21 / 45
第21話 泣き虫ドワーフ
しおりを挟む「ヴェルデちゃんはドワーフだけど、フルーツが好きなのね? 陛下くんも好きなのよ」
酸味のあるルビー色のフルーツが乗ったタルトを食べる私を見て、オーキオさんがそう言った。
「そうなのですか?」
「ええ。昔から果物には目がなくてね。食は細いのに、わざわざジャムやソースにして食べるぐらい好きなのよ」
あの子は昔から好き嫌いが多いから、食事には気を遣うのよね~と小声で付け加えるオーキオさん。いやそれ絶対私の前で言っちゃダメですよね?
「笑っちゃうでしょ? 皆の前じゃ大人ぶっているけど、まだまだ子供なのよ~」
「そ、そうですか? 王様としてしっかりお仕事をされていると思いますけど……」
「いや、あれは仕事っていうよりも……まぁいいわ」
オーキオさんはなぜか歯切れ悪くそう言うと、デザートの残りを全て口に含んだ。
それにしても、と私は自分のお腹をさすってみる。テーブルの上の料理はまだ沢山ある。けれど私のお腹はもう張り裂けてしまうほどに一杯だ。
「さてと、ヴェルデちゃん」
デザートを食べ終わり手を合わせたところで、オーキオさんが私に問いかけた。
「ヴェルデちゃんはこの先、この国でどうしたい?」
「え……?」
「色々と行き違いがあったけれど、私たちは貴女を歓迎するわ。でも一番は、ヴェルデちゃんがやりたいことを尊重してあげたいの。もしもドワーフの国に帰りたいというのであれば、それもできる限りサポートするしね」
「それは……」
彼女の口から放たれたそれは、意外な言葉だった。
(私は……どうしたいんだろう……?)
そんなの決まっているじゃない、とすぐに答えられるほど単純な性格だったらどんなに楽だろうと思う。
これまで地下牢獄で死ぬに死にきれず、ただ生きることを目的に生きてきた。もう一度両親に会いたいという願いも叶わなくなった今、自分のやりたいことというのがまるで無いことに気が付いてしまった。
私が黙り込んでいるとオーキオさんは困ったように苦笑した。
「いきなりこんなことを聞かれても困るわよね? ごめんなさい」
「いえ……」
「……でもね? 陛下くんは貴女のこともキチンと考えているわ。今まで辛いことばかりあったでしょうに、それでも必死で前を向いていた貴女のことをね」
「コルテ様が……?」
オーキオさんはもう一度私の手を握ると、優しい微笑みを浮かべながら話をつづけた。
「さっきは『やりたいことを尊重する』って言ったけれど、本当はね? 本当は……うちの陛下くんとヴェルデちゃんが夫婦になってくれたら嬉しいと思っているのよ」
「え!?」
「ヴェルデちゃんには酷な話かもしれないけど、貴女のような純粋な子が陛下くんを支えてあげてほしいの。だからもしも貴女が望んでくれるなら……私たちの家族になってくれないかしら?」
「……」
私の脳裏に不意に浮かんだのはコルテ様の微笑みだった。
「でもコルテ様には本命の方がいる……んですよね?」
「本命!?」
あれ、オーキオさんも知らなかったのだろうか。目を瞠ったままピシリと固まってしまった。
「はい。寝言でフィオレさんという名前を呟いてました……大事な方が居るって仰っていましたし、きっとその方と結ばれたかったはずなのに、私のお兄様のせいで無理やり婚姻をさせられて……私のこともきっと、本心では恨んでますよね」
「ちょ、ちょっと待って? 何か重大な誤解をしているわよ……って、ヴェルデちゃんどうしたの?」
自分でも気付かぬうちに瞳から涙がぽろり、とテーブルクロスに零れて黒いシミを作る。
私は罪人で、人に愛される資格なんてない。なのにずっと『いつか誰かが私を愛してくれる人が現れるのでは』という期待を手放せていなかった。
そこへエルフの国に来てからコルテ様と出逢った。
あの人はきっと、そう簡単には私を見捨てないだろう。こんな出来損ないの私に優しくしてくれるような、素敵な人なのだ。
だけど私が我が儘を言って甘えていいような人ではない。それはちゃんと分かっている。
「コルテ様の妻なんて贅沢なことは言いません。ですがこの国に置いてもらえないでしょうか……どんな仕事でも、頑張りますので……あの国にはもう帰りたくない……」
「だ、大丈夫だからそんな泣かないで……って今度は顔が真っ赤よ!?」
「あ、あれ?」
そういえば視界がぐるぐるしてきた……顔もポカポカしている。
喋っているうちに、急に頭がポワポワしてきたような? それに呂律が上手く回らないわ……。
「おかしいわね、ワインもグラスの半分しか飲んでいないわよ? ドワーフはお酒に強いはずなのに……」
「こりぇ、お酒だったんでしゅか? えっと……私ひゃ、飲んだことがにゃいので……」
顔を引き攣らせていたオーキオさんが「えっ」と言葉を詰まらせる。あれ、私また何かやっちゃいました……?
「……ジェルモ。またお願いできる?」
「わかった、俺がベッドに連れてくよ……まったく、随分と手の掛かる妹ができたな」
二人の苦笑いが聞こえる中、私の意識は遠のいていった。
気絶するの、二回目だよぉ……。
0
あなたにおすすめの小説
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる