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第11話 魔王サマと居酒屋へ
しおりを挟む「なんだ、そんな顔で俺を見て。ついに俺に惚れたか?」
キリクに前世での話を聞いた次の日。
私は会社のデスクで足を組みながらコーヒーを飲む魔王の前に立っていた。昨日の話が本当なのか確かめたかったのだ。
「そんな訳ないでしょう。それより、聞いたわよ。私が殺されたって日のこと。それについて詳しく聞かせてほしいの」
キリクから教えてもらった話は衝撃的だった。まさか自分が味方に殺されていたなんて思いもしなかった。
だけど彼の話だけを聞いて信じるのも良くないと思った。
それに魔王城に連れ去られたときの話も……うん、ちょっとは気になっているし。すると魔王はニヤリと笑って立ち上がった。
「ほう、お前もようやく俺の女だったことを理解したか。だが俺は独占欲が強いぞ。それでもいいなら相手になってやる」
「は? 誰があんたみたいなドSな奴の嫁になんかなりますか。それに今の私は聖女なんかじゃないの。死んだ女のことをいつまでも引きずっているような男なんて、いくら顔が良くてもお断りよ」
そう言って睨むと魔王は楽しそうに笑い声をあげた。
そして私の顎を掴んで持ち上げると、顔を近づけてくる。たとえ傷があろうとも、その美しさは損なわれていない。女である私ですら羨ましくなるほどの美形だ。
って違うわよ。こいつ、また私を襲うつもりじゃ――!? だけど魔王はすぐに離れて、指先で唇に触れてきた。
その手を振り払おうとするが、魔王の力が強すぎて振り払うことができない。
魔王はそのままゆっくりと口を開いた。その瞳はまるで愛しい者を見るかのように優しいものだった。
「ああ、そういえばそうだったな。聖女イーグレットではなく、今はただの千鶴として生きているんだったな」
「そうよ。だからその手を離して!」
だけど魔王は一向に手を放す気配はない。それどころかそのまま頬に手を添えてきた。
そして真剣な眼差しで見つめられる。あまりの顔の良さに胸がドキドキする。
ううっ、イケメンはずるいわ。顔が赤くなっていくのが分かる。きっと耳まで真っ赤だろう。どうしたのよ私……こんな時にときめくなんてどうかしてるわ。
「……では改めて自己紹介しよう。我が名はゾディアス・ジスティリア。世界最強の魔王であり、そして白鷺千鶴に魂を捧げたただの男だ」
「……っ!」
「たとえ世界を超え、見た目が変わろうとも。俺はお前を愛している」
魔王の告白に、心臓がどくんっと大きく跳ねる。
なにこれ。今までで一番恥ずかしい!
「ふっ、照れている姿も可愛いな。だが安心しろ。今すぐ喰らったりはしない。千鶴は俺のものだ。誰にも渡さん。例えそれが我が同志である勇者だろうともな」
そう言うと魔王は私から離れていく。どうやら襲う気は無いようだ。
しばらく無言で見つめ合う私たち。そこへ久豆課長が手に書類を持って現れた。
「魔王様、そろそろ会議の時間ですが……」
「分かっている。すぐに行く。……さて、千鶴。今日は残業せずに帰れよ。たまには一緒に夕食でも食べよう。話はそこでする」
そう言い残すと魔王は会議室へと向かって行った。残された私は熱くなった顔を押さえてその場にしゃがみ込む。
「もうやだ……あの魔王……。ほんとうに反則だわ……」
認めよう、私はあの魔王に惹かれ始めている。あんなことされたらますます好きになるじゃない。
だけど魔王は私を食べたりはしないと約束してくれた。ならば魔王が飽きるまで付き合ってあげるのもいいかもしれない。
だって、魔王は私のことが好きだと言うんだもの。仕方がないわよね?
「はぁ……これからどうなるのかしらね」
―――さて、仕事に戻るか。
私は気持ちを切り替えるために深呼吸をしてからゆっくり立ち上がる。
「……課長、まだそこに居たんですか」
「いや、君も会議に参加するんだからね?」
「…………課長、どうして仕事中に猫耳カチューシャを?」
「仕方ないだろ、魔王様がコレを付けろって言うんだから」
私は久豆課長の寂しい頭に装着されたフワフワの黒猫耳を眺めながらため息を吐いた。
そして夜になった。
定時で仕事が終わった(何故か終わっていた)私は魔王に呼び出され、オフィス街にあるちょっとお洒落な和食店に来ていた。店内は落ち着いた雰囲気があり、客層は女性が多い。
まあドレスコードがあるわけでもない。異世界の魔王が選んだお店だし、日本のマナーにそこまで煩いこともないでしょう。
店員に案内されて個室に入ると、魔王は既に待っていた。
「待たせたかしら……ってなんで和服を着ているのよ」
「いや、俺も先ほど来たところだ。それよりも座れ」
和服のことに対するツッコミに答えることなく、魔王は私に着席を促す。大人しくテーブルを挟んだ彼の正面に座ることにした。
「……馬子にも衣裳? いや、魔王にも衣装?」
「お前は何を言っているんだ?」
「私にも分かんないわ……」
いつものスーツ姿とは違い、着物姿で髪もセットしている魔王はとてもカッコ良かった。
なんだこのイケメン。本当に魔王なのかと疑ってしまう。思わず見惚れてしまったが、魔王は私を見つめたまま動こうとしなかった。仕方なく私から話しかけることにした。
魔王の向かい側に腰掛け、メニュー表を手に取る。
「それで、話を聞かせてくれるんでしょう? まさかとは思うけど、またウダウダと口説くつもりじゃないわよね」
「それは後回しだ。まずは食事にするぞ。ここの料理は絶品だからな」
「そう、じゃあ楽しみにしているわ」
そう言って微笑むと魔王は目を大きく見開いた。え、なにその反応。そんなに驚くようなことをした覚えはないんだけど。
「やはり俺の嫁は最高に可愛いな。だが油断は禁物だ。お前は俺が守るが、もし他の男に口説かれたら迷わず股間を蹴り上げろ。いいな」
「ちょっと待った。誰が誰の嫁よ!」
まったく失礼しちゃうわね。そもそも私がコイツの奥さんなんかになったら、私の貞操の危機よ。いくら顔が良くても、中身はドSの変態魔王よ。
絶対に無理! それに魔王が私に首輪とか付けて飼うって言い出す未来が見えるもん。それならいっそ殺された方がマシよ!
「ほら、早く注文しましょうよ。私もうお腹ペコペコなの」
私は魔王の言葉を全力で否定し、食事を注文することにした。
魔王は不満げにしていたが、無視してやった。
「そうだな。では注文するか」
魔王は手を上げ、店員さんを呼んだ。
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