかった僕は、一生喪に服したいと言っていて。まだ黒い服を着ているよ。もしかしたら、生涯独身を貫くつもりかもしれないね」

「そうですか…」

 あの男が、マリア様の事を引きずっているとはとても思えない。彼らを利用しただけなのだから…

 マリア様、結局何一つ反論せずに、命を落としたのね。あんな男を愛したばかりに…今はまだ、マリア様のお墓には行けてない。でも、全てが終わったら、いつかマリア様のお墓に手を合わせたい。

「シャレル、そんな顔をしなくても大丈夫だよ。ジョーンは王族だ。このまま天涯孤独という訳にはいかない。母上も再びディーラス王国によさそうな貴族がいないか、探しているし」

「そうなのですか?」

「ああ、僕が母上に提案したのだよ。この国にいたら、どうしてもマリア嬢の事を思い出してしまうだろう?だから、心機一転、他国で生活したらどうかと。やっぱりジョーンには、彼を支えてくれる女性が必要だと僕は思うんだよ」

「それではやはり、ジョーン殿下はディーラス王国に?」

「そうだね、本人はまた抵抗するだろうから、秘密裏に進めているよ。母上はジョーンを騙す様で辛いと言っているが、“今は辛くても必ず感謝される日が来るから”と、母上を説得したんだ」


「ダーウィン様は、弟思いなのですね」

 心お優しいダーウィン様、ジョーン殿下の事は苦手意識が強いだろうが、それでも彼の幸せを願い動いているのだ。あの男が、どれほど冷酷で酷い男とも知らずに…

「僕はシャレルが思っている様な男ではないよ。もし本当の僕の姿を知ったら、君は僕から離れて行ってしまうかもしれないね」

「私がダーウィン様から離れるですって。そんな事は絶対にありませんわ。私はあなた様を、誰よりも愛しております。あなた様の為なら、鬼でも悪魔にでもなれますわ。だから、どうかそんな事を言わないで下さい」

「その割には、僕から離れようとしたことがあったね」

 どうやら1年半前の事を、未だに根に持っている様だ。あれは確かに私が悪かったが…

「あの時は、本当に申し訳ございませんでした。もう二度と言いませんので」

 どうかもう、許して欲しい。

「ごめんね、僕、こう見えて根に持つタイプだから」

 ニヤリと笑ったダーウィン様。

「それは本当に申し訳ございませんでした。それでしたら、お詫びに私がお茶を入れて差し上げますわ。父が他国で購入したお茶をお持ちいたしましたの。ぜひダーウィン様に飲んで欲しくて。せっかくなので、ディン様も一緒にどうですか?」

 後ろで私たちを見守っていたディン様に声をかけた。

「せっかくなので、頂きますよ」

「ディン、そこは遠慮するべきではないのかい?最近忙しくて、中々シャレルとの時間を取れなかったのだから」

「何をおっしゃっているのですか?時間を見つけては、シャレル嬢の元に通っていらしたでしょう。それでは、早速頂きましょう」

 にっこり笑って席に着いたディン様。最初は嫌味で嫌な奴だと思ったが、今は何だかんだ言って、私の味方をしてくれている。ディン様の奥様や息子のダルク様とも、仲良しだ。

 こんな風に穏やかな時間が流れていることが、幸せでたまらない。このままずっと、この平和な時間が流れてくれたらいいのに…

 ついそんな事を考えてしまったのだった。
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