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第37話 剣聖が本気を出してきた話
しおりを挟む俺達が神像のある最後の部屋へとやって来ると、そこでは予想通りの惨状が広がっていた。
「う、ぐ……クソが……」
地面にあるのは無数に散らばる黄金色の破片。そして片腕を失った状態で無様に転がされている、ビーンの姿だった。
「ビーン!! 大丈夫!?」
「く、来るんじゃねぇ!! コイツは俺の獲物なんだっ……」
「何を言ってるんですか!! ほら、回復薬ですっ。飲んでください!」
ビーンはミカに抱きかかえられながら、貴重な回復薬を口に運ばれている。これで止血はできるだろうが、失ってしまった右腕は神薬でもない限り再生しない。
「ぐうぁああっ……!!」
傷口が塞がる際の痛みは相当なものなのだろう。ビーンは苦しそうな呻き声を上げている。ついさっきまでの自信満々な態度とは違い、非常に弱々しい姿だ。
しかし、腕を失っちまったのか……。
冒険者にとって手足の有無は重要だ。万全の状態でない限り、この生業を続けていくのは厳しい。
つまり、奴はここでリタイアが決定してしまったも同然というわけだ。気落ちするのも当然だな。
さっきは本気で殺されかけた手前、コイツには同情なんてしないが……こうなってしまうと、少しだけ哀れみの感情が湧いてくる。
っと、今はそれよりも――
「……よう。絶好調みたいじゃねぇか、吸血女王さんよ」
「……」
相変わらずつまらなさそうな表情だ。元剣聖はやはり自我が無いのか、挨拶をしても返事は全くない。
ビーンの返り血で赤く染まっているシルバーの鎖。まるで意識を持っているかのようにウネウネと動きながら、彼女の周囲を常に守護している。……なんだか本体よりも、鎖の方が感情豊かな気もするな。
「ヴァニラ先輩……やっと、解放しにきましたよ」
ビーンとキュプロを避難させ終わったのか、ミカも俺の隣りにやって来た。
普段の馬鹿っぽい態度は鳴りを潜め、真剣な表情で戦闘モードに入っている。
クク……ついこの間ここへ訪れたばかりなのに、なんだかあの頃が懐かしいな。
「さて、リベンジマッチといこうじゃないか。進化した俺と一緒に踊ろうぜ?」
腕輪を起動し、宝剣を握る。ミカもほぼ同時に起動したのか、白と黒の魔法盾が二人をそれぞれ包み込んだ。
コイツの実力はもう、十分に分かっている。防御はしっかりとしないと、簡単にやられちまうからな!!
「迂闊に近寄らない方が良いですよ! あの時だってこの人、本気じゃなかったんですから」
「え……本気じゃないってどういうことだ?」
「ごめんなさい、ジャトレさん。実はあの晩、私はソロでこの人と手加減なしで殺し合ったんです。私の本気でも、ほとんど手も足も出ませんでした」
ちょ、ちょっとミカさん? そんな話、俺は全然聞いてなかったんですけど……?
……ん、まてよ?
あの晩ってまさか、朝起きたらミカがボロボロになっていた日の話か!? お前、なんちゅう無茶しやがったんだよ!!
「第二形態……とでも言うんでしょうか。鎖を束ねて作った大剣を振るっていました」
「そういう大事な情報は前もって共有しとこうぜぇええ!?」
前動作なしで吹っ飛んでくる鎖を避けながら、遅すぎる情報を告げるミカに叫ぶ。
前回は避けられもしなかったから、進化した甲斐はあったようだ。……でもコイツにはこれ以上があるってことだろう?
ていうか剣聖が剣を持ったら、それこそ誰も敵わないんじゃ?
「大丈夫です。今のジャトレさんと、キュプロさんの装備。そして私の魔法があれば!!」
「ホントだな!? その言葉を信じるからな!! もう死にたくねぇぞ俺は!!」
宝玉の中に残っている財宝も少ない。つまり俺の命のストックもあと僅かだ。
幾ら俺が相手の攻撃を見て覚えるのが得意だといっても、その度に殺されていたらマジで金も命も尽きちまう。
「ほら、もう第二形態が来ますよ!!」
「え? もうかよ……ってなんだアレは!?」
会話中もシルバーチェーンを避けまくっていたら、ミカが叫び声を上げた。
ふと吸血女王の方を見ると、たしかに様子がおかしい。こちらへの攻撃を止め、自身を鎖でグルグル巻きにし始めたのだ。
「な、何をしているんだ!?」
「以前私がボッコボコにされた、大剣モードの準備ですよ! 気を付けてください。あぁなったヴァニラ先輩は、パワーもスピードも段違いでしたから!」
「ま、マジかよっ……くぅ!? なんて重たい殺気だ!!」
まるで卵か虫のサナギのように丸く包まったかと思えば、火の中にくべた木の実のように突然爆発した。
その瞬間、とんでもない圧力が俺達を襲う。さっきよりも数倍以上の殺気が暴風のように溢れ出ている。
マズい、ちょこまか動きすぎてイラつかせちまったか?
「アレが、剣を持った本当の剣聖……」
鎖を限界まで圧縮することで無理やり作られた、銀色に輝く大剣。それは切れ味を重視するよりも、叩き潰すことに重きを置いた鈍器のような風貌をしている。
とにかく、デカい。彼女の小さな体格にはあまりにも不釣り合いなほど巨大だ。
だがヴァニラはそれを自身の身体の一部のように、片手で軽々しく振るっている。
「はは、こりゃマジで死ぬかもな……」
視認できない程の速さで剣を素振りしながら、こちらへ近づいて来る銀髪の処刑人。
だけど俺だって引くわけにはいかない。
「――ミカ」
「はいっ!!」
隣りに居るミカと頷き合うと、俺はもう一つの新装備であるクロスペンダントを力を込めて握りしめた。
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