【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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番外編

96 芽吹き

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「すまない……今は安静にしなければいけないのに」
「ううん……話を振ったのは俺の方だし……」

 謝るレオに、力なく答えてから顔を天井に向けて目を閉じる。レオの言葉が頭の中でぐるぐる回る。
 愛。愛してる。愛してるって。これまで色恋に縁のない生活を送ってきた。免疫ゼロの俺にこの攻撃は効く。いやでも愛にも色々あるから! 友愛とか! 親愛とか! そもそもなんでそこまで俺を想ってくれているのか謎すぎるが、今はそれを問いただす気力がない。
 しばらく胸の高鳴りに振り回されていたけれど、徐々に頭がぼんやりしてくる。体から余計な力が抜ける。ようやく抗不安薬が仕事を始めたらしい。深く息をつく俺に、レオが静かにささやいた。

「医者からは多重人格という診断を受けたが、神父には悪魔憑きだと言われたんだ。私としても、そちらの感覚に近いように思える」
「……レオナルド・ロンバルディに、レナードが取り憑いたっていうこと?」
「レオナルドの遺体に私の魂が乗り移った形になっているから、アンデッドと言った方がより近いかもしれない」

 でもレオは生きているし、ゾンビみたいに腐ってはいない。疑問が顔に出ていたのか、レオは困ったように笑って、右手で自分の左腕に触れた。

「この体は確実に死んでいたそうだ。医者も死んだと判断した。私の魂が乗り移ったのは、心臓が止まって半日たってから。そのせいで、体の左側の感覚が今でも鈍いままなんだ」
「……全然気が付かなかった」
「世界を渡ったのに、この程度で済んでよかったよ。リハビリのおかげで調子も良くなった。日常生活に支障はないし、今日みたいに軽い運動ならなんの問題もない」

 レオは軽く言うけれど、後遺症が残っていたなんて。言葉を探しているうちに、レオが再び俺の手を握り締めた。

「今の私は、魔法も使えないし、体も頑強とは言えない。この世界で私のできることは限られる。それでも、君の役に立てるように努力する。レオナルドにはならない。ずっとレナードとして生きていく。だから……これからも、依澄の傍にいてもいい?」
「そんなの……」

 傍にいてほしいに決まっている。俺だってレオが好きだ。でも、それは利己的な感情で。だから俺はレオのために離れようって思ったのに。――それなのに、愛してるなんて。気軽に言いやがって。
 俺は苛立ちを隠さず、レオを睨みつけた。

「……そんなこと言っておいて、もし、あっさりとレオナルド・ロンバルディに戻っちゃって、俺のこと忘れたりしたらさぁ……レオのこと絶対許さないよ? 病気だから、悪魔憑きだから仕方ないなんて思わないからね? よくも俺を裏切ったなー! ってめちゃくちゃに暴れて、身も世もなく復讐してやるけど、その覚悟はある?」

 半ば脅しつけるように本心をぶちまけると、レオは目を丸くした。
 言葉にしてみて、俺自身も自分の発言の痛さに引いてしまう。でも、裏を返せば、怖い。精神的に弱っているときに、都合よく頼れる人が現れて。俺を愛して、守ってくれるだなんて。そんなの絶対依存する。一度レオに寄りかかってしまったら、きっと一人で歩けなくなる。
 ――ただ素直に奇跡を受け入れるには、俺は弱すぎる。
 俺の脅しに驚いた表情をしていたレオだったが、それも一瞬のこと。レオは頬を緩めてふふっと笑った。

「なんで笑ってんの!?」
「いや……やはり、君は、私が愛した君なんだと思って」
「なにそれ……」
「そのときは復讐してくれてかまわない。もちろん、私は君にそんなことをさせないけれど」

 蕩けるように微笑まれて、俺は思わず視線を中空へさまよわせた。レオが遠慮がちに俺の手に指を絡める。その手の温かさにほっとする。執念深くて醜い本性をさらけ出しても、レオは俺から離れていかない。そう確信させてくれる温もりだった。
 深い安堵が眠気を誘う。重たくなったまぶたを閉じかけたとき、レオが再び問題発言をかましてくれた。

「よかったら、今日は私の家に泊まってほしい」

 思わず目を見開く。この美形は何を言っているのか。俺の気も知らず、レオは心配そうに俺を見ていた。
 
「今の依澄を一人にしたくない。客室は用意してあるし、食事も用意できるし……食欲はある?」

 あくまで無垢なレオに、俺は脱力してうなずいた。そんな俺にレオが嬉しそうに微笑む。
 普通、愛していると告白した後で「家に泊まって」なんて言われたら、下心があるものとして警戒するけれど。レオは人の隙に付け込んで無体を働く輩ではない。付き合いは短いが断言できる。
 今度こそ目を閉じて安静にする。レオとの間に穏やかな沈黙が下りる。気持ちが凪いでいるのは薬のおかげだろうけれど、つながったままの手が何よりも心強かった。
 レオのすべてを信じる勇気はないくせに、レオが差し出してくれる無償の愛を、拒めない。
 俺だって応えたい。レオの想いに。
 どうするのが最善なのか、今はまだわからないけれど。いずれ「愛」と名付ける感情の種は、迷っている間に俺の中で芽吹いてしまっている。
 この小さな芽は、きっと強い嵐にも負けない。なにもかも乗り越えていく。そうであってほしいと願いながら、俺はレオの手を握り返した。
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