美醜逆転~空っぽの私と、淋しい貴方

むぎてん

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転移の魔法で自宅屋敷に帰った俺は、足早に執務室に向かった。
デスクの後ろの家具調金庫に手をかざして認証魔法で解錠し、店主の提示した金額の三倍の金を取り出して袋に詰めた。


俺は、彼女にどう謝っていいのか想像も付かない。

きっと優しい両親は彼女を目に入れても痛くないほどに大切にしているだろう。
愛し愛される恋人だっているかもしれない。

彼女を愛する者たちは、今頃必死で彼女を探しているだろう。


そんな彼女に無理やり無体を働いた俺は
どんなに金を積んでも、地べたに這いつくばって土下座をしても許されない。
この命を持ってしても、絶対に。


化け物に穢されたと他人に知られてしまえば、謗られ軽蔑され石を投げつけられるだろう。

俺が彼女から奪ったのは、彼女の人生そのものだ。




目を閉じると、瞼の裏に彼女が映る。

美しい娘。
”無”に覆われた黒曜石の瞳。
全てを悟ったような諦めの、薄い笑み。

『私の分まで泣いて』
あの時の彼女の台詞が、頭の中で悲しくこだました。







✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

「身請け‥ですか?」

「ああ、そうさね、相手はさっきの化けも‥いや、お客様だよ」

「まさか‥‥」

あんなに美しい男が、こんな私を身請け?
有り得ない。

「あの客は、ああ見えてお貴族さまだ。断ることは出来ない。あんたには悪いけどね」

貴族とは血筋のいい上級国民みたいなモノだろうか。

美しい上に貴族。
そんな男が私を身請けしようなんて意味が分からない。

だいたい、何処の馬の骨とも分からない下賤な不細工をあてがわれたと腹を立てて帰ったのではなかったか。


「だけど、あんたがどうしても嫌だというなら、逃がしてやることはできる。匿うことは出来ないけどね‥‥」

逃がす?

買ったばかりの私を逃がすなんて有り得ない。
あの男に高く売りつければ儲かるはずだ。

ああ、きっとあの美しい男はかなり ”物騒な類いの訳あり” なのだろう。
青ざめた店主の顔がそれを如実に物語っている。

「私が逃げたりしたら貴女に迷惑がかかります。私は大丈夫ですから」

痛いのや苦しいことは嫌だけど、慣れている。
目が回るような空腹だって、
嗜虐的に抱かれることだって、もう慣れてしまった。

体は若返っても、心はあの日のまま。
汚れた心はそのままだ。



あの男の本性なんて知らない。
私はあの男のことなど何一つ知らない。

それでも。
あの男の青緑の瞳の深淵を覗いてみたい。

私はあの時、ヤニに煤けたアパートで、汚れにまみれて死んだのだ。
別にまた死んでも構わない。

知らない世界で小さく灯ったたった一つの光の為に。
彼 ”だけ” の娼婦として。


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