次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi

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第66話:どうしてあなたがここに?

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 あり得ない声が、後ろから聞こえたのだ。私の聞き間違い?いいえ、はっきりと聞こえたわ。

 恐怖から一気に強張る体を必死に動かし、ゆっくりと後ろを向いた。

「どうしてジョーン殿下がここに?これは幻なの?」

 やはりその声の主は、ジョーン殿下だったのだ。黒いマントをまとい、真っすぐこちらを見つめている。

 よく見ると、護衛やメイドたちが倒れている。どうやら皆、気絶させられている様だ。

「幻でも何でもないよ。君に会いたくて、ディーラス王国までやって来たんだ…会いたかったよ、シャレル」

 こちらにゆっくりとやって来るジョーン殿下。

「それ以上近づかないで下さい。ジョーン殿下、あなたは我が国の西にある塔に、幽閉されていたはずですよね?どうしてあなたが、ここにいらっしゃるのですか?今頃あなたがいなくなったと、大騒ぎになっているのではありませんか?すぐにお戻りください」

 背筋をピンと伸ばし、ジョーン殿下に向かって叫んだ。ジョーン殿下を見ると、震えが止まらなくなる。でも、いつまでも彼に怯えていてはいけない。私は公爵令嬢なのだ。いつも凛としていたい。

 そんな思いで、平静を装う。

「相変わらず君は、凛としているね。以前僕の部屋を見た時の怯えた顔もとても可愛かったけれど、やっぱり僕は、凛とした姿が一番素敵だよ。シャレル、やっと準備が整ったんだ。僕と一緒に、マーラル王国に行こう」

「何をおっしゃっていらっしゃるのですか?あなたは我が国では、犯罪者なのですよ。それなのに…それにマーラル王国に向かうとは、一体どういう意味ですか?」

「シャレルはずっと、マーラル王国に行きたかったのだろう?だから、亡命先はマーラル王国にしようと思ってね。確かにあそこなら、多国籍の人が住んでいるから、僕たちが紛れ込んでも、問題なさそうだし。それとも、ディーラス王国で暮すかい?君、随分とディーラス王国が気に入っていた様だし」

 ニヤリと笑い、こちらに少しずつ近づいてくるジョーン殿下。

「それ以上近づかないで下さい。私はあなたと共に、他国で暮らすつもりはありませんわ。それよりも、どうやってこの国にいらしたのですか?塔には護衛たちが周りを囲う様に、あなたを見張っているはずです。窓すらない部屋から出る事も許されないあなたが、どうやって逃げだしたのですか?」

 あの塔は、入口と出口が一か所しかないうえ、罪を犯した王族が閉じ込められている部屋は、窓もなく入口には頑丈な鍵が取り付けられているらしい。その上、入口の外には護衛が待機しているうえ、万が一塔から出られたとしても、当の周りを囲む様に護衛たちがいると聞いた。

 居場所を特定できる機械も付けられていたはずだ。

 一度入れられたら、死ぬまで決して出られない塔として、代々王族たちから恐れられていると、ダーウィン様が言っていたのだ。

「そんなに僕がどうやって出たのか気になるのかい?それじゃあ、教えてあげるよ。堂々と扉から出てきたのだよ。そして馬車に乗り込み、10日間かけて、ディーラス王国にやって来た」

「そんな事は出来ないはずですわ。入口には、見張りがいるはずです。それにあなたが万が一脱獄したら、すぐに王都にも連絡が行くはずです。10日かけてディーラス王国にやって来たのでしたら、今頃大騒ぎになっているはずですわ。ダーウィン様や王妃様の耳にも入っているはずです。でも、その様な話は来ておりません!」

 本当にジョーン殿下が脱獄したのなら、それこそ大騒ぎだ。ダーウィン様も王妃様も、ディーラス王国にいる場合ではない。すぐに帰国しているはずなのだ。

 特にダーウィン様に至っては、私を絶対に1人にさせないはず。それなのに、ダーウィン様は今日も、普通に出かけられた。

「だからね、僕は脱獄なんてしていないよ。皆に見送られて、普通に塔から出て来たんだ。塔にいる人間は、皆僕の味方なのだよ。だから誰も、僕が塔から出た事を知らせるような事はしない。王都にいる奴らは、ずっと僕は塔にいると思い込んでいるのだよ。居場所を特定する機械も、塔に置いて来たしね。本当に、おめでたい奴らだよね」

 そう言うと、ジョーン殿下は声を上げて笑ったのだ。

 この人は、何を言っているの?塔にいる人間が、皆ジョーン殿下の味方ですって?そんな事は、あり得ないわ。確か護衛に当たっている人間は、騎士団員のはずよ。

「あり得ないと言った顔をしているね。例えば、誰かが僕の味方をしてくれていたとしたら、簡単に塔から出られると思わないかい?騎士団員の中に、味方をしてくれている人間が手配してくれた者を忍ばせておけば、僕があの塔から抜け出すのなんて、簡単な事だ」

 この人は何を言っているの?まだジョーン殿下に協力する人物がいるの?一体誰が?

「ジョーン殿下は、まだ王太子になる事を諦めていらっしゃらなかったのですか?まだあなたを次期国王にしたがっている方が、いらっしゃるという事ですよね?」

 一体誰なの?我が国には、既にほとんどの貴族が、ダーウィン様についているはず。そもそも、今のジョーン殿下が国王になれる確率なんて、ほぼゼロに近い。そんなリスクを冒してまで、ジョーン殿下に味方する人物なんて、我が国にいるのかしら?

「僕は王太子になんて興味がないよ。そんな事、もうどうでもいい。僕はただ、君が欲しいだけだ。君さえいれば、何もいらない。だからこそ今日、君を攫いに来たんだ。もう二度と、母国には帰らないつもりでね…」

 ニヤリと笑い、こちらにやって来るジョーン殿下。

「それでしたら、誰があなたの味方をしているとおっしゃるのですか?あなたが次期王に興味がなく、自国に戻らないつもりなら、何の為に危険を冒してまで、あなたの味方を?」

 あり得ないわ。通常貴族とは、相手に必ず見返りを求めるものだ。ジョーン殿下が王太子に興味もなく、二度と国に戻らない覚悟を決めているのなら、彼に手を貸すメリットが全くない。それなのに、協力者がいるですって?

「かなり混乱している様だね。僕の協力者はね、君もよく知る人物だよ。ほら、君が付けているそのネックレスを贈ってくれた人物」

 このネックレスを贈ってくれた人物ですって。

 まさか…
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