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第61話:ディーラス王国に行きます
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ダーウィン様毒殺未遂事件が起こってから、早3ヶ月。あの後、ジョーン殿下の裁判が行われた。残念ながら、お父様とディン様との事件の関連性は認められなかったものの、ダーウィン様毒殺未遂については、しっかり裁かれる事になった。
本来なら王太子でもあるダーウィン様を殺害しようとした事で、極刑が妥当だ。貴族の中からも、そう言った声が聞こえていた。
ただ、王妃様が命だけは助けてやって欲しいと泣いて訴えたのと、被害者でもあるダーウィンの恩情もあり、彼はこの国最西端にある塔に幽閉される事になった。厳重な管理の元、死ぬまでその塔から出る事が出来ない。
まだ18歳のジョーン殿下にとっては、ある意味生き地獄かもしれない。
こうして私たちの戦いは、幕を下ろした。とはいえ、私の心はなぜか晴れない。あの後も、定期的に1度目の生の時の夢を見るのだ。どうしてまだ、あの夢を見るのかしら?もしかして、まだ戦いは終わっていないの?
確かにあの男はまだ、生きている。でも、王都から遠く離れた場所にいるのだ。万が一脱獄したとしても、王都まで来るのに、馬車で1週間はかかるのだ。王都に着く前に、きっと捕まるだろう。
それに王都に来られたとしても、きっと王宮や公爵家までは、たどり着けないはず。頭では分かっているのだ。分かってはいるのだが、心がざわつく。
「シャレル、シャレル…シャレル、大丈夫かい?シャレル」
「ダーウィン様、申し訳ございません。少し考え事をしておりまして…」
「最近ぼっとしている事も多いね。昨日の貴族令嬢たちとのお茶会も、元気がなかったと令嬢たちが心配していた様だよ。それにまだ、悪夢にもうなされている様だね」
「ダーウィン様、それは…」
「シャレル、正直に話して欲しい。君はまだ、ジョーンに怯えているのかい?」
真っすぐ私を見つめるダーウィン様。
「…はい、なぜかずっと胸騒ぎがするのです。ジョーン殿下はもう、遠く離れた場所にいらっしゃるのに。どう考えても、王都には来られない位置にいる。分かってはいるのですが、心がざわつくのです」
「こんな事なら、いくら兄弟だからって、情けをかけるべきではなかった…僕はそういうところが甘いのだな…」
「ダーウィン様、何か言いましたか?」
「いいや、何でもないよ。ジョーンは今、何重にも重なった扉の奥に、閉じ込められているから大丈夫だ。騎士たちもかなり厳重に守っているし、それに何よりも、居場所が特定できる機器も付けられている。万が一あの塔から出られたとしても、すぐに見つかるよ」
「そうですよね、私ったら、何を怯えているのかしら?」
そうよ、いくらあの男が優秀だからって、あの塔からは出られない。お父様もそう言っていたわ。それなのに私ったら…
「ねえ、シャレル、少し気分転換をしてみないかい?伯母上が、君に会いたがっていてね。君さえよければ、ディーラス王国に行ってみないかい?本当はマーラル王国に連れて行ってあげたかったのだけれど、マーラル王国は、ジョーンが幽閉されている塔の近くだろう?さすがに今は、行くべきではないと思ったのだよ」
マーラル王国は、ジョーン殿下が幽閉されている塔の近く?そういえばそうだったわ。確か1度目の生の時、ジョーン殿下に殺される少し前に、立派な塔を見た。
あの時ダーウィン様が教えてくれたのだ。
“あの塔は、悪い事をした王族が幽閉される場所だよ”って。“もしかしたら、僕も入るのかな?”なんて言っていたっけ。そのすぐ近くの宿に泊まろうとしたところ、私たちは襲われたのだ。
まさかあの場所に、幽閉されているだなんて…
「シャレル、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですわ。ディーラス王国ですか。行ってみたいですわ、きっと素敵なところなのでしょう。飛行船で向かうのですか?それとも、馬車?」
「飛行船で向かうよ。今の君には、移動時間も負担になりそうだからね。飛行船を飛ばせば、3時間程度で着くから。母上も一緒に来るらしいよ。久しぶりに里帰りをしたい様だ。実は母上が今回の件を、提案してくれてね。ジョーンのせいで、シャレルには随分気苦労させてしまったと、気にしているのだよ。もちろん、嫌なら母上は置いて行くよ」
「嫌だなんて、そんな事はありませんわ。王妃様には、本当によくして頂いておりますので。ただ、なんだか申し訳なくて…私がいなければ、ジョーン殿下はあんな事を起こさなかったかもしれないのです」
「それは違うよ。シャレルがいなかったら、僕と母上は未だにすれ違っていただろうし。何よりも僕はずっと孤独な世界を生きていたはずだ。母上はシャレルに、とても感謝しているのだよ。もちろん、僕もね」
「ダーウィン様…ありがとうございます。それでディーラス王国にはいつ向かわれるのですか?」
「そうだね、既に王太子の仕事は片づけてあるから、すぐにでも行けるのだけれど。それでも相手国との兼ね合いもあるから、多分来週には行けると思うよ」
「来週ですか?それは楽しみですわ」
私の為に、皆が色々と動いて下さっている。王妃様は大切な息子が犯罪者になってしまって、辛くてたまらないだろうに…それなのに私の事を気にかけて下さっている。
私も、いつまでも怯えていても仕方がない。前を向かないと!
