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第56話:僕に一体何が出来るのだろう~ダーウィン視点~
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「ディン、早く手を打たないと、シャレルの心が壊れてしまう。きっとジョーンの異常な行動が、シャレルの1度目の生の時のトラウマを強く引き起こさせている様なんだ」
どうやらシャレルは、前世の記憶が残っている様なのだ。いいや、正式には、1度目の生の時の記憶と言った方がいいだろう。
その事がわかったのが、僕に黙ってマリア嬢の元に向かった時。その時僕は、シャレルがマリア嬢の元に向かう事を予測し、あえて騎士団長に2人きりで話せるようにしてもらう様に頼んだのだ。
もちろん、2人の会話を聞くために。
そこで話された内容は、衝撃的なものだった。マリア嬢がジョーンを守るために、黙秘を貫いた事。そしてそれを見抜いていたシャレル。
その上、自分も昔ジョーンに嵌められたと言ったのだ。一体どういう意味だ?全く理解できなかった。
でも、シャレルの最後の言葉で、全ての疑問が一気に解消したのだ。
“マリア様、もしもあなた様にも2度目の人生が与えられたら、その時はどうか道を間違えないで下さいね”
2度目の人生?まるで自分は2度目の人生を生きているかのような口ぶり。
そうか、そう言う事か。シャレルは2度目の人生を生きていたのだ。かつて見たあの悪夢は、1度目の生の時の風景。医者が言っていた、過去のトラウマとは、1度目の生の時に受けた心の傷だったのだ。
その事が分かった時、僕は胸が潰れそうになった。悪夢の内容とマリア嬢との会話から推測するに、シャレルは無実の罪を着せられた。そして何らかの理由で、僕と一緒に逃げているところを、ジョーンに見つかってしまった。
シャレルはどうやら、ジョーンに愛人契約を持ちかけられていたが、それを拒否していた。そして最後は、僕の命を助けるために愛人契約を受け入れようとしたが、ジョーンは彼女との約束を破り、僕は殺された。
その事に絶望したシャレルは、自らの命を…
この事実に気が付いた時、僕は涙が止まらなかった。だからシャレルは、最初からジョーンを嫌っていたのだ。だからどんな状況でも、ジョーンを警戒していた。あの男の恐ろしさを、誰よりも知っていたから。
だからこそ今回の生では、ジョーンと何とか戦おうとしていた。でも、彼女は公爵令嬢だ。いくら1度目の記憶があるからと言って、出来る事は限られている。
スパイを雇う事すら、容易な事ではない。それでもシャレルなりに、出来る事を必死にやって来たのだろう。
そんなシャレルが、僕に一緒に逃げようと言ったのだ。きっともうどうにもならないと、理解したのだろう。彼女は誰よりも公爵令嬢としての誇りを持っている子だ。たとえ自分の命と引き換えにしても、プライドを捨てない女性だ。
そんな彼女が、全てを捨てて逃げたいと言ったのだ。そんな事を言わせてしまった事が、不甲斐なくて仕方がない。
「ディン、僕はどうしたらいいのだろう。ジョーンの動きが全く分からない。大切な女性1人守る事が出来ない僕は、やはり愚か者だ…」
「殿下、しっかりしてください。確かに相手の情報は手に入って来ず、焦る気持ちもわかります。シャレル嬢の事を考えると、胸が張り裂けそうになるのもわかります。もし私が、あなた様と同じ状況なら、いっその事ジョーン殿下を亡き者になんて事も考えてしまうくらいです。ですが、きっと何か手があるはずです。そうで無ければ、2度目の生を生きているシャレル嬢が報われません。神様が何の意味もなく、シャレル嬢に2度目の生をお与えになったとは、考えられませんから」
「ディン…そうだね、僕が弱気になってはダメだね。…でも、僕は一体どうしたらいいのだろう」
シャレルを守りたいのに、守る方法すらわからない。その不甲斐なさが、僕から自信を奪う。
「殿下、シャレル嬢はマーラル王国に本当に逃げようとしているのですよね。それなら、いっその事逃げてしまわれたらいかがですか?その方が、すっきりするのでは?」
「ディン、君は何を言っているのだい?そんな事をしたら、国中が大騒ぎになるよ。それに、逃げたって解決する訳がない。君だって、僕をすぐに連れ戻そうとするだろう?」
「ええ、そうします。ですが、どうしていいのか分からないのですよね。それならもう、逃げるしかありません。殿下、よく考えてみてください。あなた様の行動も、シャレル嬢の行動も筒抜けです。あなた達が逃げると知ったら、きっとあの人は…」
ニヤリと笑ったディン。
「だが、またシャレルに危害が及ぶかもしれない」
「何もしなくても、危害が及びます。とにかく、シャレル様もダーウィン殿下も、追い詰められている。そう分かれば、向こうも動いてくるでしょう。どんな手を使ってくるかはわからなくても、いつ動いてくるか時期だけでもわかった方が、こちらも対策が取れるはずです。ここは掛けに出ましょう」
