美醜逆転~空っぽの私と、淋しい貴方

むぎてん

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前の人生も大概のジェットコースター人生の末の不幸人生だったが、今回はそれを上回るジェットコースターぶりだ。
不幸人生は避けたかったが売人の男に攫われた時点で不可避は確定した。

しかも身請け先の貴族の男はこの世の者とは思えぬほどに美しいが、物騒な訳ありだ。
きっと私は長くは生きられないだろう。

転生初っぱなからご臨終だ。

それなのに、何故か心が浮き立つなんて、
私という人間は完全に壊れてる。
きっと、ずっと前から壊れていたのだから今さらだ。




夜も明けきらぬ暗いうちから店主にピカピカに磨かれた。

「ハレの身請けにあたしのお下がりで悪いけどね、持ってる中じゃこれが一番上等なんだ」

そう言って真っ白いワンピースを着せてくれた。

買ったばかりの私に逃げてもいいと言ったり、上等な服を着せてくれたり。


「貴女は優しすぎます。騙されないように気を付けて下さいね」

「はっ、馬鹿お言い!あたしはれっきとした冷徹な商人さね!騙すことはあっても騙されることなんか無いね!」

「ふふ、そうですか」

「あんた‥‥無理して笑うこたぁないんだよ」

笑う?
いつの間に笑っていたのか。
意識もせずに笑っていたなんていつぶりだろう。

あの男の為だけの娼婦として生きて死ぬ。そう決めて、壊れた自分を自覚してから何だか呼吸が楽になったような気がする。

「無理なんてしてませんよ。多分、私は今幸せなんだと思います」

幸せ‥?
自分の言葉に自分でも驚いたが、きっと、そう、幸せなんだろう。

「‥‥‥‥‥‥‥そうかい」

「はい」

ぶっきらぼうな言葉で、けれど辛そうに顔を歪める店主に、自然な笑みとともに返事を返した。







店の前に店主と二人並んで男の迎えを待つこと10分ほど。

私たちの前に二頭立ての馬車が止まった。

外国の王族が乗っているのをテレビで見たことはあるが、生で見るのは初めてだ。
想像よりもかなり大きい。



「待たせたか」

そう言って降りてきたのは夕べの男。
明るい朝日の下で見る男は、まるで天から舞い降りて来たかのようだ。

金色の髪はキラキラと神々しく光り輝き、海の底のようだと思った瞳は、何処までも高い夏の青空だった。

眩しいほどの美貌に暗い陰りを纏わせた男が

「約束の金だ」

そう言って、店主の足下にずしりと重そうな袋を投げた。

「この娘に二度と接触することは許さない」

「‥はい」

店主は口許に手を当てて絞り出すように返事をした。
顔色が悪く、身体は小刻みに震えている。

具合の悪そうな店主に思わず手を伸ばすと、男がその手を摑んで引っ張り、私は馬車に押し込まれた。

「出せ」

男の低い声とともに馬車がゆっくりと走り出す。

小さな窓から振り返って店主を見ると、足下の金を拾うこともせずに、地面に膝を付き蹲っていた。


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