本来なら王太子でもあるダーウィン様を殺害しようとした事で、極刑が妥当だ。貴族の中からも、そう言った声が聞こえていた。
ただ、王妃様が命だけは助けてやって欲しいと泣いて訴えたのと、被害者でもあるダーウィンの恩情もあり、彼はこの国最西端にある塔に幽閉される事になった。厳重な管理の元、死ぬまでその塔から出る事が出来ない。
まだ18歳のジョーン殿下にとっては、ある意味生き地獄かもしれない。
こうして私たちの戦いは、幕を下ろした。とはいえ、私の心はなぜか晴れない。あの後も、定期的に1度目の生の時の夢を見るのだ。どうしてまだ、あの夢を見るのかしら?もしかして、まだ戦いは終わっていないの?
確かにあの男はまだ、生きている。でも、王都から遠く離れた場所にいるのだ。万が一脱獄したとしても、王都まで来るのに、馬車で1週間はかかるのだ。王都に着く前に、きっと捕まるだろう。
それに王都に来られたとしても、きっと王宮や公爵家までは、たどり着けないはず。頭では分かっているのだ。分かってはいるのだが、心がざわつく。
「シャレル、シャレル…シャレル、大丈夫かい?シャレル」
「ダーウィン様、申し訳ございません。少し考え事をしておりまして…」
「最近ぼっとしている事も多いね。昨日の貴族令嬢たちとのお茶会も、元気がなかったと令嬢たちが心配していた様だよ。それにまだ、悪夢にもうなされている様だね」
「ダーウィン様、それは…」
「シャレル、正直に話して欲しい。君はまだ、ジョーンに怯えているのかい?」
真っすぐ私を見つめるダーウィン様。
「…はい、なぜかずっと胸騒ぎがするのです。ジョーン殿下はもう、遠く離れた場所にいらっしゃるのに。どう考えても、王都には来られない位置にいる。分かってはいるのですが、心がざわつくのです」
「こんな事なら、いくら兄弟だからって、情けをかけるべきではなかった…僕はそういうところが甘いのだな…」
「ダーウィン様、何か言いましたか?」
「いいや、何でもないよ。ジョーンは今、何重にも重なった扉の奥に、閉じ込められているから大丈夫だ。騎士たちもかなり厳重に守っているし、それに何よりも、居場所が特定できる機器も付けられている。万が一あの塔から出られたとしても、すぐに見つかるよ」
「そうですよね、私ったら、何を怯えているのかしら?」
そうよ、いくらあの男が優秀だからって、あの塔からは出られない。お父様もそう言っていたわ。それなのに私ったら…
「ねえ、シャレル、少し気分転換をしてみないかい?伯母上が、君に会いたがっていてね。君さえよければ、ディーラス王国に行ってみないかい?本当はマーラル王国に連れて行ってあげたかったのだけれど、マーラル王国は、ジョーンが幽閉されている塔の近くだろう?さすがに今は、行くべきではないと思ったのだよ」
マーラル王国は、ジョーン殿下が幽閉されている塔の近く?そういえばそうだったわ。確か1度目の生の時、ジョーン殿下に殺される少し前に、立派な塔を見た。
あの時ダーウィン様が教えてくれたのだ。
“あの塔は、悪い事をした王族が幽閉される場所だよ”って。“もしかしたら、僕も入るのかな?”なんて言っていたっけ。そのすぐ近くの宿に泊まろうとしたところ、私たちは襲われたのだ。
まさかあの場所に、幽閉されているだなんて…
「シャレル、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですわ。ディーラス王国ですか。行ってみたいですわ、きっと素敵なところなのでしょう。飛行船で向かうのですか?それとも、馬車?」
「飛行船で向かうよ。今の君には、移動時間も負担になりそうだからね。飛行船を飛ばせば、3時間程度で着くから。母上も一緒に来るらしいよ。久しぶりに里帰りをしたい様だ。実は母上が今回の件を、提案してくれてね。ジョーンのせいで、シャレルには随分気苦労させてしまったと、気にしているのだよ。もちろん、嫌なら母上は置いて行くよ」
「嫌だなんて、そんな事はありませんわ。王妃様には、本当によくして頂いておりますので。ただ、なんだか申し訳なくて…私がいなければ、ジョーン殿下はあんな事を起こさなかったかもしれないのです」
「それは違うよ。シャレルがいなかったら、僕と母上は未だにすれ違っていただろうし。何よりも僕はずっと孤独な世界を生きていたはずだ。母上はシャレルに、とても感謝しているのだよ。もちろん、僕もね」
「ダーウィン様…ありがとうございます。それでディーラス王国にはいつ向かわれるのですか?」
「そうだね、既に王太子の仕事は片づけてあるから、すぐにでも行けるのだけれど。それでも相手国との兼ね合いもあるから、多分来週には行けると思うよ」
「来週ですか?それは楽しみですわ」
私の為に、皆が色々と動いて下さっている。王妃様は大切な息子が犯罪者になってしまって、辛くてたまらないだろうに…それなのに私の事を気にかけて下さっている。
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