美醜逆転~空っぽの私と、淋しい貴方

むぎてん

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「娼館に戻るというのならここに閉じ込める!!」

転移の魔法で自宅に戻った俺は、薄暗い寝室のベッドに彼女を押し倒しそう叫んだ。

「他の誰にも股を開くことは許さない!!お前は死ぬまでここで俺に抱かれるんだ!」

この女がこの先娼婦として沢山の男たちに抱かれるなど絶対に駄目だ!!


「死ぬまで‥‥貴方に‥‥」

そう言った女の瞳に醜い俺が映っている。
吸い込まれたと錯覚するほどに美しい黒曜石。

「毎日毎日、朝も昼も夜も!お前が壊れてしまってもずっとずっと犯し続けてやる」

だから‥‥家に帰ると言ってくれ。
俺は、これ以上君を穢したくはない。
君を壊したくはない。

本当は、このまま君をここに閉じ込めてしまいたい。
君を抱いて、君に抱かれて、そして君の中で溺れ死んでもいい。
あの時の恍惚の瞳と甘い香りに飲み込まれて死ねたなら、どんなに幸せだろう。

そんな気持ちに無理やり蓋をして言葉を絞り出す。

「だが今ならまだ許してやる。だから‥家に帰ると、言え」

その瞬間、俺を映していた彼女の黒曜石が何も映さぬガラス玉へと戻った。

「娼館に戻ります。私に帰る家はありませんから」

「え‥‥」

「親もきょうだいも、友人も。私には何もない」

何も、無い‥‥?

「もう、いいです。貴方だけの娼婦になれるなんて、一瞬でも喜んだ自分を恥じています。私が幸せになれることはないと分かってたのに。だから、もう、いいです」

「‥‥‥は?」

俺だけの娼婦?
喜んだ?
この女は‥何を言っている‥‥

「本当に、もう、いいんです。せっかくの好意を無駄にして申し訳ありません。お貴族さまの気まぐれの慈善事業だとしても嬉しかったです」

彼女の目線が俺から外れ、何処か宙に浮いた。

駄目だ!
俺を見ろ!
頼むから俺を見てくれ。
この化け物のような俺を、君のその黒曜石に映してくれ!

「慈善事業なんかではない!」

彼女の小さな唇に噛みつくように口吻をした。

美しい黒曜石が再び俺を捉えたのを見て安心する。
そうだ、俺を見てくれ‥‥

生まれて初めてのキスはやり方さえ分からなかったが、それでも舌を入れ、角度を変えながら彼女の口内をかき混ぜた。

抵抗することなく俺の舌を受け入れた彼女の諦めの顔が、次第に赤く染まりその黒曜石がトロリとした輝きを放ち始めた。

ああ、その顔だ。
その顔をもっと見せてくれ。
化け物の情欲をその身で受け止めて恍惚の表情で達したあの時のような、その顔を。


「君が何も持たないなら俺をやる」

お前など要らぬと突き放されるとは思えなかった。
彼女の蕩けた顔が、俺を見つめる瞳がそう思わせた。

「だから君も俺のものになれ。俺だけのものに」

その瞬間、彼女の黒曜石が大きく見開かれ煌めき輝いた。

そしてその腕を俺の首に回して自らの舌を俺の舌に絡め、求めてきた。

それが返事、とでも言うように。

俺の脳天から背中に、幸せという甘い痺れが走り抜ける。


‥‥‥ああ、見つけた。
欲しくて、欲しくて、堪らなくて、けれど決して手に入れる事は出来ないと諦めていたもの。

淋しさの雪に埋もれていた俺の凍える心に初めて灯った美しい光。

俺の唯一。


愛なんて知らない。
そんなものは生まれてこのかた受け取ることも差し出すこともなかった。

それでも、俺は君を離してやれない。


だから‥‥

君が俺から離れていかぬように。
君が俺を拒まぬように。

彼女のまろい背中を強く、強く抱きしめた。


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