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馬車が走り出し、まずは身請けのお礼をと思い、口を開いた。
「あの‥この度は私を身請けしてくださってありがとうございます」
しかし、彼は私から顔を背けるように窓の外から目を離さずに
「違う。君を買い戻しただけだ」
と言った。
「買い戻した?」
「君を元いた場所に帰す。家は何処だ」
この世界に私の帰る場所など無い。
元の世界へなんか帰りたくない。
というか、死んでいる。
だけど‥‥
そうか。
身請けではなかったのか。
そうだ、この男が私などを身請けするはずがないと、初めからありえない事だと分かっていたはずなのに。
それでも馬鹿みたいに浮ついていた心が急激に落ち込んで冷たくなっていく。
「‥‥娼館に戻ります」
「‥は?」
「娼館に引き返して下さい。私を買い戻したお金はそのままお返しするように店主に頼みます」
この男の為だけの娼婦になれる、なんて。
私はいったい何を勘違いしていたのだろう。
「何故‥‥」
男の絞り出すような言葉と、怒ったような、傷付いたような表情。
ああ、この男には絶対に、一生、分からない。
全てを諦めて空っぽだった私の中に小さな光を灯し、”幸せ”を自覚させ、そして放り出すのか。
攫われて売られて娼婦になった女に同情し、救い出してやったと悦に入るのか。
「慈善事業ですか?そんなのは要りません」
「違う!!そうじゃない!俺はただ君に‥‥」
「娼館に戻ってください」
「何故だ!君は娼婦なんかではないじゃないか!君は君のいるべき明るい場所に戻るんだ!」
「だからそういうのは要りません。娼館に戻ってください」
「戻らない!!君が俺に抱かれたことは黙っていればいい!勿論俺も決して口外しない!店主にも口止めする!君には一生遊んで暮らしていけるだけの金も持たせよう!!だから君は君を待つ者たちの元へ帰るんだ!!」
「要りません。娼館に戻ってください」
「戻らないと言っている!!!!」
男が大声で怒鳴り、その手を振り上げた。
殴ればいい。
殴って気が済むなら、いくらでも。
しかし、彼の手は私を殴ることなく、千切れるほどの強さで腕を掴まれた。
その瞬間、ぶわりと体が宙に浮いたような感覚と、締め付けられるような圧力で思わず目を閉じた。
そして、目を開けた私が見たのは天井から吊された豪華なシャンデリアと、私に馬乗りになった男の美しい顔面だった。
「あの‥この度は私を身請けしてくださってありがとうございます」
しかし、彼は私から顔を背けるように窓の外から目を離さずに
「違う。君を買い戻しただけだ」
と言った。
「買い戻した?」
「君を元いた場所に帰す。家は何処だ」
この世界に私の帰る場所など無い。
元の世界へなんか帰りたくない。
というか、死んでいる。
だけど‥‥
そうか。
身請けではなかったのか。
そうだ、この男が私などを身請けするはずがないと、初めからありえない事だと分かっていたはずなのに。
それでも馬鹿みたいに浮ついていた心が急激に落ち込んで冷たくなっていく。
「‥‥娼館に戻ります」
「‥は?」
「娼館に引き返して下さい。私を買い戻したお金はそのままお返しするように店主に頼みます」
この男の為だけの娼婦になれる、なんて。
私はいったい何を勘違いしていたのだろう。
「何故‥‥」
男の絞り出すような言葉と、怒ったような、傷付いたような表情。
ああ、この男には絶対に、一生、分からない。
全てを諦めて空っぽだった私の中に小さな光を灯し、”幸せ”を自覚させ、そして放り出すのか。
攫われて売られて娼婦になった女に同情し、救い出してやったと悦に入るのか。
「慈善事業ですか?そんなのは要りません」
「違う!!そうじゃない!俺はただ君に‥‥」
「娼館に戻ってください」
「何故だ!君は娼婦なんかではないじゃないか!君は君のいるべき明るい場所に戻るんだ!」
「だからそういうのは要りません。娼館に戻ってください」
「戻らない!!君が俺に抱かれたことは黙っていればいい!勿論俺も決して口外しない!店主にも口止めする!君には一生遊んで暮らしていけるだけの金も持たせよう!!だから君は君を待つ者たちの元へ帰るんだ!!」
「要りません。娼館に戻ってください」
「戻らないと言っている!!!!」
男が大声で怒鳴り、その手を振り上げた。
殴ればいい。
殴って気が済むなら、いくらでも。
しかし、彼の手は私を殴ることなく、千切れるほどの強さで腕を掴まれた。
その瞬間、ぶわりと体が宙に浮いたような感覚と、締め付けられるような圧力で思わず目を閉じた。
そして、目を開けた私が見たのは天井から吊された豪華なシャンデリアと、私に馬乗りになった男の美しい顔面だった。
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