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私に馬乗りになった男が低い声で言う。
「諦めろ」
と。
男に言われなくても、もうとっくに諦めていたが、強い力で腕を掴まれてその痛みに顔を歪めた。
男の、海の底のような青緑色の瞳が揺れて長い睫毛がふる、と震えたように見えたのは気のせいか。
引き締まった長身に金の髪。
全てのパーツが寸分の狂いもなく配置された、まるで芸術品のような美しい男。
仰向けの私に股がり腕を掴んでいるこの美しい男は、”この世界” でも ”また娼婦となった私” の、初めての客だ。
「目を閉じていろ。直ぐに終わる」
男の固い声。
けれど私は目を閉じない。
私を組み敷く、酷く美しい男を、ただ、見ていた。
✳✳✳✳✳✳
───普通に生きてみたかった。
毎日沢山の男の相手をして金を稼いだ。
稼いだ金は、ある日突然蒸発した両親が残した多額の借金返済のために即座に消えていく。
21歳で風俗嬢となってから、ただひたすらに金を返すこと十数年。
先日、ようやく完済した。
やっと終わった。
長かった。
けれど喜びも達成感も、何もない。
ボロボロにやつれ、痩せ細った年増の女だけが残った。
ただただ空しい。
古い四畳半の木造アパートで一人、タバコを吸う。
白い煙はベタベタの茶色いヤニとなり、私の肺にこびりつく。
短くなったタバコを灰皿に押し潰した。
汚れた体と心。
自分がこんな女になるなんて、思ってもみなかった。
当たり前に生きていけると、疑いもなく信じていたあの頃。
学校に通い、友達とはしゃいで、勉強をして。
ただ、楽しかったあの頃。
何も知らなかったあの頃。
幸せだった昔を想い、ヤニで黄色くなった天井を見上げたその瞬間。
ぐっっ‥‥う!!
心臓を鷲づかみにされたような強い胸の痛みに襲われて息が止まった。
──私、死ぬ、の?
そうか、死ぬのか。
ああ、もういいや。
でも、どうせ死ぬなら何も知らずに綺麗だったあの頃に死にたかった。
ねえ、神さま。
もしもやり直せるなら、次は綺麗に生きたいです。
贅沢は言いません。
普通に、平凡に。
綺麗な体で普通に生きてみたい。
薄れゆく意識の中で神に願った。
──しかし、それは私には過ぎた願いだったらしい。
気が付くと知らない世界に体一つで投げ出され、人買いに攫われ、娼館に売り飛ばされていた。
何故か言葉を理解できたことで、自分の身に起こっている状況を把握できた事は幸か不幸か。
ああ。
私はまた、体を売って生るのか。
結局逃げられない、幸せにはなれない運命なのだろう。
「諦めろ」
と。
男に言われなくても、もうとっくに諦めていたが、強い力で腕を掴まれてその痛みに顔を歪めた。
男の、海の底のような青緑色の瞳が揺れて長い睫毛がふる、と震えたように見えたのは気のせいか。
引き締まった長身に金の髪。
全てのパーツが寸分の狂いもなく配置された、まるで芸術品のような美しい男。
仰向けの私に股がり腕を掴んでいるこの美しい男は、”この世界” でも ”また娼婦となった私” の、初めての客だ。
「目を閉じていろ。直ぐに終わる」
男の固い声。
けれど私は目を閉じない。
私を組み敷く、酷く美しい男を、ただ、見ていた。
✳✳✳✳✳✳
───普通に生きてみたかった。
毎日沢山の男の相手をして金を稼いだ。
稼いだ金は、ある日突然蒸発した両親が残した多額の借金返済のために即座に消えていく。
21歳で風俗嬢となってから、ただひたすらに金を返すこと十数年。
先日、ようやく完済した。
やっと終わった。
長かった。
けれど喜びも達成感も、何もない。
ボロボロにやつれ、痩せ細った年増の女だけが残った。
ただただ空しい。
古い四畳半の木造アパートで一人、タバコを吸う。
白い煙はベタベタの茶色いヤニとなり、私の肺にこびりつく。
短くなったタバコを灰皿に押し潰した。
汚れた体と心。
自分がこんな女になるなんて、思ってもみなかった。
当たり前に生きていけると、疑いもなく信じていたあの頃。
学校に通い、友達とはしゃいで、勉強をして。
ただ、楽しかったあの頃。
何も知らなかったあの頃。
幸せだった昔を想い、ヤニで黄色くなった天井を見上げたその瞬間。
ぐっっ‥‥う!!
心臓を鷲づかみにされたような強い胸の痛みに襲われて息が止まった。
──私、死ぬ、の?
そうか、死ぬのか。
ああ、もういいや。
でも、どうせ死ぬなら何も知らずに綺麗だったあの頃に死にたかった。
ねえ、神さま。
もしもやり直せるなら、次は綺麗に生きたいです。
贅沢は言いません。
普通に、平凡に。
綺麗な体で普通に生きてみたい。
薄れゆく意識の中で神に願った。
──しかし、それは私には過ぎた願いだったらしい。
気が付くと知らない世界に体一つで投げ出され、人買いに攫われ、娼館に売り飛ばされていた。
何故か言葉を理解できたことで、自分の身に起こっている状況を把握できた事は幸か不幸か。
ああ。
私はまた、体を売って生るのか。
結局逃げられない、幸せにはなれない運命なのだろう。
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