真っすぐ僕を見つめるディン。確かにこのまま何もしない訳にはいかない。
「わかったよ、ディン。やれるだけの事をやってみよう」
※次回、シャレル視点に戻ります。
よろしくお願いします。
どうやらシャレルは、前世の記憶が残っている様なのだ。いいや、正式には、1度目の生の時の記憶と言った方がいいだろう。
その事がわかったのが、僕に黙ってマリア嬢の元に向かった時。その時僕は、シャレルがマリア嬢の元に向かう事を予測し、あえて騎士団長に2人きりで話せるようにしてもらう様に頼んだのだ。
もちろん、2人の会話を聞くために。
そこで話された内容は、衝撃的なものだった。マリア嬢がジョーンを守るために、黙秘を貫いた事。そしてそれを見抜いていたシャレル。
その上、自分も昔ジョーンに嵌められたと言ったのだ。一体どういう意味だ?全く理解できなかった。
でも、シャレルの最後の言葉で、全ての疑問が一気に解消したのだ。
“マリア様、もしもあなた様にも2度目の人生が与えられたら、その時はどうか道を間違えないで下さいね”
2度目の人生?まるで自分は2度目の人生を生きているかのような口ぶり。
そうか、そう言う事か。シャレルは2度目の人生を生きていたのだ。かつて見たあの悪夢は、1度目の生の時の風景。医者が言っていた、過去のトラウマとは、1度目の生の時に受けた心の傷だったのだ。
その事が分かった時、僕は胸が潰れそうになった。悪夢の内容とマリア嬢との会話から推測するに、シャレルは無実の罪を着せられた。そして何らかの理由で、僕と一緒に逃げているところを、ジョーンに見つかってしまった。
シャレルはどうやら、ジョーンに愛人契約を持ちかけられていたが、それを拒否していた。そして最後は、僕の命を助けるために愛人契約を受け入れようとしたが、ジョーンは彼女との約束を破り、僕は殺された。
その事に絶望したシャレルは、自らの命を…
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だからこそ今回の生では、ジョーンと何とか戦おうとしていた。でも、彼女は公爵令嬢だ。いくら1度目の記憶があるからと言って、出来る事は限られている。
スパイを雇う事すら、容易な事ではない。それでもシャレルなりに、出来る事を必死にやって来たのだろう。
そんなシャレルが、僕に一緒に逃げようと言ったのだ。きっともうどうにもならないと、理解したのだろう。彼女は誰よりも公爵令嬢としての誇りを持っている子だ。たとえ自分の命と引き換えにしても、プライドを捨てない女性だ。
そんな彼女が、全てを捨てて逃げたいと言ったのだ。そんな事を言わせてしまった事が、不甲斐なくて仕方がない。
「ディン、僕はどうしたらいいのだろう。ジョーンの動きが全く分からない。大切な女性1人守る事が出来ない僕は、やはり愚か者だ…」
「殿下、しっかりしてください。確かに相手の情報は手に入って来ず、焦る気持ちもわかります。シャレル嬢の事を考えると、胸が張り裂けそうになるのもわかります。もし私が、あなた様と同じ状況なら、いっその事ジョーン殿下を亡き者になんて事も考えてしまうくらいです。ですが、きっと何か手があるはずです。そうで無ければ、2度目の生を生きているシャレル嬢が報われません。神様が何の意味もなく、シャレル嬢に2度目の生をお与えになったとは、考えられませんから」
「ディン…そうだね、僕が弱気になってはダメだね。…でも、僕は一体どうしたらいいのだろう」
シャレルを守りたいのに、守る方法すらわからない。その不甲斐なさが、僕から自信を奪う。
「殿下、シャレル嬢はマーラル王国に本当に逃げようとしているのですよね。それなら、いっその事逃げてしまわれたらいかがですか?その方が、すっきりするのでは?」
「ディン、君は何を言っているのだい?そんな事をしたら、国中が大騒ぎになるよ。それに、逃げたって解決する訳がない。君だって、僕をすぐに連れ戻そうとするだろう?」
「ええ、そうします。ですが、どうしていいのか分からないのですよね。それならもう、逃げるしかありません。殿下、よく考えてみてください。あなた様の行動も、シャレル嬢の行動も筒抜けです。あなた達が逃げると知ったら、きっとあの人は…」
ニヤリと笑ったディン。
「だが、またシャレルに危害が及ぶかもしれない」
「何もしなくても、危害が及びます。とにかく、シャレル様もダーウィン殿下も、追い詰められている。そう分かれば、向こうも動いてくるでしょう。どんな手を使ってくるかはわからなくても、いつ動いてくるか時期だけでもわかった方が、こちらも対策が取れるはずです。ここは掛けに出ましょう」
真っすぐ僕を見つめるディン。確かにこのまま何もしない訳にはいかない。
「わかったよ、ディン。やれるだけの事をやってみよう」
※次回、シャレル視点に戻ります。
よろしくお願いします。
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