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第44話 金の亡者に起きた異変の話
しおりを挟む「そんな……お姉ちゃん……」
思っていたような感動の再会とはいかず、独り残されてしまったミカは肩をガックリと落とす。
これは……あまりにもミカが可哀想だ。
俺とヴァニラは互いに顔を見合わせた後、同時に頷いてミカに駆け寄った。
「あまり気を落とすなよ、ミカ。仮にアイツが本当にサリアだとしても、もしかしたら何か事情があるのかもしれない。今は少し距離を「関係のないジャトレさんは黙っていてください!!」ミカ……」
慰めようと肩に置いた俺の手を、ミカにバシッと振り払われてしまった。振り返った彼女の瞳は涙で溢れそうになっていた。
「すみません……これは……私とお姉ちゃんの問題ですから……」
ミカはあくまでも、あの女がサリアなのだと心から信じている。だからきっと今はそれを誰にも否定して欲しくなかったみたいだ。
彼女は「放っておいてください」とか細い声で呟くと、街のどこかへと走り去ってしまった。
「おい、ヴァニラ。お前も黙ってないで、何か言葉を掛けてやれよ……」
なんだか俺がフラれた痛い男みたいじゃないか。
ていうか、お前らは俺より付き合いが長かったんだろ? だったら、ちゃんとフォローしてくれよ……。
「残念至極。でもアレはサリアであって、サリアではない」
「……?」
腕を組みながら、何かを考えている様子のヴァニラ。彼女は意味ありげな事を言っているようだが、俺には全く理解できずに首を傾げてしまう。
「つまり、中身はサリアとは全くの別人だった……」
「はぁ? つまりはどういうことだよ」
「身体はサリア。でも中身は違う」
……答えになってなくないか?
余計に意味が分からん。
サリアなのにサリアじゃないって……?
「おいおい。まさか、中身だけが他人と入れ替わったってことか?」
ははは、まさか。
そんな訳の分からないことが起こってたまるかよ。
だがヴァニラが冗談を言っているようには見えない。いたって真面目な表情で俺を見詰め返してくる。
「――クソっ! 考えれば考えるほど、頭が痛ぇ……なんなんだ? この何かが頭の中で引っ掛かるような感覚は」
これは既視感なのか?
前にどこかで似たようなことが……
「クッ、駄目だ。モヤが掛かったみたいに頭がぼんやりしてやがる」
ここ最近、こんな感じに思考が鈍ることが増えてきた気がする。それもサリアの話を聞いてから急激にだ。
あの女が俺に何かしたのか? いや、そうに違いない。その証拠に、さっき本人らしき人物見たら余計に悪化してきやがった。
直接は話しても触れてもいないはずなのに、どうやって?
しかも、俺が居ることすらアイツは認識していなかったはずなのに……。
……いや、待てよ? そういえば、とあるモノが原因で近い境遇になっている奴が居たな。
「おい、まさか」
「当意即妙。サリアも宝玉の呪いに掛かっている可能性がある。だけどジャトレ様。それより今はミカを追わないと」
そ、そうだな。
アイツ、サリアとは違う方向に走って行った。俺の予想通りなら、急がないとかなりマズい状況になりそうだ。
「ミカちゃんはきっと、宝玉を使ってサリアを元に戻そうとする」
「あぁ。今すぐ家に帰ろう。ミカが早まる前に」
俺の屋敷には、岩窟ダンジョンで手に入れた未使用の宝玉が置かれたままだ。
今のところ使い道は保留になっていたのだが、あの様子だとサリアを元に戻そうと使ってしまうかもしれない。
俺達は来た道を引き返し、急いで俺の屋敷へと戻る。
すれ違う奴らに何事かと見られたが、そんなの関係ねぇ。苦労してようやく手に入れた宝玉を使われてたまるもんか……!!
「はぁ、はぁ……クソ。全力でも追い付けねぇってアイツ、どんな体力してんだよ」
「ミカはもう、屋敷の中に居るみたい」
「あぁ、早く止めよう……!!」
疲れた身体を鞭打って、俺たちは急いで中へと入る。間に合うと良いが――
「おい、ミカ……!!」
案の定、ミカは俺の部屋に居た。
だが、様子が少しおかしい。
手には宝玉を持ってはおらず、途方に暮れたかのようにただ立ち尽していた。
何が起きたのだろうと近付いてみると……
「ジャトレさん、これ……」
「おい、なんだよ……はぁっ!? ど、どうしてアイツが……!!」
震える手でミカが指差していたのは、空になった金庫。
そしてキュプロの字で綴られた、謝罪の手紙だった。
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